2005年2月に発表されたフランスの欧州経営大学院教授のW・チャン・キムとレネ・モボルニュの著書『ブルー・オーシャン戦略』により提唱された市場の定義。まだ誰も参入者がいない競争のない新たな市場空間のことを指す。
ブルーオーシャンとは – はてなキーワード
競争の激しい既存市場のこと。対義語はブルーオーシャン(新規開拓市場)。
レッドオーシャンとは – はてなキーワード
全国的な流行なのかは解りませんけど、ここ3年くらい京都では「スペインレストラン」や安価なタパス料理を出す「スペイン風バル」が異常なペースで増えています。あちらにもスペイン国旗、こちらにもスペイン国旗。様々な洋食を横断的に出すレストランでも「Tapas」の表記があり、アヒージョや生ハムが売られ、お酒を飲むときの選択の1つとしてスペイン料理は確固たる地位を築いているように見えます。今年5~6月に掛けて新風館で行われた「スペイン祭」の出店リストを見てもよくわかります。
スペイン料理祭~第4回京都まるごとマルシェ×株式会社キムラ ビアアリスシリーズ~ | 新風館
で、以前僕がお世話になっていたスペインレストランが創業した頃、そして調子が良かった頃には、京都には「ティオぺぺ」「La masa」くらいしか有名スペインレストランはなく、「本格的なスペイン料理が食べられる」というだけで価値があるような状態でした。もちろん店としてのクオリティは高く保つ必要がありますが、ライバルは少なく、広告にコストを掛ける必要も無く、メニューが斬新である必要も無い、営業していれば向こうからお客様がやってくる状態。典型的な「ブルーオーシャン」です。
一方で現在は明らかに「レッドオーシャン」といえるでしょう。とっても解りやすい。
「La masa」を営業する株式会社バハルボールのサイトを見れば、日々新しいメニューに取り組み、素敵な写真で訴求し、一生懸命努力していることが解りますが、会社の経営としては2008年にオープンした「フイゴ」が閉店し「1年1店舗」の目標からは少し外れて素晴らしく順調というわけではなさそうです。これだけ過剰な状態になれば、レストラン運営に必要なスタッフも取り合いになるでしょうし(僕が新しく開くなら、バハルボールの中心スタッフをハントしますよね当然)、規模とクオリティを保つのは大変でしょうね。
僕がお世話になっていたレストランも、現在はとても苦しい経営が続いているようです。オーナーシェフはあれこれ理由を仮定していましたが、経験豊富なスタッフが1人もいなくなったという点を除けば、料理やサービスなどレストランとしての価値が以前に比べて極端に低下したというわけではない。実際、パエリアはどこで食べるよりも美味しかったし、他の料理もサイズや味とのバランスで考えてとても安い。ただ、店としての努力はしてませんね。メニューは殆ど変わらないし、広告その他の露出はとても少ないし、目玉の何かがあるわけでもない。訴求力も低い。絶対的価値は余り変わっていないけれどライバル店が増え「スペインレストラン」がコモディティ化(一般化)した結果、相対的に価値が下がってしまい、「普通のスペインレストラン」になってしまったということでしょう。
味だけでなく印象を売る商売でもあるレストランにとって、こういう展開は致命的に思えます。本当は融資を受けてでも、人、サービス、広告などを「継続的に」充実させて、店そのものを建て直していくべき何でしょうけれど……たぶん彼には無理だろうなあ。「自分は悪くないのに、店の調子がさっぱり上がらない」という状況を上手く受け入れられていないようでした。もちろん有名サイトで紹介されるとか、芸能人が食べに来て絶賛されるとか、すごいラッキーで好転する可能性はあります。でも逆に言えばもうそういうラッキーに期待するしかないような。せめてもう少し人との繋がりを大事にすると先のイベントにも出店できて顔を売れたりするんだろうけれど、その辺はシェフの人間性の問題かな……。レッドオーシャンはかくも厳しい。
最初からレッドオーシャンである領域(例えば……居酒屋とかカフェとか服屋とか美容院とか)に飛び込むのであれば、それ相応の準備をして戦略を持って飛び込むことになるだろうし、上手く行かなかった場合の苦悩もまた違った形になるだろうと思うのですけど、元々ブルーオーシャンだったところがレッドオーシャン化した場合には、こういう悲惨なことも出てくるんだろうなあ。たぶん「スペイン料理」が「安いタパス」「パエリア」として消費されていく中で、現在の店舗も淘汰されていくのだろうなと思うのですけど、その結果どんな店がどんな形で残るのか、何か実験を見ているかのようで興味深いです。より素敵な体験が出来るレストランが、残ると良いのですけれど。
おまけ:人材確保の重要性と難しさ
一般的な会社と比べて飲食店のスタッフはより早いスピードで交代していきます。学生バイトなら最大4年間しか在籍しませんし、フリーターだって様々な理由(結婚や独立や帰郷など)で辞めていきます。社員登用したり給与を上げたりして一時的にとどめることは可能ですが、それにしたって人生を通じて店舗に骨を埋めるというのは極稀でしょう。どんなスタッフもやがていなくなる。若くして辞めていく人も多い。だから「スタッフはやがて辞める」という前提に立って人材は常に補充し続けなければいけないし、常に教育していかなければならない。経験を共有し継承する。1人前でない人材に支払う人件費には無駄も多いけれど、それでも価値はある。実際にはそんな理想通りに進むことなんてあんまりなくて、どんな店でも人材難にあえいでいるというのが実情でしょうけれど(飲食店の1/3~半分くらいがスタッフ募集の張り紙を出している気がします)、それでもそれを解消しようとし続けないと、店のクオリティを保てなくなっちゃうんですよね。オーナー1人で運営できる規模なら別ですけど、多くの場合はそうではないから。
「スタッフはやがて辞める」けれど「お前の代わりはいくらでもいる」ではない。代わりはいないからそのスタッフを大事にしつつ、その上でその人間がいなくなっても大丈夫なように備える……難しいですね。お金だけでなく、スタッフそれぞれのメンタルも見ないといけない。人によっては自分の価値を低く見られているとか、不要だと思われているとか、感じてしまうでしょうから。
……なんだかプロ野球のチーム運営のようですね。だとすると、きちんと育成を行わないと、結局よりコストが掛かる形で人材を確保せざるを得なくなると言うことかな?ジャイアンツのように育成も中途採用も両方やってるところもありますけど、それはそれとして、カープのように、育成の歯車が噛み合えば強さを発揮できるようにもなると。プロ野球も人材の交代スピードが早いし、参考に出来ることがあるかも。