社会人の夏休み

社会人になって以来、夏休みなんてものをもらったことはありませんで、せいぜい「夏に気晴らししたいから有休使う」程度のことだったのですけど、それでもまあ「夏だしね」的な感じで割と問題なく休むことが出来、結果的に「夏休み」みたいなものをもらってはいました。ただ会社は夏だろうが冬だろうが動いているわけなので、社員それぞれが代わる代わる休みを取るのが一般的で、会社(もしくは特定の部署)ががっつり休みになると言うことはありませんでした。 いや、なんか大仰に書いてますけど、普通ですよね。日本の社会人として。 んで、昼お世話になっている会社は、今夏休み中なわけです。1週間、全社員が休み、店はもちろん閉店してるし、電話も取らないしメールも読まない。休みは(給料が減ることを除けば)嬉しいし、「おー」と思ったのですけど、でもよくよく考えると、会社で通販やってて1週間休んじゃうってすごいよな-。僕が社長だったら、時期ずらして1週間ずつ休みをって言ってしまいそう。 これは僕の中の「業務を止めてはいけない」という固定観念なのかなとちょっと思ったけど、いやそれもあるんでしょうけど、それ以上にこの会社っていうのは基本的に「小売店舗のメンタリティ」なんですね。僕の業務内容が前職とあまり変わっていなくて、僕自身の軸足がネット通販にあるから思い至らなかったのだけれど、リアル店舗を軸足に会社経営を考えるのなら、店舗の「夏季休業」って普通ですよね。普通に見掛けますし。そっか、僕と会社の考え方のすれ違いってそういう軸足を置いている場所の違いによるものなんだな、と、夏休みを焦点にしたら見えてきました。まだまだ会社にとっては、売上はともかく意識の上では、店舗がベースでネット通販はオマケなんだろうね。 そうねえ、考えてみれば昔はレコードショップもそうだったなあ。店頭で聴いて買うお客さんが第一で、通販は店頭での体験を再現する存在でどうしても店頭に行けないお客さんが利用するもの、みたいな。でもJET SETの求人情報でのコメント見ると、もはや店舗は売り上げを作るためのものでは無くて、カフェとかバーとかに近い存在なんだなという感じがあります。 売りたいものは、自分たちで作る。アナログレコードを盛り上げるJET SETの挑戦 | クリエイティブの求人情報サイト-CINRA.JOB これはもう僕が在籍してた頃からそうで、違いは、売上が減って存在意義がふわふわしていたリアル店舗の存在意義が、割とかっちり決まってきたことくらいかな。 もちろんすべての業種がそうなっていくわけではないけれど、可能なものはそういう形態に変わっていくのが時代の流れだし、変わっていかない業種における通販のあり方というのは、もう一度考えてみても面白い議題かもなあと、 何か夏休みの話題からすげえずれてるけど、思ったりしました。

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「フォーク並びを徹底してほしい」

【第14回MMD杯本選】フォーク並びを徹底してほしい【KAITO】 確かにフォーク並びは良いシステムだと思うし、そもそも売り場はそれを前提として設計されるべきだと思っているのですけど、それでもやっぱり店と客の意識の高さが必要なんですよね。 わかりやすい話をすると、 近所のスーパー、混雑時にはレジが最大で5つまで開けられるんですけど、通常は真ん中の2つしか使っていないません。ちょうど2つなので、開店以来なるべくフォーク並びで並ぶようにしていて、僕と同じように考えている客も多かったように思うのですけど、ある日行ったらレジのところに「レジ毎に1列にお並び下さい」っていう張り紙が貼ってあって、要するに「フォーク並び禁止」の告知でありました。 まじかよーとは思ったんですけど、うん、特に夕方なんですけど、おばさん、ばあちゃん、じいちゃんが大挙して押し寄せる時間帯に、「こう並んで下さい」っていう指導は不可能なんですよね。彼らは本能的に空いているレジに並んでしまうし、フォークより箸の方が好き。それに意識高いおばさんが絡んで揉めるってのはまあ、店としても、「このクソ忙しい時間帯に何してんの」って言う話ですし、それなら最初から1列に並んでもらった方が面倒がなくて良いと。 わからんでもないけれど、でもやっぱりフォーク並びの方が公平だし合理的だよなあ。売り場面積が狭いところだと待機列の形成が難しい場合もあるけど、最近はコンビニもそういう方針のところ多いし、やってやれないことはないはずなんだよね。 ……KAITO兄さんみたいに店員に目配せする必要は無いけれども(笑)

