【読書感想文】 フェラン・ソリアーノ / ゴールは偶然の産物ではない~FCバルセロナ流世界最強マネジメント~



木崎伸也さんのブログで紹介されていて気になったので、元バルセロナ副会長(=経営責任者)のフェラン・ソリアーノ氏の著作を読んでみました。


本書は、ざっくり言ってしまうと「ビジネス本」。バルセロナFCの経営陣は皆、本来は本業を別に持っている経営者がボランティアで参加するという形を取っていて、ソシオによる投票で選ばれるそうです。具体的にどんな雰囲気の投票になっているかは解りませんが、本書を読む限りでは複数の候補が経営方針やチームの目標を掲げて立候補し、その中から選ばれるという感じでしょうか。スペインのクラブが特殊なのはよく解ってるつもりですが、それにしてもこの構造、それだけでも羨ましい。

ともかく経営陣は素人というわけではないので、それぞれがそれぞれに経営哲学を持っていて、2003年から2008年にかけてのバルセロナFCの躍進(経営的にも成績的にも)においても、それらの経営哲学を反映させた結果であるし、それはどんなビジネスでも変わらない…という方向で書きたいようなのですが、どうしても溢れ出る「バルセロナ愛」を隠しきれなくて最終的には、「我がバルセロナはサッカーという特殊なビジネス界でこのような方針を打ち立てて成功を収めた」という方向に話が行ってしまってなんかもう微笑ましい(笑)。


ただ書いてあることはもの凄く、ビジネスとしてまっとうです。市場考察/分析の結果は、確かにサッカー界の特殊な面を反映していると思いますが、そこに至るためのプロセス(市場規模、競合の有無、特徴の調査、戦略、目標の設定、人材の確保、交渉、マーケティング…)そのものはもの凄く明快で、また実行には非常な努力が必要であるということもわかりやすく説明されていて単なるビジネス本ではない奥行きを見せています。

またただ哲学やイデオロギーだけではなく、具体的な数値グラフ「競合クラブと自クラブの年度別売り上げ推移」や「競合クラブと自クラブの売り上げに占める各要素の割合」、「主要リーグ3部までの選手年棒の総額と成績の分布図」なども一緒に掲示されていて、それがまた説得力を増すというか。



ちなみに、僕が一番感銘を受けたのは、交渉に関する部分。

全てをメールや電話を使って効率的に行おうとするアングロ・サクソン系と、とりあえず一回会って話をしないと気が済まないラテン系と言う描写もことのほか面白かったんですが、交渉を上手く進めるためにはどんな準備が必要か、実際の交渉の場ではどんな心構えで居ると動かされにくいか、という点が非常に実践的にまとめられていて役に立ちます。

文化が違うから役に立たない…というよりも、単に日本人は交渉が下手くそなだけかと。一方が交渉の目的を整理し、合理性を追求し、スマートな交渉を行うことが出来れば、恐らくそれは双方に利益のあることなのではないか…と思います。感情を抑えてドライに徹するのが交渉というわけでもないようですし。

自分もその手の交渉が非常に苦手で、30歳越えてからようやく何となくの余裕を持って臨めるようにはなりましたが、持って30分。それ以上複雑になると目的を見失ったり、不必要に無目的に感情的になったり、思いつきを口にしてしまったりしますね。。。なかなか難しいです。



本全体としては、バルセロナFCの成長物語をエンタテイメントとして楽しむと言うよりもむしろ経営者視点に立った「実録」になるので、サッカーが好きと言うだけでは読むのはちょっとしんどいかも知れませんが、企業経営についてもしくは業務の進め方について何かヒントを探しているのであれば、この本における合理的かつ論理的な考え方は非常に参考になるかと思います。

多分、日本人による日本人のための使い捨てビジネス本(副題:私の特殊な成功を如何に一般化して書いて小銭を稼ぐか)よりかは、随分刺激的ではないかと。もし書店などで見かけることがあれば、一度立ち読みしてみてください。