そんなことを考えているときに届いた、Sports Graphic Number の最新号「日本ダービーの新常識。」が、読めば読むほどに味の出る良い仕上がりになっていて、非常に「美味しく」いただきました。苦労の中から生まれた素晴らしい一冊だったと思います。
基本的なテーマは日本ダービー(東京優駿)
2020年の日本ダービーの有力馬や騎手、調教師にスポットを当てて結果を占うというのが基本的なテーマです。毎年ある「春競馬」とかそういう企画と同じなんですが、違う点があるとすれば密着して取材が出来ないという点。トレセンには出入りできないし取材はリモート、写真も本人提供。下手すると証言を集めただけの表層的な「予想回」なってしまいそうなところ、さすがだなと思ったのは、競馬文化を支える部分、馬具屋さんとか装蹄師さんとか馬運車とか、そういうところにスポットを当てて真の意味で「新常識」を掘り起こしているところ。
素直に感動しました。素晴らしい。
馬文化の一部だった人間として
大学時代を馬術部員として馬文化の一端で過ごし、競馬社会とも少しだけ関わりがあった身からしてみると、競馬場で馬が走っている時間というのは競馬の中のごく一部でしかないわけですよ。実際に走る2分のために膨大な時間が、膨大なエネルギーが、膨大な愛情が注がれている。でもそういうのが詳しく報道されることってあんまりないですよね。有力馬について装蹄師さんのコメントを取る記者なんていないし、求められてもない。釘を打たない装蹄とか、グラスファイバーを間にかまして歩様を矯正するとか!装蹄も進化してるんだな、、
京都乗馬での試合でよく四位洋文さんを見掛けましたが(本文中にもありますが、自分で競走馬を買い上げて乗馬にしていたそうです)、それを取材に来た記者というのは見たことがない。正直取材したところで載せるスペースはないし、趣味ならともかく仕事では来られないよなあ。
馬運車というものがどういうものか、一般人は多分知らないし、高速道路でたまに見掛けて「あれ、競馬の馬が乗ってるの?」と思うぐらいがせいぜいだと思いますけど、でも競馬始め馬が関係すること(馬術もそうだし馬が行列に参加する祭もそう)には馬運車が欠かせない。そんであれ、嫌いな馬ってのがいて乗せるのにすんげえ苦労することあるんですよね……とかそういうのも、普通の人は知らない。いや、知らなくて良いんですけど。
行間、というか頁間からは、そういった馬を取り巻く文化の息づかいが聞こえてくるようで、じんわりと嬉しくなりました。読んで万人が面白いと思うかどうかはよくわからないけど、ホースマンの端くれだった人間として、とても面白く読みました。こういう企画が、専門誌ではないスポーツ雑誌で企画されることが素敵。出版してくれてほんとにありがとう。そんな気持ちです。