本書は「VINTAGE BASEBALL」(「古式野球」と訳出)、つまり近代野球が形成される前にアメリカで行われていた初期野球に焦点を当て、18世紀の競技環境、試合形式、ルールなどを紹介しながら、その古式野球を今現在スポーツとして楽しんでいる人たちと現代のアメリカ野球(大リーグ/MLB)とを描く…といった構成の本です。主題としてはタイトルにもあるように、「古き良き時代」の野球を見ることで今の大リーグのダメなところを炙り出そうというところに力点があるようなのですが、古式野球そのものに関して全く知識が無かった僕にとっては「野球というスポーツがどのように始められ広まっていったのか?」という点がとても興味深く、時間つぶしで入った京都府立図書館でたまたま手に取っただけ(そして時間が来てしまったので全体の1/4ほど読んだだけ)だったのですが、気になってマーケットプレイスで買ったのでした。配送料込みで450円。お安い。
「ベースボール」と言うスポーツがどこで始められたか?と言えば、もちろんルーツはイギリスと言うことになります。それが移民によってアメリカに伝えられ、各都市の若者がそれぞれ楽しむスポーツとして(その頃の名称は「タウンボール」)各地で行われるようになっていったのでした。イギリス人ってのは娯楽を編み出すことに掛けてはホントに天才だなあと思います。サッカーと野球と競馬とゴルフとロックだけでもうイギリス人は殿堂入りですね。
「タウンボール」という名前が示すとおりその頃は年によってルールは様々で、大枠で決まっていたのは、
- 空振り3回でアウト
- フライが捕球されるとアウト
- 走者としてボールを当てられるとアウト
- 打ったあとどの塁へ進んでも良い
- 得点するために一塁から「四塁」まで順番に踏まなければならない
という感じで、試合終了の取り決めについては各地のルールが統合されていった結果最終的に、
- どちらかのチームが21点以上取った時点で試合終了
という形で収まったようです。なにやらちょっとクリケットみたいですね。ピッチャーの役割は単に「ボール供給掛かり」であって、今みたいにアウトを取ることを目的に投げていたわけではありませんでした。そもそも打席に入る時に「高めに投げて欲しいか」「低めに投げて欲しいか」を選べたそうで、ホントに楽しむことを目的にルールが策定されていたことが解ります。スポーツを発明する天才がイギリス人なら、それを楽しむためのルールを整備する天才はアメリカ人と言うことになる気がしますね。
本の中のストーリーは、著者の佐山さんがアメリカで行われた「ヴィンテージ・ベースボール・ワールドシリーズ」の始球式に臨むところで終わります。これは今現在アメリカで行われている、「古式野球」を現代に再現したスポーツのプレイオフ最終盤。全米223チームの中から勝ち上がった4チームによって優勝が決定されるということで、球場は大変盛り上がっているのですが、こういう現代の野球をめでつつ過去の野球も同時に愛するという懐の深さみたいなのがアメリカの良いところだよなあと思いました。
本書では批判の対象になっている大リーグですが、過去の球団の英雄をたたえるイベントがたくさんあったり、リーグを上げての記念日がいくつも設定されていたり、金儲けに走るチームがある一方でそういう「文化」を大切にするチームもあります。国としては日本はアメリカより遙かに長い歴史がありますが、「スポーツ」という文化に関しては比較的古い野球でさえ盛り上がったのは20世紀になってから。スポーツを大事にする文化が根付くまでにはまだまだ時間が掛かりそうですね。100年後の日本では、こうした過去の文化を大事にするような、そんな芳醇なスポーツ文化が育っているのかしらん?40年後の札幌でダルビッシュとイチローが始球式を行う…なんていう光景が見られるのかな。
佐山さんの始球式を見届けたあと、少し思いを馳せたのでした。