プロ野球の経営はどうなってしまうの?(Sports Graphic Number 754「Number on Number」より)

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小川勝さんによる巻末コラム「Number on Number」で、プロ野球の年棒の推移とに関するデータが取り上げられていました。

プロ野球は開幕から1カ月が過ぎ、今年も選手会から年某調査の結果が発表された。

(中略)

全選手の平均が3830万円となって、6年ぶりに史上最高額を更新したのである。

(中略)

球界全体の収入も伸び始めたのであれば、それも当然だろう。だが、どう見てもそうではない。

調べてみたところ、年棒に関するデータは日本プロ野球選手会の公式ページにて公開されているデータのようなので、少しそれを見てみつつ小川さんの論を後追いしてみます。

日本プロ野球選手会公式ホームページ




平均年棒の年度別推移

日本プロ野球選手会が公開しているデータのうち「選手資格別(全球団)」と言うデータを下記に引用。データは1980年(昭和55年)から2010年(平成22年)までの31年間分。

グラフにするとこんな感じ。




小川さんはこのデータと球団の経営状況との比較として観客動員数を引いているので、次で観客動員数の推移も見てみましょう。



観客動員数の推移

観客動員数については以下のページにデータあるのでお借りすることにします。

観客動員数推移

データ自体はなんと1950年から2004年まであるのですが、平均年俸データに合わせて1979年から2004年までの26年間分をお借りしてセ・パ両リーグを合算しています。また2005年から2009年分については下記からお借りしました。

NPB観客動員数・動員率(2005年~2009年)

2010年分については下記ブログからお借りしました。

新 プロ野球 観客動員 ランキング 速報 !

なお、2004年以前と2005年以降とで発表に当たっての基準が変更されています。そのためグラフにも大幅な変化がありますが、これは何らかの理由で観客動員数が減ったと言うことを指すものではありません。また2005年以降は実数値を発表することになっていますが、随分と水増しもされているようですので(信憑性がより高いと言われる「ぴあ総研」のデータは手に入りませんでした)、数字自体については一応話半分で。

同様にグラフにするとこうなります。





2つのグラフを重ね合わせてみる

「平均年俸」「観客動員数」の2つのデータが出そろったので、1つのグラフにまとめてみます。ある年の支配下公示選手の平均年俸とその年俸の原資となったであろう前年の観客動員数(全球団平均)とを一致させています。






さて、このデータをどう読むか

水増しであれ何であれ観客動員数の基準が変更になってしまっているのはデータを見る上で非常に邪魔くさいのだけど、先述した小川さんのコラムで述べられている経営を圧迫する件(観客動員数は伸びていないのに人件費ばかり伸びている)をどう読むかということですが…

2005年以降の状況に限って言うと、大枠で観客動員数微増に合わせて平均年棒も微増と読めるのではないでしょうか。もちろん球団ごとに焦点を合わせれば、上手くやっている球団もあればそうでない球団もあるだろうとは思いますが、少なくとも「悪化している」という印象は持ちません。直近の年俸の微増を即経営悪化に結びつけるのはちょっと無理があるかなぁと思います。
(ただし観客動員数が収益と連動していると仮定して、ですが)



一方で視野をもう少し広げて1980年から見ていくと、また別の印象を持ちます。

グラフにしてみて驚いたのですが、観客動員数は実は1979年からそれほど変わっていないのです。緩やかに増えている分は主にパ・リーグの増分で、1980年 → 2004年の観客動員数は46%増で約+1万人。

一方で平均年棒の方は大きく変化があります。1980年時に602万円だった平均年俸は2004年には3,805万円で6.32倍になっています。物価の違い(2005年を100としたときの消費者物価指数は1980年が76.9、2004年が100.3)を考慮に入れても4.85倍と大きく変化しているわけです。



ああもちろん…設備への投資やグッズの充実、放映権の確保など、単に観客動員数の動きだけでは追えない収入増はあると思うので、安易に「収入が増えていないのに支出ばかりが増えている」とは論じられないでしょう。むしろ1980年から大して観客数が増えていない中で、各球団はそれぞれかなりの努力(親会社の資本注入も含む)をしてきたからこそ、ここまで持っていると言うことでしょうから。

しかし2004年の近鉄の件から考えると、読売ジャイアンツが持っていた全国規模の放映権益が目減りし始めて久しく、全体の利益のスケールが小さくなってる中で人件費だけがじりじり上がっていくのはやはり異常かも知れません。ここ5年の数字が悪化していることを示してはいないにせよ、2004年の状況から何か改善しているとは思えませんし。

いやもしかすると、地元密着 → 住民のチームへの愛着アップ → グッズ収入増(サカつく思い出すな…)とか、地元テレビ局への放映権売却などで以前に比べると収益構造は改善しているのかも知れません。こうなってくるとその辺の収益構造が気になる所なんですけど… Jリーグと違ってプロ野球はそういうの公開してないんですよねぇ。基本的に親会社がある球団が殆どだし、チームの収益の発表が母体の株価に影響与えると困るとかそういうことなんでしょうか。うーん。いや知りませんけども。




やっぱりMLBはデカイなぁ

まぁそんなこんなで「論」の方はあんまりまとまりませんけども、数字を見るに付けMLBの規模の大きさを考えて嘆息するしかないというか。あれだけの高額年俸があるのは、もちろんそれだけの経営基盤があるからこそのことで、一番小さいフロリダ・マーリンズでも年間収入132億円(広島カープの2倍)、収支は42億円の黒字!

The Business Of Baseball – Forbes.com

あれだけ年俸払ってても赤字の球団はデトロイト・タイガース(27億円)とアリゾナ・ダイアモンドバックス(5500万円)の2チームだけ。うーん。何でそんなに儲かるんでしょうねぇ?日本のプロ野球がどうこうと言う話よりも、なんかもうそっちの方が凄く不思議です。

どうしたらそんなになるんだろう…