【健康に関するメモ】第10回:トランス脂肪酸について調べつつ「クリスピー・クリーム・ドーナツ」さんに聞いてみた

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健康に関して気になる情報について調べ可能な限り文献にも目を通した上でまとめます。始めからトンデモだと決めてかかるのでは無く、また正しいと決めるのでも無く、出来るだけフラットになるように心がけますが、なにぶんメモ書きであり内容の正しさを保証するものではありません。基本的にはWikipediaの情報を参考文献や他の検索結果を見つつメモし、考えるための資料を用意していく予定です。


第10回はトランス脂肪酸についてです。トランス脂肪酸の影響についてWikipediaから引用したのち、「クリスピー・クリーム・ドーナツ」さんからの返答を交えて、その影響についてまとめてみます。


目次

  • トランス脂肪酸とは何か
  • 「クリスピー・クリーム・ドーナツ」の取り組みについて
  • トランス脂肪酸を忌避すれば問題は解決するのか(農林水産省の見解)
  • まとめ




トランス脂肪酸とは何か

トランス脂肪酸とはたくさんある脂肪酸(脂質などの構成成分)の種類の1つで、構造中にトランス型の二重結合を持つ不飽和脂肪酸の総称。主にマーガリン、ショートニングなどに含まれています。近年、悪玉コレステロールの増加と心臓疾患などへの悪影響が注目されています。

以下、おもにその「悪影響」に関する部分をWikipediaから引用します。

トランス脂肪酸 – Wikipedia

摂取に伴うリスクとして指摘されているのは、主として虚血性心疾患(冠動脈の閉塞・狭心症・心筋梗塞)の発症と認知機能の低下[8]である。

WHO / FAOの2003年のレポートで、トランス脂肪酸は心臓疾患のリスク増加との強い関連が報告され、また摂取量は全カロリーの1%未満にするよう勧告されている[9]。

トランス脂肪酸を大量に摂取させた動物実験では血清コレステロールへの影響は少なかった。一方、ヒトでの疫学調査ではリポ蛋白(Lp-α)が増加する可能性が示唆されている[2]。リポ蛋白はHDLコレステロールの主成分の一つであるが、一部のHDLコレステロール(小粒子HDL)は動脈硬化や心臓疾患のリスクを高めるために有害である可能性が指摘されている[10]。

また中年~老年の健康な女性(43~69歳、米国)を対象とした疫学調査では、トランス脂肪酸の摂取量が多い群ほど体内で炎症が生じていることを示すCRPなど炎症因子や細胞接着分子が高いことが示された[11]。これについて、研究者は動脈硬化症の原因となる動脈内皮での炎症を誘発している可能性を指摘している[12]。炎症因子についてはアトピーなどのアレルギー症へ悪影響をおよぼす疑いが提示されている。

摂取量が多い場合に、不妊症のリスクが高まる可能性がある[13]。



トランス脂肪酸の悪影響の度合いや、普段我々がどれくらい摂取しているのか(超過しているのか余裕があるのか)など考えるべきところは多くありますが、少なくとも、

  • トランス脂肪酸を過剰に摂取した場合、心臓疾患を始めとした様々な疾病のリスクを高める

という点は正しく、またその1点を持って主に健康志向の人たちの中でトランス脂肪酸を忌避する傾向が強いということが言えるようです。



「クリスピー・クリーム・ドーナツ」の取り組みについて

いろいろあってたまたま「クリスピー・クリーム・ドーナツ」のサイトを見ていたら、「植物性ショートニングのプールに飛び込みます」とか、トランス脂肪酸を気にする健康志向の人が見たら卒倒しそうな言葉が書いてありました。

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発祥の地であるアメリカではトランス脂肪酸が禁止されている州もあることですし、興味本位で問い合わせてみました。

初めましてこんにちは。
いつも美味しくいただいています。

ところで御社サイト内「ドーナツシアター」にて紹介されている調理法にて「植物性ショートニング」の使用が明記されていますが、御社のトランス脂肪酸に対する見解をお聞かせください。


翌日、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン株式会社お客様サービス室様よりすぐに返信を頂きました。ありがとうございます。以下、抜粋して引用させていただきます。

アメリカ本国のKrispy Kreme Doughnutsにおいてはトランス脂肪酸フリーの植物油を使用しており、
私どもクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン㈱におきましても、低トランス脂肪酸への社会的関心から、
アメリカのものと仕様を合わせるようメーカー様の協力のもと改良を行い現在に至っております。
しかしながら消費者庁より開示されておりますガイドライン『トランス脂肪酸の情報開示に関する指針について』により、
日本においては“低トランス脂肪酸”とうたうことができないのが現状となります。
今後ともメーカー様のご協力を賜りながら改善に努めて参りますが、元々トランス脂肪酸の摂取量が少ない我が国において、
トランス脂肪酸の過剰摂取を防ぐ一番の対策は、バランスのとれた食生活を送ることとが大切と考えております。