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二十歳

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雑誌「Sports Graphic Number」で「二十歳のころ。」という特集をやっていました。スター選手の二十歳の頃を振り返りつつ、現在二十歳で活躍している選手も紹介していく感じの特集。読み応えが合ってとても良い特集でした。スポーツ選手を始めとして早くから「大人の社会」で生きることを求められる子供は一般的に成熟が早く、同じ「二十歳のころ」と言っても僕や、僕の周りのごく普通の人たちとは考えていることが違って見えるのですけど、後から振り返ったり、公私をならして見つめたりすると、競技に関する部分が突出して成熟しているだけで全体のバランスはそう変わらないのかもな、とも感じます。それでも二十歳のときの僕よりは、彼らの方が人間として遥かに成熟していますけどね。今の僕よりも成熟しているかも。

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飛んじゃった

もうすぐ年末年始ということで、飲食店は超忙しいわけですが、そんなさなかバイトの1人が「飛んじゃった」。ある日「来るの遅いな」と言ってたら結局最後まで来なくて、その日は「すみません、寝てました」ってことだったんだけど、その次のシフトの日も来なくて、それについてはまだコメントが無いけどまあでももう無理だよねってことで。それでもなおまだ働きたいんであれば、言ってくるだろうし受け入れるけど(つまりクビではないけれど)、それはそれとして急に連絡なくなるのはなあ。 こういうシチュエーションだと「今どきの若い奴は」というセリフが出がちだけど、店長曰く「今どき珍しいよなあこういうの」。そうなのよね、今の若い子って積極性は少し欠けてるけど基本的にみんな真面目なのよね。僕らが若者だったときの方がずっと適当だったと思う。来なくなった彼もそんな真面目な1人で、口数はあんまり多くなかったけど真面目に働いてたんで一緒に入ったら仕事を教えるようにしてたし、そんな感じでは無かったんだけど……なんかあったんかな。学生だし(大学1年生)、他のバイトもしてるみたいだし、いろいろ時間が足りなくなるってことはあるんだろうけど、それならそれでちゃんと言って辞めれば良いと思うんだよね。「もうしんどいんで辞めます」でいいし。店はすごい困るけど、でもそう言ってる人を無理に働かせても仕方ないからなあ。しかもこのタイミングな。 僕とKさんはそれでも比較的まだ信じてて、今月1回目(通算2回目)の「寝坊」のときは、「高校生から何ヶ月かしか経ってないから責任感が薄いのは仕方が無いけど、社会に出て行くのにそれでは困るわけだし、大学生のうちにきちんと成長していってくれないと困るよね」みたいなことをKさんが言っていて(ちなみにKさんには息子さんが2人)、そうですよねみたいなことを話してたんだけど(それ以外の人はもう既に見切りつつあった)、さすがに2回連続でやられるとなー。仕方ないと思いつつでもちょっと心理的にきついもんある。 若者の「しっかりしてるかどうか」ってのは個人差がすごい大きいんで、19歳でも20歳でも、僕が見てきたサラリーマンの何倍もしっかりしてる奴はいっぱいいるんだけど、ていうか大人ってものすごいいい加減だしな、それでも彼に関しては年齢を感じざるを得ないって言うか。そういう教育って職場がやることじゃないのかもしれないけどさ、でも社会の一員としては、教えられる人には教えるのも必要なことだと思うわけですよ。んで、それができる前に消えちゃったのがちょっと悔しいというか、惜しいというか。彼はそのときおり見せるだらしないところだけ修正したら、色んなことがもっとすんなり出来るようになっていくタイプだと思うんだよね。元々不器用なだけにむしろ。よく見すぎかも知れないけど。 すごい残念。

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職務質問を受けるとき

ingress_lv9_20140923.jpg 世の中には「職務質問を受けやすい人」というのがいるみたいで、風貌や服装、所持品、行動、時間帯などで決まってくるようです。僕自身はこれまで特に職務質問(以下、職質)を受けやすいと思ったことはないんですけど、唯一例外は自転車で移動しているときです。 僕が普段乗っているのは引っ越しの時に同居人が持ってきた自転車で、普通のママチャリなんですが、若干年季が入り始めているせいか、これまで3~4回警察官に止められています。盗難車に見えるんですかね?同居人が購入時に出費を惜しんだせいで防犯登録していないので、車体番号で警察のデータベースに問い合わされ、盗難届が出ていないことと、所有者(同居人)の名前を確認してだいたい5分くらいで解放されます。慣れてるし大丈夫なことがわかってるので別に嫌だなあとまでは思わないのですけど、まーやっぱり急に呼び止められるのは緊張するし、邪魔くさいです。 一昨日かな、食材買いだし帰りに四条川端を自転車で走っているときも、後ろから来たパトカーから降りてきた警察官に呼び止められ、職務質問を受けました。 で、その時の会話。

