雨。

雨の中を歩くのが好き。
静かに、広がるように落ちてくる雨粒の中を、
身をすくめてゆっくりと歩く。


街は、屋根を求めて小走りに急ぐOLや、
片手に持っていた傘を慌てて開くサラリーマン、
カフェから出て、手をかざしながら談笑する女性や、
顔を曇らせて文句を言う工事関係者、
嬉しそうに身を震わせて飼い主を見上げる犬、
稼ぎ時、とばかりに慌てて自分の車に戻るタクシー運転手。

オープンカフェではスタッフが慌てて椅子を雨陰へと移し、
携帯ショップの販売員が憂鬱そうに外を眺めている。


そんな街の中を、僕は一人、歩く、
多分、傘を差した方がいいんだろう、今なら取りに帰れる。
でもね、まぁいいや。


雨粒は、灰色に乾いた空気の中をまっすぐに落ちてきて、
黒くざらついたアスファルトの上に落ち、瞬間にはじけて溶ける。
そんな様子が、こちらからあちらへ移動していき、
街は雨に包まれる。


街の音は雨音に溶け、
静かに、雨粒の流れへと身を委ねる。

僕は、その音を聴くのが、好きなのだ。