まとめると、

  • アメリカ本国では法規制もあってトランス脂肪酸を含まない植物油(≒ショートニング)を使ってるよ
  • 日本ではトランス脂肪酸入ってるけど一応低トランス脂肪酸の植物油(≒ショートニング)にしてるよ
  • ただ消費者庁の指針で商品表示としてはそれを書いてないよ
  • (トランス脂肪酸だけが悪いってわけじゃないよ)

という感じですかね。


トランス脂肪酸を含まないショートニングもある

ショートニングすべてがトランス脂肪酸満載というわけではなく、トランス脂肪酸フリーのものや低トランス脂肪酸のものもあるんですね。不勉強でした。アマゾンでも売ってました。


そこまでしてショートニングを使わなくても…と思うんですけど、やっぱり便利なんでしょうね。揚げ物なんかがさっくりふんわりなるっていいますしね。クリスピー・クリーム・ドーナツが使っているショートニングもこういう系統のものだということでしょう。


消費者庁のガイドラインによって「低トランス脂肪酸」と表記できない?

実際にそのガイドラインを見てみましょう。こちらです。

トランス脂肪酸の情報開示に関する指針(PDF) – 消費者庁


「低トランス脂肪酸」に関する記述を抜粋引用してみます。

3.強調表示
トランス脂肪酸に係る強調表示(「含まない」又は「低減された」旨の表示をいう。)をする場合は、以下の基準による。この場合、栄養表示基準に定める一般表示事項(熱量並びにたんぱく質、脂質、炭水化物及びナトリウムの含有量)に加え、飽和脂肪酸及びコレステロールの含有量を表示する。
① 「含まない旨」の表示
次のア及びイのいずれにも該当する場合には、トランス脂肪酸に係る「含まない旨」の表示(「無」「ゼロ」「ノン」「フリー」その他これに類する表示をいう。)をすることができる。
ア 食品100g当たり(清涼飲料水等にあっては100ml当たり)のトランス脂肪酸の含有量が0.3g未満である場合
イ 食品100g当たりの飽和脂肪酸の量が1.5g(清涼飲料水等にあっては、食品100ml当たりの飽和脂肪酸の量が0.75g)未満、又は当該食品の熱量のうち飽和脂肪酸に由来するものが当該食品の熱量の10%未満である場合
② 「低減された旨」の表示
トランス脂肪酸に係る「低減された旨」の表示をする場合には、比較対照する食品名及び低減量又は割合を表示する。
なお、食品単位当たりの使用量が異なる食品を比較対照食品とし、食品単位当たりで比較して表示を行う場合には、消費者への適切な情報提供の観点から、食品単位当たりの比較である旨を表示する。


まず、どれくらいの含有量であれば「トランス脂肪酸なし」と呼んでいいのかという基準。日本では食品100gあたりのトランス脂肪酸が0.3g未満でありかつ飽和脂肪酸が1.5g未満であるもので、飽和脂肪酸に由来するカロリーが食品全体の10%未満であれば「トランス脂肪酸なし」と表示出来ます。アメリカの基準が「食品100g中0.5g未満」であることを考えるとまずまず妥当な基準だと思うんですがどうでしょう。(飽和脂肪酸に言及しているあたり、アメリカよりきっちりしてるかも。カナダの少し緩い版?)。

一方「低トランス脂肪酸」の表示については明確な基準はなく、そのかわり比較対象する食品名と低減量または割合を表示することが求められています。逆に言えばそれでOK。「トランス脂肪酸を8割カット!(従来使用の菜種油と比較)」などと書けると言うことですかね。

…なんだ、書けるんじゃん。

面倒くさいのでもう一度聞くことはしませんが、クリスピー・クリーム・ドーナツはちょっと誤魔化したか、誤解してるか、説明を省いたかしてそうな気がします。「日本においては“低トランス脂肪酸”とうたうことができない」のは現状ではないので、クリスピー・クリーム・ドーナツはきちんと表示したら良いと思います。せっかく取り組んでいるのだし。


バランスのとれた食生活のために

最後の「あんまり神経質にトランス脂肪酸を敵視しないで」的なパラグラフのところの表現、「バランスのとれた食生活を送ることとが大切」っていうのはかなり自虐的な言い回しですよねーと思いました。意地の悪い言い方になりますが、揚げドーナツを売ってる会社にそんなこと言われてもねー。要するに、「『クリスピー・クリーム・ドーナツ』なんか食ってないでまともな飯食べなさいよ」ってことですよね。解ります。全くもってその通りだと思います。いや、好きなのは仕方ありませんけれども。



トランス脂肪酸を忌避すれば問題は解決するのか(農林水産省の見解)

個人的な話をしますと、僕自身はトランス脂肪酸について特別に批判したり忌避したりしているわけではないです。ケーキやクッキーも「特別好き」というわけではないので意識的に避けるまでもないだけです。もちろんトランス脂肪酸を過剰に摂取し続ければ様々な疾病の原因になる、そのことは了解していますが、基本的にはWHOのデータを受けてまとめられた農林水産省のこちらの指針を信頼したいと考えています。

農林水産省/すぐにわかるトランス脂肪酸


以下、抜粋です。

農林水産省/すぐにわかるトランス脂肪酸

トランス脂肪酸が体に悪いって本当?