警官「後輪の鍵がないからね」 僕「え?壊れたからチェーンにしてるんですけど、ないとダメなんですか?」 警官「いやあかんことはないんですけと、こういう自転車は止めたくなるんですよね」 俺「(知らんがな…)」
面倒くさいなあ……近くに寄ってみてチェーンキー使ってるのが見え、前カゴからねぎが飛び出してるのを見た時点で「あ、これないわ」と思ってやめてくれればいいのになあ。何も無ければ謝れば良いし、万が一を考えて一応職質しておく的なことなんだろうか。それとも職質の回数にノルマみたいのがあるのかな。わかんないけど。個人的には警察官で嫌な思い出というのはないのでそれほど神経質にはならないのですけど、でもねえ。面倒くさい。

ちなみに職質強化月間始まるよー

たぶん下京警察署か、京都府警のってことだと思うんですけど、警察官が「10月1日から職質のね、強化月間が始まるんでね、そういうのもあって声かけさせて頂いたんですけどね」とかさらっと言ってて、マジかそれまた俺止められるフラグじゃねえの邪魔くせえなあせめて今日みたいに信号青になった瞬間に止める的なの止めて欲しいんですけどもうちょっとどないなの。 最近は某位置ゲーの影響で夜などにスマホ長めながらうろうろ行ったり来たりする人も多いと思いますので、十分にお気を付け下さい。説明してもわかってもらえないと思うしなあ。

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「クラブ来場者の2割が危険ドラッグを経験している」と言う報道とそのソースについて

これね。

危険ドラッグ、クラブ来場者の2割が経験 厚労省調査:朝日新聞デジタル

東京都内で開かれたクラブイベントの参加者で、過去に危険ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)を使ったことがある人が2割以上いることが、厚生労働省研究班の調査でわかった。研究班は「クラブに集まるのは学生や会社員などごく普通の若者。危険ドラッグがいかに広まっているかを示している」としている。

クラブ来場者4人に1人が危険ドラッグを使用 : J-CASTニュース

DJが奏でる音楽とダンスを楽しむ「クラブ」来場者のうち4人に1人が危険ドラッグを使用した経験があることが厚生労働省研究班の調査で2014年8月8日に分かった。 この調査は12年8月から13年11月にかけ東京都内で開催された4回のクラブイベントで行われ、16歳以上の男女307人の回答のうち使用経験があると答えたのは75人で全体の24.4%だった。使用場所は自室が37%と最も多くクラブでの使用も16%あった。入手経路は友人や知人が61%と最多で、販売店は24%だった。

記事が公開された直後から「たった4回の調査で何が解るんだよ」「特定のクラブだけ調べてクラブ全体に敷衍するのは無理があるだろ」という意見が多く、調査としても記事の体裁としても杜撰だなあという印象だったのだけど、どちらの記事も研究自体のソースを掲載していなかったので、調査が適当なのか記事が適当なのか見分けが付かなかった。「厚生労働省が」って言うから厚生労働省にあるのかなと思ったけど見つからなかった。 ……で、そのソースというのはこちらになります。 http://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/drug-top/data/researchSHIMANE2013_2.pdf 記事では「厚労省調査」となっていたけど実際には厚生労働省の補助金を得て、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の薬物依存研究部が行った調査であり、報告書自体も独立行政法人国立精神・神経医療研究センターのサイトにありました。 報告書には記事には掲載されていない情報がいくつか掲載されています。
  • 欧米で行われているドラッグの使用状況を調べる調査を東京都内でも行ったものである
  • クラブで調査を行った理由は、クラブ利用者層におけるMDMA等の薬物使用率は、一般人口に比べてはるかに高いことが報告されているため
  • 調査は同一オーガナイザーの運営するイベントで行われた
  • 音楽ジャンルは、すべてreggae/dancehall
で、具体的にどんなことを調べているかというと、クラブがいかに危険な場所か……ではなく、
  • 脱法ドラッグを経験している若者が実際に使用しているドラッグの種類
  • その後の薬物依存に繋がる可能性があるかどうか
  • ドラッグを使用する場所やシチュエーション
  • セックスドラッグとして利用されているかどうか
といった感じの内容。 結果として「調査対象の人の1/4が脱法ドラッグ経験者である」というデータは出ているものの、報告書全体の印象としてはその割合を調べたかったというよりかは、脱法ドラッグ経験者をより多く集めるためにそういう人が集まる場所(クラブやイベント)を選んで出向き、脱法ドラッグの使用状況を調べたというのが正確なようで、前述の記事のように「1/4」に焦点を当ててクラブの危険性を煽るような報道の仕方は、報告書の主旨からすると適切では無いのではないかな。 クラブの安全性を訴えるためには、クラブでのドラッグ使用について広範に網羅的な調査が行われるべきだなあとは思うのですけど、それとは別に、この調査は脱法ドラッグの使用状況や危険性についての研究なのでそこまで求めるのは酷かなと。ちゃんとソースを読まずに(もしくは読んだ上で敢えて)、「ほらね、クラブってみなさんが思ってるように危険なとこなんですよ」みたいな煽り記事を書いた朝日新聞と、それに載っかったJ-Castはもうちょっと反省してください。 終わり。

