Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2009年 12/10号 [雑誌]Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2009年 12/10号 [雑誌]

文藝春秋 2009-11-26
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Number 742(2009年 12/10号)は、本戦出場全32カ国が決定したサッカーワールドカップの総力特集。Numberでサッカー記事を書いている様々なライターが世界に飛び、全ての国について詳細なレポートを書き上げていて、非常に読み応えがあります。もちろん、書き手によって色々と特色があるので好き/嫌いが分かれることはあるかとは思いますが、総合的に見て良い出来です。

でも特に素晴らしいと思ったのは大きくページが割かれている各国の戦力分析のページ...ではなくて、それぞれの国におけるサッカーそのものを描き出している記事でした。
中でも宇都宮徹壱さんによる、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、スロベニアそれぞれのW杯予選を描いた「バルカン半島の新たな鼓動」は白眉でした。「サッカーは素晴らしい」とか「戦争は悲惨だ」とかだけではない、今そこに生きる人間達にとってサッカーがどんな存在で、それが社会にどんな影響を及ぼし、そしてそれぞれの人間がどのように変化していったか...そんなルポタージュです。

内戦を経て1つの国が実質的に7つの国に分裂した今、それぞれの国民の間には深い憎悪が横たわっているものだと思っていました。確かにそういう側面もあるのでしょうが、宇都宮さんの文章を通してみた旧ユーゴスラビアは、それぞれの民族があるべき姿に帰った、というのが正しい気がしました。悲惨な過去も含めて様々な過去があり、1つの国を形成していた時代は終わったけれども、それでも隣人であることには変わりがないというような。

何か非常に多くのことを考えさせられる文章でした。



また、同じルポタージュとして、金明昱さんによる北朝鮮の潜入取材、「北朝鮮 44年前の奇跡をもう一度」にも心を熱くされました。大阪生まれの在日コリアン3世ということで、北朝鮮密着取材なども行ってきた方のようですが、だからといって距離を置くのでもなく肩入れするのでもなく。ジャーナリストとしてバランスの取れた文章でした。

文中に登場する監督/スタッフの考え方、ヨーロッパのやり方を持ってきても成功はしない、我々アジア人にあったやり方で世界を驚かすんだ、その考え方にちょっと感銘を受けました。これがもし殆ど鎖国状態の国で、他国の状態なども知らない中での勝手な妄想なのであればそこまでは思わなかったと思いますが、北朝鮮も本気だということなんでしょう、サッカー関係者(特に分析担当スタッフ)の海外サッカーの知識は僕らが思うようなものではないようです。国家の組織として決定までのプロセスが少ないからという特徴のおかげでしょうが、はっきり色の見えない中途半端な施策が繰り返されてうんざりする事が多い我が国のサッカー協会のことを考えると、不覚にも羨ましくなってしまいました。




サッカー始めスポーツを見ているときや、関連書籍を読んでいるときは、それを娯楽として受け入れているのであって決して文化の勉強をしたいと思ってしているわけではありません。だから「Number」を読むとき、そんな文章ばかりが並んでいたらそれは多分白けてしまうだろう(文春には他にも雑誌あるだろ?)と思うのですが、今回に限っては、その娯楽と社会のバランスが秀逸で深く濃い1冊でした。これは永久保存版かもしれません。


......と思いながら、風呂に入りながら感動していたら、端っこをお湯に落としました。幸い、ページ角3センチくらいが浸かっただけでしたが...

なんてこったい。そんなの読んでみないとわからんもんよー