脂質は三大栄養素の一つであり、食品からとる量が少なすぎると健康リスクを高めることがあります。一方で、脂質は炭水化物(でんぷんや糖類)、たんぱく質に比べて、同じ量当たりのエネルギーが大きいため、とりすぎた場合は肥満などによる生活習慣病のリスクを高めることも知られています。そのため、飽和脂肪酸やある種の不飽和脂肪酸には、食品からとる際の目安量や目標量が定められています。

トランス脂肪酸については、食品からとる必要がないと考えられており、むしろ、とりすぎた場合の健康への悪影響が注目されています。具体的には、トランス脂肪酸をとる量が多いと、血液中のLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が増えて、一方、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)が減ることが報告されています。日常的にトランス脂肪酸を多くとりすぎている場合には、少ない場合と比較して心臓病のリスクを高めることが示されています。

(中略)

トランス脂肪酸の目安量はどのくらい?

国際機関が生活習慣病の予防のために開催した専門家会合(食事、栄養及び慢性疾患予防に関するWHO/FAO合同専門家会合)は、食品からとる総脂肪、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸等の目標値を2003年に公表しました。
その中で、トランス脂肪酸の摂取量を、総エネルギー摂取量の1%未満とするよう勧告をしています。日本人が一日に消費するエネルギーは平均で約1,900 kcalですので、平均的な活動量の場合には一人一日当たり約2グラム未満が目標量に相当します。

(中略)

日本では何をしているの?

農林水産省が実施した調査研究(2008年)から、日本人が、一人一日当たり食べているトランス脂肪酸の平均的な量は0.92~0.96グラムと推定されます。これは平均総エネルギー摂取量の0.44~0.47%に相当します。 食品安全委員会は、2007年にトランス脂肪酸に関するファクトシート[外部リンク](PDF:247KB)を公表しており、その中でも日本のトランス脂肪酸の摂取量は平均総エネルギー摂取量の0.3~0.6%と見積もられると報告しました。



簡単に言うとトランス脂肪酸は悪くないって言ってるわけじゃないけど、その影響が出る可能性は低いと言うこと。具体的にはWHO/FAO合同専門家会合から公表されている摂取の目標値が1日2gであるのに対して、日本人の平均摂取量は0.9g程度であり、極端に偏った食生活(三食マーガリンとか)でない限りトランス脂肪酸そのものが影響を与える可能性は低いという話ですね。少なくとも今日ちょっとマーガリン舐めたから病気になるとかそういうことではありません。


またこれはWikipediaの中の「トランス脂肪酸批判による弊害」という項目でも触れられているのですが、トランス脂肪酸を避けることでその代わりに飽和脂肪酸の摂取量が増加し、心臓疾患リスクは高まらなかったかも知れないけれども生活習慣病リスクが高まるといった指摘もしています。「トランス脂肪酸が心配だからケーキは食べない」というのであれば問題はないが、「トランス脂肪酸フリーのケーキを食べる」では健康的な意味では何も解決していないということですね。それがトランス脂肪酸であれトランス脂肪酸フリーであれ、過剰な脂質の摂取は控えるべきです。

先の「クリスピー・クリーム・ドーナツ」に関して言えば、「トランス脂肪酸フリーだから」「低トランス脂肪酸だから」→「食べても安心」ではなく、そもそもそういうものを食べすぎるな、ということです。好きな人には辛いかも知れませんが、クリスピー・クリーム・ドーナツさんもそうおっしゃっているので、来店頻度が多いなと自覚のある方は少し頻度を下げてみた方が良いかもしれません。



まとめ

トランス脂肪酸については、その悪影響が喧伝されている一方で、「トランス脂肪酸」というものが多くの脂肪酸をさす総称であるがために詳しいことが解っていないのが実情です。詳しいことが解っていないから安全というわけではありませんし、今後、具体的に悪影響のあるトランス脂肪酸が特定され、忌避すべき成分として指定される可能性も否定できませんが、WHO/FAO合同専門家会合による目標値を鑑みるに、現状において特別神経質になるべき成分ではないように思います。多少無茶したところで、日本人が目標値を超えてしまうようなことは無さそうです(毎日コンビニのパンばっかり食べてる人は考えた方が良いですけどね)。

一方で「だからマーガリンは安全」「だからショートニングは安全」ということではありません。そうではなく、トランス脂肪酸を含めた脂質全体をコントロールしていくことが健康にとっては大事だよね、というところがこの話の帰結でありまして、当たり前すぎて退屈な結論でもありますが、まあひとつその辺で。