料理人の喫煙について

イタリアンシェフ14
ちょっと思うところあって、しばらく料理人の喫煙について調べていました。統計的な書籍・文書はなさそうなので、あくまでネット上の声を拾ってみただけですが、現状としてはどんなことになっているのかについて。喫煙者は多いのか少ないのか、喫煙する場合にはどんな状況で喫煙しているのか、喫煙した場合に料理に影響はあるのか、料理人が喫煙していた場合の客側の印象は、など。



一般的な印象とは違っていそうなこと

まず第一に、タバコを吸う料理人は非常に多いです。飲食店の性格にもよるとは思いますが、一流料亭であれ、チェーン店の居酒屋であれ、料理に携わる人間で喫煙習慣を持つ人はとても多い。明らかに平均を上回っています。止めた、と言う人も多いけれど、店舗によっては吸わない人の方が少ないと言うこともあるようです。

また一般的な印象として、「喫煙する人間は味覚が鈍くなっており、味がわからなくなっている」というものがあります。僕自身、タバコを止めてから、味や香りに対する感覚が鋭敏になったのでその印象はわからなくもないのですが、喫煙者、元喫煙者の料理人たちの意見をまとめると、次のようになりそうです。

  • タバコの味覚に対する影響は限定的で、苦味が鈍るくらい
  • 喫煙したあと口をゆすげば、味覚に対する影響はない
  • タバコを吸っているからといって美味しい料理が作れないわけではないし、タバコを吸っていないからといって美味しい料理が作れるわけでもない

参考



意外に感じましたが、喫煙習慣があってもほとんどの味に対して問題がないそうです。

唯一苦味(例えばカフェイン)に対しては感度が鈍くなっているそうですが、料理に対する影響は限定的と言えそうです。そういう意味で、「タバコを吸っているから味オンチ」だとか、「タバコを吸っているから美味しい料理を作れない」という指摘は恐らく的外れでしょう。タバコを吸っていても吸っていなくても、腕のいい料理人は美味しい料理を作れるし、腕の悪い料理人は作れない。そういうことだと思います。



料理人としてより神経質になるべき問題

では、味じゃなければ何か?と言えば、臭いですね。

喫煙者って、基本的にタバコの臭いに慣れすぎて余り感じなくなっていると思います。今一緒に働いている50代男性は、何か仕事のついでに喫煙所で一服して帰ってくるんですけど、煙草をくわえて無くても口からタバコの臭いが流れてくるので「ああ、吸ってきたな」というのが一発でわかります。口をゆすいでも、何かを飲んでも、わかります。自分では気付かないんですけどね。だから、何かに「タバコの臭いが付く」という感覚にもとても鈍くなっています。


ネットで客側の声を見てみると、「食材にタバコの臭いが付いていて不快になった」という声がいくつかありました。同時に、「タバコを吸ったあと、手を洗わずに調理に戻る」とコメントしていた現役の料理人と思われる人もいて、タバコの臭いに対して無神経になっている人が一定数いるという印象です。

もっとも「料理がたばこ臭い」という感想は、漫画「美味しんぼ」の影響もありそうで……どうなんでしょう。個人的には少し神経質すぎる面もあるのではないかなと思います。僕自身は刺身にタバコの臭いを感じたことはありませんし。目の前でタバコ吸いながら刺身を引くような店に行ったことも無いので、運良くそういうお店に当たっていないだけかも知れませんけれども。

参考



ただね、タバコを吸った人ならわかると思うんですけど、タバコを吸ったあとの指ってものすごいたばこ臭いんですよね。別に煙に燻されてるわけではない、タバコの葉に直接触れているわけでもないんだけど、挟んでいる指自体がすごいたばこ臭い。そのことを考えたら、タバコを吸った指そのままで寿司を握ったり、生野菜をつかんだり、皿を用意したりといった動作を行うのは、余りに無神経だよなあと思います。用を足したあと念入りに手を洗って消毒するのと同様に、喫煙のあと手を綺麗に洗って臭いを落とすのは、料理人として最低限の姿勢ではないかなと。



集中力のためやストレス発散という理由は喫煙にありがちな錯覚

料理人やコック.パティシエでもタバコ吸ったりしますか – 集中力を必要とす… – Yahoo!知恵袋

集中力を必要とする仕事ですからね、体力、知力ともに長丁場を終えるとどうしてもちょっと一服と思ってしまいます。



他にもいくつか同様の答えがあり、体力的・精神的にキツいからタバコを吸うのだ説はありましたが、これ、喫煙者が良くいう「タバコを吸うことで気分転換になっている」と言う錯覚と同じなんですよね。タバコを吸わない人間が集中力を欠いたり、ストレスをため込んでパフォーマンスが落ちたりするか?というとそうではありません。

