昭和十七年の夏 幻の甲子園―戦時下の球児たち昭和十七年の夏 幻の甲子園―戦時下の球児たち
早坂 隆

文藝春秋 2010-07
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最高に素晴らしい。後は実際に手にとって読んでみて欲しい。

...とだけ書いて筆を置きたいところなのだけど、少しだけ紹介を。

本書にて書かれている「幻の甲子園」とは、第二次世界大戦によって高校野球甲子園大会が中断されていた昭和16年から20年の間に、政府主催で1回だけ行われた甲子園大会のこと。それ以前、戦後も主催となっている朝日新聞が甲子園大会と認めていないため甲子園大会の歴史には書かれていないし回数にも含まれていないけれど、当時の高校球児がそこで汗を流したのは紛れもない事実のようです。

僕はその存在すら知りませんでした。



本書の構成はおおよそ、以下の通りです。

  1. 「幻の甲子園」開催までの経緯
  2. 各試合出場チームの紹介
  3. 試合の詳細な経過
  4. 敗退チームの主な選手のその後
  5. 2に戻る
  6. エピローグ


テーマが戦時中の話だけに、どうしても政治的な話題になったり情緒的な描写になったりすることは避けられませんが、本書ではそれらを(恐らく意図的に)事実を補完する説明にとどめて、それよりもそこにいた高校生、監督、家族に強くフォーカスを当てることで、この大会の「異質さ」を浮かび上がらせています。

それが非常に強いリアリティを生む。

いや、これは創作ではなく綿密な取材に基づいて練り上げられたドキュメンタリであり、リアリティ《現実性》ではなくリアル《現実》そのものです。リアリティなどと表現するのは失礼かもしれませんが...実際問題として、戦後30年以上経ってから生まれたせいか、僕は「戦争」というものにリアリティを抱けません。祖父に話を聞くといった機会もなかったし。

でもこうして「誇張のない戦時中」をかいま見ると、それはなんだろう、もの凄い勢いで心に染みこんでくるんですよね。多分きっと、周りが「戦争」という環境の元で激しく変わっているのに野球に打ち込んでいる高校生だけは変わらない、全てを受け入れた上で変わらない、そんな彼らの姿が今の自分から「戦争」までを繋いでしまうんじゃないかと。僕はそう感じました。



「戦争の正しい知識」を得るには不足かも知れません。違う見方もあるでしょう。
でも本書はそれらを踏まえた上で1つの現実を明らかにしているとも思います。


非常に濃密な、素晴らしい1冊でした。