ニューヨーク(CNN Business) 米国で今年上半期(1~6月期)に発売されたレコードの売り上げが1980年代以降で初めてCDを上回ったことがわかった。全米レコード協会(RIAA)が明らかにした。 RIAAによれば、今年上半期のレコードの売り上げは2億3210万ドル(約246億円)とCDの売り上げ1億2990万ドル(約137億円)を上回った。
CNN.co.jp : レコードの売り上げ、CDを抜く 1980年代以降で初めて
一応、レコードを売る会社でエンジニアとして働いているので、この手の話題には敏感なんですが、ただまあなんだ、みなさんご存知の通り、
へえ!レコードってそんなに売れてるんだ!
という話ではないわけですよね。そうじゃなくてCDがいよいよ媒体としての役目を終えて、売れなくなってきましたよというお話しです。
RIAAによれば、今年上半期、レコードの売り上げは4%増加した。CDの売り上げは48%の減少だった。
CNN.co.jp : レコードの売り上げ、CDを抜く 1980年代以降で初めて
(中略)
有料のものや広告付きのものを含んだストリーミングの売り上げは12%増の48億ドルだった。
今年上半期の売り上げの85%以上がストリーミングによるものだったという。
いまや音楽というのはほとんどストリーミングで売れていて、フィジカルな媒体というのはもはや音楽を売る媒体とはみなされなくなりつつあるということ。レコードに関しては、レコード愛好家にとっては媒体かも知れないけれど、一般的に見ればあれは「骨董品」ないしは「嗜好品」であって、音楽を聴くためというよりもレコードを買うことそのもののに価値があると言え、音楽の売上の範疇で額を比較すること自体何の意味もないのではないかと思うのです。
結局のところレコードの売上増とは、レコードが「嗜好品」として持て囃される中で既存のCDショップや本屋などその販路が拡大されたためであって、けっして市場が大きくなったり、レコード販売店が成長したりしてるわけではなく、確かにRIAAによるレコードの売上推移を見ると、直近10年以上かなり堅調に売上を伸ばしてはいるものの、実はきちんと見ると大したことなかったりするんです。そんなもんですよね。
RIAAよりデータを引用しておきますね。
データはすべてここで見ることができます。U.S. Sales Database – RIAA
ニュースなんかでよくある「印象的な」グラフはこちらです。直近30年間のレコード売上額推移。
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これを見ると2008年から2019年まで一貫して売上額は伸びており、すでに90年代を凌駕しています。ただこれには「消費者物価」というからくりがあり、物価を調整してデータの範囲を1973年からに広げるとこうなります。
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そう、レコードの売上増なんか実は微々たるものであり、音楽媒体として活躍していた70年代や80年代とは比べるべくもないわけですね。
また販売数で比較するとこうなります。
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1990年の売り上げを超えたのは2015年のことで、それからもレコードの販売数は伸びていますが、1989年の販売数は1990年の3倍近くあり、1989年のレベルに戻すにはまだまだ時間が掛かるでしょう。レコードの販売数なんてそんなもんでしかないです。ダウンロード含めた音楽の販売数が大きく減っているのでその中でレコードが存在感を増しているという言い方も出来ますけど、
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一方で売上額自体はストリーミングが伸びた2015年を境に大きく増えてきているので、音楽媒体としてはむしろ存在感が希薄になりつつあるという言い方も出来ます。
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どのデータを出して語るかは、その人が何を言いたいかによるんじゃないかなということですね。その当たりも注目してもらえると、わかることもあるんじゃないかなと思ったりします。
この件について何かを語りたい方は、自身の持論にあったデータを引用しながら、ロマンティックな議論に花を咲かせてもらえれば良いんじゃないでしょうか。