そうではなくてタバコを吸ってから時間が経つと、血液中のニコチン濃度が下がるにつれて集中力が落ち、ストレスを感じるということなんです。なぜか?それがニコチン中毒だからです。タバコを吸わない人間は、そもそもそんな状態にならないんですよ。料理人というのは基本的に肉体労働者であり、劣悪な環境で働いていることが多く、何らかの気分転換を必要とするのは理解出来ますが、そのこととタバコの必要性とはイコールではありません。



最低限、喫煙は見えない場所で

先日、祇園祭の宵々山で街を歩いていたら、とある出店ではしまきを焼いているおっちゃんがくわえ煙草で作業してました。え、お前それ灰落ちるだろ。手元のはしまきに。煙だったら目に見えない物質だけど、灰って確実に目に見えるし、落ちないように努力することは出来るだろ。さすがに引きましたね。出店だからまあ、やんちゃなおっさんが多いのは仕方ないけど、今どきそれはねーわ。せめて射的とかならいいけど、お前……

料理人の喫煙にもいくつかパターンがあるようです。

  • カウンター内で喫煙
  • 厨房で喫煙
  • 店の裏口から出て喫煙
  • 休憩時間に喫煙

個人的にカウンターで吸われるのはちょっと許容できないですね。いや、なんだろう、個人的な好みなのですけど、料理ではなくお酒を飲みに来た場所で、バーテンダーが吸っているのは気にならないんですよ、全く。細かいことをいえばお酒の味や香りに影響するでしょうけど、個人的には気にならない。でも料理はダメですね。隣で吸われるのも気になるけど、それはまあ喫煙可能な店であったり喫煙席であったりすればある程度は仕方ない、でも料理を出している本人が目の前で吸うとなったらそれはもうちょっと。申し訳ないですが、店出ます。


厨房で吸う、というのもあまり許せないですね。客から見えないところに行って吸っているというつもりなのだとは思いますが、そこには、今から出る料理も、皿も、食材も、またタバコを吸わないアルバイトもたくさんいるわけです。そこってタバコ吸って良いところだろうか?自分がタバコを吸うことで、店の料理やスタッフに何らかの悪影響を与えないだろうか?そういう想像が出来ないことがちょっと無理。まあ、喫煙者にそういうことを言っても理解出来ないことはわかっているんですけどね。

あと、別の意味で気になっていることは、タバコ休憩ですかね。非喫煙者の料理長は苦笑いしながら「まあ、僕らも2,3分休憩取れば良いだけのことだから」って言ってますが、なんですかね、他のスタッフが持ち場を離れずに仕事している中で、自分1人持ち場を離れて仕事中断するその神経がわかんないんですよね。だったら順番に休憩とれるようなシステムにすれば良いと思うんですけど、なぜだか「社員の喫煙者はタバコを吸いに行って良い」という謎ルールがあり、会社的に特に問題にならない。業務時間中に休憩時間を入れられない(法律的にアレですけど)くらい人手が足りてないっつうのに、ねえ。個人的な経験から、「ニコチン中毒は病気だから」と思って考えないようにはしてますけど。



料理人が喫煙することに対する個人的な結論のようなもの

料理をする人間がタバコを吸うと聞いて驚く人は多いのですけど、でもね、料理人って結局のところ、肉体労働者なんですよ。職業で差別する気はありませんが、喫煙率で言えば、建設作業員とかと同じイメージです。若い頃からやんちゃしていたり、身の回りに喫煙者が多い環境で育ったり、そういう中で料理の道に進む人が多いわけで、必然的に喫煙率も高くなります。そういう文化なのだと思います。それを変えるのは簡単なことではありません。

僕自身、元喫煙者だと言うこともありますし、喫煙者の料理人にタバコを止めるようにとまでは言いません。味覚への影響が限定的で味に問題がないのであれば、喫煙習慣はもはや本人の健康問題以外の問題がないので。ただ厨房やカウンターなど、料理の現場で喫煙することが、お客様へのサービスにどんな影響を与えうるかについてはそれぞれがきちんと意識して欲しいとも思います。


例えば、食材や皿があるところないしは調理中に喫煙するのは、料理人としての良識を疑う行動だと思うわけです。ましてやその吸い殻をシンクに捨てたり、喫煙したあとの指でサラダを用意したりする行動は、料理人として、最低限のレベルを下回っています。喫煙することを批判すると、それを喫煙習慣に対する批判だと受け取る喫煙者は多いのですけど、そうじゃあないんです。正しく喫煙できていないことを批判しているんです。喫煙すること自体よりも、喫煙したいという思いで一杯で、料理の向こうにいるお客様が見えなくなっていることが、ダメですよね。


与えられた環境で働いている現状では、そこがどんな環境であれ、それに合わせて働いていくしか出来ませんが、自分が環境を作る立場になったときには、こうしたことを重視して行きたいと考えています。

また、料理人という職業世界が、早く、一般社会と同じレベルで労働環境を考えられるようになると良いなとも思っています。難しいでしょうけどね。