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自らの声に酔う

やまもといちろうさんと湯浅誠さんの対談記事が面白かったので。

ネトウヨは、卒業することを知らない | 真のリベラルを探して | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

今の日本は、保守化、右派の影響力が高まっている。その背景には、韓国、中国への感情悪化だけでなく、リベラル、左派の魅力のなさ、ストーリーのなさがある。今の日本のリベラルに、欠けているものは何か、どうすれば国民の心をつかむことができるのか。社会活動家として最前線で戦ってきた湯浅誠氏が、論客との対談を通じて、「真のリベラル」の姿を探る。3人目の今回は、「純粋なる保守主義者」であり、ネット上の最強の論客として知られる、やまもといちろう氏との異色対談。

読んだ人の持っている考え方によって感じることは色々あるだろうけれど、ネトウヨであれ反原発であれ、自らに不足している部分や不安を補償する形で、情熱を持って政治的な何かに取り組んでいる人は、自らはその意識が低くむしろ真面目にそれこそが正しいと信じて行動しているために、そこから抜け出すことはないというのが全体の主旨。まあそうかな。文中で「尊皇攘夷」が例としてあげられていたけど、そういうのって昔からあることだからねえ。「有権者の2%程度」というのも昔から大体そんなもんなんでしょう。 ネトウヨや反原発に対しては、人によってイデオロギーというか思いや考え方があると思うのでここでは特に何も述べないけれど、文中にあったこの表現に「ですよねー」と思ったのでした。

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「Amazonのお荷物です」は訪問販売とか宗教勧誘とかに使えそう

Amazonが大手配送会社(佐川急便とかヤマト運輸とか)だけでなく、小さな配送会社を使い始めてどれくらい経ちましたかね?今では聞いたこともないような、たぶん個人の配送会社(個人の配送会社を束ねるネットワーク的な会社があるらしいです)が荷物を持ってくる機会が増えたんですけど、そういう配送業者の方って自分たちが無名であること自覚しているせいか、オートロックのインターフォンで「Amazonのお荷物です」って言うことが多いんですよね。自分の会社名(ないしは屋号)を言わない。 解錠する前にどこの誰か名乗ってもらうようにすることもあるんですけど、多くの場合はそれで簡単にオートロックを開けちゃう。そろそろ荷物来るなーってのも解ってるし、あんまり警戒しないんですよね。僕だけかな。いやたぶんそうやって「Amazonのお荷物です」って言って配送してることを考えると、たいていの人は開けてくれるんじゃないかな。 別に「ちゃんと名乗れよ」と強く思ってるわけではないんですけど、単純にセキュリティ的な意味でこれって結構リスクのあることなんじゃないかなーと思ったりします。自分が、空き巣、訪問販売、宗教勧誘、政治活動のどれかに従事していて、多少強引な手法であっても数字を取りたいと思っていたとしたら、オートロックのマンションの部屋を適当に見繕って「Amazonのお荷物です」って言って開けてもらい、あとは各個訪問とかするだろうなあと。考えすぎかも知れないけど、でも考えるとちょっと怖い。マンションの誰かが入れちゃえば、オートロックの意味なくなっちゃうわけですしね。 ああまあ厳密に言えば、配送業者に名乗らせたからと言ってセキュリティリスクが減るわけではない(適当に名乗れば良い)んですけど……なんかちょっともやっとしています。なんかこう出来ること何か無いのかしら。

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タバコの分煙の話なー

NHK NEWS WEB たばこの禁煙・分煙 進んだけれど

道路を歩いている時に、「たばこの煙がけむいな」と感じた経験がある人も多いのではないでしょうか?こうした道路などの公共のスペースに流れ出るたばこの煙を規制しようという動きが東京の都心で出てきています。 背景には公共のスペースなどで禁煙や分煙が進んだことで、問題が引き起こされている現状があります。 首都圏放送センターの笹谷岳史記者が解説します。

