「激しい運動は尿酸値を急激に上昇させるといわれているがランナーが高尿酸血症になりやすいわけではない」ほー

ランニング ジョギング running
「ランニングをすると尿酸値が上がる」という話があります。








「運動性高尿酸」という現象がある

痛風発作はストレスや激しい運動、尿酸値の急激な変動などがきっかけで起こります。

(中略)

有酸素運動→体重減少→消費エネルギーの低下と過剰なインスリンの低下→エネルギーの燃えかすである尿酸産生の低下と尿中尿酸排泄増加 このような機序で尿酸値は低下します。ただし、激しい運動はかえってエネルギーの燃えかすである尿酸が急激に増え痛風発作の原因となるので注意してください。

高尿酸血症 | 医療法人社団仁智会


激しい運動をすると尿酸が増えて発作の原因になるということなのですが、このことと「高尿酸血症」つまり尿酸が結晶化して体の色んな部位に沈着していくこととは同じではありません。激しい運動の結果はあくまで一時的なものであり、一方で「高尿酸血症」は慢性的なものです。ただ「血液中の尿酸が増える → 溶けきれない尿酸が結晶化する → 沈着」という流れを見ると、日常的に激しい運動を繰り返しているといずれ「高尿酸血症」になりやすくなるという風にも考えられます。うーん、実際のところどうなんでしょう。



論文がありました。

血清尿酸値が一過性に上昇する運動性高尿酸が激しい運動を継続すると恒久的な高尿酸血症に進行するか否かを検討する目的で長距離・マラソンランナー11名(男性,年齢20~42才)を対象に,オーバートレーニングに近い月間走り込み大会前(9月30日),直後(11月1日)2週問後(11月15日),4週間後(11月29日)の血清尿酸値を測定した.

長距離・マラソンランナーの血清尿酸値の動態と意義 | J-STAGE


発行日が1992年と少し古いですし、この論文への評価がどうなのかサンプルとした11名(月間走行距離228km~1,260kmの鍛錬者)が人数として十分なのかもは僕にはわからないのであくまで「そういう研究・データがある」という紹介以上の何ものでもないということはお断りしておかなければならないのですが、論文の抄録には以下のように書かれています。


血清尿酸値は大会直前6,1±0.2mg/dl,大会直後5.6±0.2mg/dl,大会2週間後5.4±0.3mg/dl,大会4週間後5.3±0.4mg/dlで大会前値に対して大会直後や大会後は有意に低下していた. これらの結果より,運動に見合ったエネルギーを摂取した場合,体重の増加がなく消費エネルギーとのバランスがとれていれば激しい運動を継続的に行っても恒久的な高尿酸血症に進行しないばかりか,かえって尿酸が低下することが考えられた.

長距離・マラソンランナーの血清尿酸値の動態と意義 | J-STAGE


これによると、大事なことは運動量が多いか少ないかではなく、摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスが取れているかどうかだということのようです。



論文の「考察」にはさらにいろいろ面白いことが

考察では類似の論文を引用しながら激しい運動直後に尿酸値が上がる「運動性高尿酸」と慢性的な「高尿酸血症」の関連について考察していてなかなかに興味深いです。例えば若い非鍛錬者の場合、


血中尿酸の推移について小栗らは走行直後に正常範囲を越える有意の上昇を認め,1日目には正常範囲内に回復したと報告している。

(中略)

小栗らの被検者は血清尿酸値の上昇率が正常範囲を越え,鈴木らの被検者よりも高かった.


というデータが得られた論文がある一方で、年配の鍛錬者の場合、


鈴木らは走行直後60分がピークで3日目まで徐々に減少し7日目に再び上昇したと報告している.このなかでレース前より尿酸値が正常範囲より高い2名を除いた5名は正常範囲内の変動で1日目には回復している.


というデータが得られた論文もあり「鍛練をすると運動性高尿酸現象の上昇が抑制されるという.」と結論づけています。運動を続けていると、慢性的な「高尿酸血症」になりにくいだけでなく、運動直後の尿酸値の上昇「運動性高尿酸」自体が抑えられるようになっていくらしいです。であるならば「ランニング」という行為のみにスポットを当てると「尿酸値が上昇する」とは言えても、それを継続することで「高尿酸血症」になりにくいわけではないということも説明が付く、のかな?



まとめ

激しい運動直後に血中尿酸値が上昇するのは事実ですが、激しい運動を繰り返すことで慢性的な「高尿酸血症」になるわけではないということのようです。大事なことは運動負荷の多寡ではなくて体重のコントロール。引退したスポーツ選手が通風になりやすいのは、消費エネルギーが急に減る一方で摂取エネルギーをなかなか減らせないという生活スタイルの変化によるものということでしょうか。運動を始めたばかりの人の場合は一時的に尿酸値が上昇することもあるようですが、継続していくことで上昇しにくく(そして体重減に伴って減少するように)なっていくようなので、尿酸値が気になる人には是非とも継続していただきたいと思います。


そうかそうか、大丈夫か。ホッとしました。