【WBC2023】祖先の出自をもつ国での出場を促す大会ルールを作ったひとはすごいと思う

WBC2023
そろそろWBC2023の話題も終わりです






祖先の出自をもつ国での出場を促す大会ルール

今回のWBCでは多くの国が高いレベルのプレーをしていました。その理由の1つは、MLB各チームが各国代表に積極的に選手を派遣してくれた(チームによって差はありましたが以前と比べれば段違い)ことでしたが、同時にそれだけ多くの「代表選手」が生まれた理由は、WBCが「祖先の出自をもつ国での出場を促す」ようなルールを定めていたからでした。



「野球」はまだまだマイナーなスポーツ

サッカーファンに指摘されるまでもなく、野球というスポーツ競技は世界的に見ればとてもマイナーな競技です。世界におけるサッカーの競技人口が約2億6,000万人なのに対し、野球は3,500万人しかいません。しかもその競技人口は一部の国に偏っていて、整備されたプロリーグを持つ国はホントに僅かです。もし国籍にこだわって代表チームを構成したとしたら、出場出来る国はとても限られてしまうし、出場出来たとしてもプロ選手と草野球の試合をたくさん生み出すことになってしまいます。


そこでこのルールですよ。


サッカーなどの「国籍」、ラグビーなどの「活動場所」とは違った新しい概念として「自分のルーツがある国を選択して良い」というのはなかなかに面白い設定でした。条件を満たしているかどうかは曖昧という問題はあるものの、今回各国代表に選ばれた選手たちを見る限りにおいては、「両親のどちらかがその国の出身」(国籍を持っていたが結婚して失ったなども含む)「祖父母がその国の出身」といったあたりまでが基準を満たす「ルーツ」で、認定は比較的柔軟に行われていた感があります。

もちろん最強豪国であり主催者でもあるアメリカがそうして代表選手を選ぶ必要がなく、仮に他国にそれで選手を取られたとしても圧倒的な実力差でもって制することが出来るという自信があってのルールであるという面はあるのですけど、結果としてMLBやマイナーリーグに所属する選手が各国に散らばることになってより面白い大会になりました。

日本が予選で戦ったオーストラリア代表はMLB選手はいないもののマイナーリーガーが8人、準々決勝で戦ったイタリア代表はMLB選手が8人、マイナーリーガーが10人いました。野球では余り名前を聞いたことがなかったイギリスにもMLB選手が2人、マイナーリーガーが13人。特にイギリスは「旧イギリス領」出身でもイギリス代表に認められていました。ホント柔軟。



それでもまだ課題はある

イタリア代表に関しては NumberWeb にこんな記事が出ていました。


だが、WBCに臨むイタリア代表には、どうしても“辺境国としてのジレンマ”がつきまとう。13年大会以来の8強進出を果たしたチームに、国内から「この代表は恥だ」「ピアザはとんでもないペテン師」という手厳しい批判が飛び交うのにはいくつか理由がある。

 一つは、連盟が2月9日に発表したロースター30人中、イタリア国内でプレーするセリエA組がたった4人しかいないことだ。

 2006年の第1回大会にプレーヤーとして参加したマイク・ピアザが、2019年秋に代表監督に就任して最初に手をつけた仕事は、イタリアにルーツを持つ“北米プレーヤーたち”に片っ端から電話をかけることだった(大谷翔平のエンゼルスでの同僚であるデビッドと、ドミニクのフレッチャー兄弟もしかりである)。

 祖先の出自をもつ国での出場を促す大会ルールに従い、WBC向けに特化したチームを編成したまで、と理由はつけられるが、これでは国内セリエA組が面白いはずがない。

WBCイタリアの現地リアル人気…「地上波放送なし」「ピアザはとんでもないペテン師」なぜ8強なのに“嫌われた監督”状態なのか(2/4) – 侍ジャパン | プロ野球 – Number Web – ナンバー


盛んと言えるかどうかは定かではありませんが、それでも古くから独自のリーグを持って活動していたイタリアのような国にとっては、国内組が軽視される状況はあまり面白くないかも知れません。状況としてはかつて社会人野球選手の目標であった「オリンピック日本代表」がプロ野球選手に解禁され、やがてプロ野球選手だけで構成されるようになっていったのと似ているかも知れません。当時は「あれは社会人野球選手のものだから」といって代表を辞退するプロ野球選手も多かったものです。


ただそれは日本人同士の話。

同じイタリア人メジャーリーガーが凱旋してくるならともかく、イタリアにルーツを持つアメリカ人がイタリア人を代表から駆逐するとなると話は別です。国内リーグがあるという自負があるイタリア人ファンにとっては「これがイタリア代表です」と言われても感情移入しづらい面はあるでしょう。まあ、ピアザを監督に選んでそういうチーム作りをさせたイタリア野球・ソフトボール連盟が悪いんであって制度の問題か?といわれると微妙ですけど、そういう事情も汲めるような制度が作れたらもっと良いかなあとは思います。国内リーグの規模に合わせて、ルーツをベースにした選手選考に対して人数制限を掛けるとかね。


このあたりは、改善のためのルール改変に躊躇がないアメリカのことなので、今後是正されていくことだろうと思います。こういうところのアメリカ人の柔軟さはほんとすごいからなあ。



WBCは今後もますます発展していくことでしょう

今回のWBCに対してイチローさんがこんなコメントをしていました。


06年の第1回大会、09年の第2回大会に出場し、連覇の立役者となったイチローさんは今大会について「マイアミでの試合を何試合かテレビで観た。お客さんも連日満員だったし、中南米の選手たちの気持ちの入り方を見れば(盛況ぶりは)明らかだった。2006年からわずか17年でここまできたんだな、と現場にいなくても感じることができた。感慨深かったです」。大会が成長していることを実感し喜んでいる様子だった。

イチローさんが語った侍ジャパン世界一 「後輩たちが今回のダルの思いをつなげていってほしい」― スポニチ Sponichi Annex 野球


第1回大会、第2回大会と日本は連覇したものの、当時の各国のモチベーションが一様に高かったかというとなかなかに微妙でした。日本、韓国、台湾と行った東アジアの国々はやる気満々でしたが、アメリカはまったくやる気がなく、中南米もオープン戦の代わりぐらい。そんな状況が変わったのはアメリカが優勝した前回大会からで、今回はアメリカはともかく中南米各国はかなりガチで優勝を目指してきていました。そんな中で怪我人が何人か出てしまったのは非常に残念なことでしたが、それでもWBCが重要な大会として発展していく流れを妨げるものにはならないでしょう。


出来ればサッカーのようにシーズンを1ヶ月ぐらい休んで大会を開けないかと思ったりもしますけど、週に2回しか試合をしないサッカーに比べて毎日試合がある野球の場合、1ヶ月休むと失う試合が多すぎるんですよね。雪が降り出す前にシーズンを終わらせられなくなる可能性が高い。

なので、なかなかシーズン中に大会を開催するのは難しいでしょうけれど、それでも多くの国が、特にMLBの各チームが参加することになることでトレーニングに関する知見は確実に蓄積されていくでしょう。今回も各国にはチームから「実戦で何打席以上立たせること」「実戦で何球以上投げさせること」とといった負荷に関する条件もあったようですし、徐々に、怪我せず、シーズンに好影響を与えるような「本気の出し方」もマネジメント、大会ルール両面から出来るようになっていくのではないかと思います。


ますます良い大会になっていくことを願いつつ、WBC2023に関する記事を終わりにしたいと思います。とても良い大会でした!これから開幕するシーズンも楽しみです!