路上喫煙が禁止されている東京・千代田区で、公園が喫煙者のたまり場となり児童が遊べなくなっているという話がNHKの特集で紹介されていました。あくまで一例であって、これをネタに喫煙者を攻撃しても解決しない問題なのですが、解決方法として「屋内の喫煙所」を増やそうとしても土地や費用の問題でなかなか進まない(港区)のだそうです。「タバコ吸わなければ良いじゃん」で解決出来る話ではないですし、なかなか難しい問題です。

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譲歩に求める「見返り」

電車で老婆に席を譲るなど、明確な「見返り」を要求しない行為もあるのですべての場合に当てはまるわけではないけれど、一般論として「譲歩する」と言う行為は何らかの「見返り」を求めるものだし、その「見返り」は「等価交換」であることを望むものだ。譲歩に対して「ありがとう」というお礼で応えるのは、コミュニケーションとしては正解であっても、譲歩を巡るやりとりとしては不遜な態度に写る。例えば右折したい対向車に道を譲るのは、次のタイミングで自分が優先されることを期待するからこそのことで、「ありがとう」のクラクションで完了していることではない。譲歩と同等の「見返り」を相手から引き出してこそ譲歩した気持ちは満たされるのだし、自分が先に譲ってもらったときにはそれと同等の「見返り」を与えるべきだ。「自分は譲歩に当たって見返りを求めることはない」と嘯く人もいるかも知れないけれど、それはその人が悟りを開いた聖人であるか、またはただの欺瞞であって、俗世の人間の志向としては正しいとは言えない。 我が儘だとか自分勝手だとか言われる人を観察していると、そういう「等価交換」の意識が欠落している人がいることに気付く。自分では相応の「見返り」を与えているつもりになっているけれど、実際には全く与えていないか、もしくは十分な「見返り」になっていない。長期滞在しているホテルのドアマンが毎日ドアを開け荷物を持ってくれるのに対し、「いつもありがとうね」と言う言葉だけで応じているようなものだ。それは、相手の気持ちを理解しているとは言えない。複数の人間が共存していて異なる価値観で問題が生じている場合、例えば職場のエアコンの設定温度の問題など、誰か1人の設定温度に合わせていたとしてそれ以外の人間が望んでいるのはその人からの感謝の言葉ではなく、その1人からの譲歩だろう。周りが寒いと感じる温度を設定しているのなら、たまには設定温度を上げて冷えピタを貼るとか、そうした行為であって、「いつもありがとうございます」と言う言葉には文字通り以上の価値はないし、言葉は言い終わった直後に意味を失う。 「譲歩」というのは、譲歩されている人が考えている以上に強力な「要求」であって、感謝の気持ちがあるから許されているというような簡単なものではないと思う。もちろんそれで済むような関係もあるだろうけど、同等の関係であれば、譲歩にはそれなりの「見返り」、出来れば同等の譲歩で応じるのが一般的で正常なやりとりというものだし、その意志が欠落している関係ではいずれフラストレーションが生じる。相手が譲ってくれているからとそれに甘えていると、いずれ譲歩を引き出せなくなるか、やりとりが破綻する。自分の価値観を変える必要はないけれど、相手が相手の価値観を貫いたと感じるように誘導することは必要になるだろう。それは性格というようなものではなくて単純に「技術」であろうと思うし、欠落している人はそうした「技術」を学習する機会を得られなかった、ということなんだと思う。 (もちろん国民性などの理由で社会的に学習する必要の無い社会もあるかもしれない) 「人との譲歩のやりとりが不全であっても全然構わない」というスタイルの人ももちろんいるだろう。もしくは「自分は十分に譲歩しているはずだ」「なのに自分勝手だと揶揄される」と考えている人もいるかも知れない。そういう人に対しては、それ以上何も言うことはないし、接する際にはこちらに心の余裕があるときに限り譲歩すると言うスタイルになる。当然余裕がなければ譲歩はしないし、援助もしない。そういう人が存在していても全く構わない、というのが僕なりのそういう人たちに対する「譲歩」であり、その「見返り」として要求するのは、自分たち以外の存在を認めること。つまり自ら以外のものを否定したり、価値観の変更を強制したりせず、自らの価値観は自らの中で閉じておいて欲しい、である。 ……だが既に述べたとおりこの考えも「譲歩」の「等価交換」に立った考えであり、理解されることはなく、この「譲歩」が満足に成立することはない。

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