Sports Graphic Number 961号(2018/9/13発売)は「越境フットボーラー欧州戦記。」。
「越境フットボーラー」という単語を作ったのが誰かは知らないけれど、Numberでこの表現が出るときはヨーロッパを主とした海外でプレーするサッカー選手のことを指す。今やサッカーは、日本のスポーツ界において最も多くの選手が海外でプレーしていると言っても過言ではないし、世界のトップリーグで活躍する選手もいるほどになったけれど、確かに昔はそんな選手はほとんどいなかった。カズがバレージに鼻骨を折られ中田がペルージャに移籍する前、海外でプレーしかつ活躍したとまでなると奥寺康彦さんか尾崎加寿夫さんぐらいで、本当に多くの選手がプレーする現在の状況は、週刊モーニングで連載中のサッカー漫画「Giant Killing」が置いて行かれるほどの状況になっている。
「Giant Killing」ではJリーグ所属選手主体の日本代表チームに海外組4人が加わることで活性化するという描写が出てくるけれど、2018年ワールドカップ代表では23人中15人が海外でプレーしており、いまや海外組の方が多い。2007年の連載開始から現在までの間に、現実が漫画を追い抜いてしまった。
そんな中で企画されたこの企画は、中田以降の海外移籍選手を特集しながら徐々に現代に目を移していくスタイルになっていて、その巻頭を飾っているのがライター金子達仁氏のテキスト。率直に言うと僕は彼のテキストがこれまでとても苦手で……得意なスタイルは「情緒的」「芝居がかった言い回し」そして「日本代表に対する逆張り」。彼なりの美学であり、ライターとして目立とうというスタイルではあったと思うけれど、それが僕にはとても不快に思えることが多々あって、彼のサインが入ったテキストはなるべく見ないようにしていた(同じことはかつてNumberに多く寄稿していた杉山氏にも言える)。
前置きが長くなったけど、中田と親交が深いということから選ばれたと思われる、金子達仁氏の巻頭テキストがとても良い。情緒的で感傷的なテキストは相変わらずで、「Number、長嶋、中嶋、野茂、そして中田。」「すべて頭文字は、Nである。」という表現には苦笑いしか出なかったけれど、その後の「中田とはなんだったのか?」を冷静に公平に記述しつつ、「越境フットボーラー」の将来の展望を緩く描いていく感じはとても好感が持てた。そうだ、当時はまだネットも十分に普及しているとは言えない時期でマスメディアの報道も過熱しがち、日本代表に対して悲観的な見方が多く、批判し貶そうと手ぐすね引いている状態だった(当の金子氏も悲観論者の一人だったけれど)。
中田はその中を軽やかに走り抜けて、29歳で引退してしまった。
トッティなんか良いから中田を出せよ!って思いながら試合見てたの思い出した。
その時代性と、現代との感覚のギャップが、金子氏のテキストに妙にマッチしていて、とても爽やかだった。こんな文章も書けるんだなというか、この記事を書くに当たって最近の金子氏のテキストをパラパラ見た感じでは、歳を取られたということなのかも知れない。本質的には変わらないんだろうけど、日本のサッカーが世界に近付くにつれて日本のサッカーが好きになってしまっている感じすらある。死ぬまでアンチ・ポジションを守り続けるライターもいる中で、とても好感を持てた。
中田がペルージャに移籍してから20年、日本のサッカーも随分と変わったもんだなあ。
次の20年ではどんなことが起きるんだろうか。