民間の「脱FAX」の現状

河野太郎行政改革担当相
先日、河野太郎行政改革担当相が官公庁における「脱FAX」を開始するという旨のコメントをしていました。


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あくまで開始するだけで「いつまでにどれだけ」という目標は示されなかったのですが、こういうやりとりは送り手と受け手の双方が変更出来て始めて成立する話なので(行政サービスなら特に)、「じゃあ明日から」というわけには行かないんでしょう。


思い出すのは以前働いていたフードコートでのこと

冷凍うどんはじめ様々な食材を某大手食品卸会社さんから一括で卸してもらっていたのですけど、その発注がFAXでした。店舗ごとにカスタマイズされたテンプレート(つまり発注書)に数字を書き込んで、毎日15時までにFAXで送信するというルーチン。慌てて送信しているスタッフを見ながら、いやあ大企業なのにずいぶんと時代遅れのことしてるんだなあと思っていたのですが、配送してくれている営業さんに確認したところ「メールやWebフォームでも発注出来ますよ、というかむしろそうしてもらいたい」という返答がありまして、時代遅れなのは食品卸会社さんではなく自分たちだったのでした。今どきなら恐らくスマホでログインして発注なんてことも出来るんですけど(先日まで働いてたレストランでは一部そうなってました)、そのフードコートは従業員の年齢が40代から80代、しかも半数が80代という職場だったのでスマホ発注を導入してもなかなか難しかったのかなと。

同じフードコートでは鶏卵を鶏卵業者さんに電話で発注していたのですが、そちらの方は先方が年配の方が受注から配送までやってる個人商店でありまして、それもまた切り替えは無理そうでした。個人商店ならLINEでいいんじゃないのと思ったりもしますけど、先方が70代のご夫婦でスマホに疎かったらいくらこっちでそう思ってもなかなか切り替えられないですしね。高齢者の方がスマホに慣れているかどうかは、割と個人差のあることでもありますけど。





病院やホテル向け業務用の場合

花王傘下で業務用消毒液や洗剤などを製造し、病院やホテルなどに販売する花王プロフェッショナル・サービスは、17年ごろから脱FAXを掲げ、「30年までに使用10%以下」を掲げている。顧客からの発注書がFAXで1日に約1400通届くが、外部の受注オペレーターへの委託コストが大きいとしてシステム化を進めてきた。

 同社カスタマートレードセンター統合オペレーショングループの依田健治部長は「いまだに発注書の6割がFAXによるものだが、緊急事態宣言や災害でオペレーターが出勤できない状況もあったので、顧客に発注の電子化を勧めている。使用10%以下の目標は前倒ししたい」と語った。

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「使用10%以下の目標は前倒ししたい」といわれてはいますけど、現実的に目標を立てた結果では達成出来るのは「2030年」というのが現状なわけでありす。恐らく営業担当を通じて1軒1軒、「脱FAX」のお願いをして回っているんだろうなとは思いますけど、端末やソフトウェアを整備してルーチンを構築し直すとなると、施設の規模によっては整備にお金も時間も掛かることがあるんでしょう。僕なんかはこれを機会に在庫管理と発注管理をSaaSベースに移行してしまえばいい、自社開発しなくてもある程度のランニングコストで実現出来るでしょなんて思うんですけど、知り合いの会社では「そんなことをして内部情報が漏れたらどうする」みたいな議論もあるらしくハードルは低くない。いやーそんなこと滅多にないと思うんですけどね。
(Salesforceの設定ミスで情報流出みたいなニュースもありましたが、それはサービスの不備ではないし)


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民間がこんな現状で官公庁だけ「脱FAX」といっても現実的ではないので、結局はまだまだ向こう10年ぐらいはFAXでのやりとりが続いていくんだろうなあと思います。FAXを「スキャンと通信を一体化したサービス」と考えれば確かに有用なサービスだとは思うんですけど、いかんせんFAXというもの自体が印刷や仕訳と行った手作業を前提に設計されているのが良くない。上と同じ記事内でクラウド会計ソフトなどを開発しているマネーフォワードの例がありましたが、「スキャンと通信を一体化したサービス」という特徴を残しながら設計を組み替えていけば「脱FAX」しなくても手間は無くせる……


金融系ウェブサービスを提供するマネーフォワードは、テレワーク推進を目的に20年春からFAXの使用を廃止した。一部の部署のみFAXを受け付けているが、紙ではなくデータで受信している。業務の効率化が実現し、現在のところ、支障はないという。

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いやでも受信したあとはスキャン画像を見て発注書を起こすことになるわけだし、ダメか。それともOCRでPDF化まで出来るのかな。将来的になくしていくサービスに付随して設計を組み替えたり、新たに開発したりということをする意味は薄いだろうから、素直に「脱FAX」を進める方が結果的に早いのかも知れませんね。

ま、手作業前提に設計されていて非効率で生産性が低いものってFAXに限りませんけどね。去年の給付金の処理だって行政側での手作業で無理やり処理したわけですし……「脱ハンコ」「脱FAX」といった表面的な部分だけでなく、そうした根本的な設計思想の部分から発想を転換していってもらえると良いんですけどね。一朝一夕には難しいかも知れませんけど、せっかく社会がそういう機運に向かい始めているんだし、この機会を逃す手はないですよね。もしそれが出来たらそれは「新型コロナウィルス時代のレガシー」ってことになるんじゃないかなあ。