「日本はなんでサマータイムを導入しないの?」

「ヨーロッパはみんな導入してるじゃん。日本はなんで検討しないの?」

科学的素養があるのではなく子どもと同じくらいの純粋で素朴な感想なので、説得するにはきちんとした理路が必要で、それをスペイン人に日本語で説明するのは難しかったです。イラッときた理由は「ヨーロッパは合理的に制度を作ってるのに日本はいつまで経っても非合理的」という感じのニュアンスが含まれていたためです。しかもよくわかってないスタッフの女の子まで「日本は保守的ですから変わらないんですよ」とか言い出す始末。どう思おうと勝手ですけど、無知な誤解は、しかもステレオタイプを前提とした誤解は気に入りません。

サマータイムについては、毎年のように導入しましょう的な話が持ち上がりますが、検討の末、実施は見送られます。シェフの感想は「明るいうちに活動するから電気代の節約になる」「日没が17時だったら18時にずらせば?」だったのですが、まあなんというかいろいろと素朴すぎるようで……きちんと平易な日本語で説明できるようにまとめておこうかなと。



冬時間をずらすことに意味はあるのか

まず、17時が日没のところ18時になるように1時間ずらすと言うことは、朝7時の日の出が朝8時にずれると言うことです。昼間の時間は変わらないわけですから、夜暗い時間の活動時間が減った分、朝暗い時間の活動時間が増えるだけです。サマータイムというのは夏実施するからこそ意味があるように見えるわけで、冬やったところで別に意味がありません。


日本でサマータイムが効果があるのか

次に日本におけるサマータイムについて。Wikipediaには「反対論」として以下の3点が挙げられていました。

  • 日本列島は東西に細長いため、東日本と西日本で日の出・日の入りの時刻に大きな差があり、全国一律にサマータイムを導入するには不適。
  • 日本は湿度が高く、日没後も蒸し暑いため、帰宅後の冷房需要が他国と比べて大きい。
  • 日本の周辺国の多くはサマータイム制を導入していないので、欧米のサマータイムに合わせる必要性が薄い。

もちろんサマータイムにはメリットもたくさんあるので、ここであげたデメリットだけあるわけでは無いのですが、夏の昼間の時間が長い高緯度地域で導入されていることが多いことを考えると、日本での効果は目減りするのではないかなと思えます。


そもそもサマータイムは省エネになっているのか

こんな報告があります。

Daylight Saving Time — DST

DST is also used to save energy and reduce artificial light needed during the evening hours ― clocks are set one hour ahead during the spring, and one hour back to standard time in the autumn. However, many studies disagree about DST’s energy savings and while some studies show a positive outcome, others do not.


The Never-ending Daylight Saving Debate

The California Energy Commission published a report, The Effect of Early Daylight Saving Time on California Electricity Consumption: A Statistical Analysis. According to the report, the extension of daylight saving time in March 2007 had little or no effect on energy consumption in California.

A California Energy Commission staff member released another report, Electricity Savings From Early Daylight Saving Time, in 2007. The report found there was no clear evidence that electricity would be saved from the earlier start to daylight saving time and that there was a chance that there could be a very small increase in electricity.

Research from the University of California showed that a state-wide switch to daylight saving time would cost Indiana households about $8.6 million in electricity bills each year. The study also estimated social costs of increased pollution emissions that ranged from $1.6 to $5.3 million per year. Moreover, the reduced cost of lighting in afternoons during daylight-saving time was offset by higher air-conditioning costs on hot afternoons and increased heating costs on cool mornings.



簡単に言うと、明るいうちに家に帰っても活動時間が長くなるだけで照明の使用時間は減るけどエアコンの使用時間は増えるので省エネにならなかった、ということらしいです。2008年のアメリカでの調査なので少し古いですが、日本に関する研究でもこんな結論を出しているところもあります。

産総研:主な研究成果 夏季における計画停電の影響と空調節電対策の効果を評価

サマータイムにより、すべての人々が生活時間を1時間前倒しすると、14時の電力需要が抑えられる一方、帰宅によって16時に家庭での電力需要が増加し、業務と住宅を合計した最大電力需要は引き上げられる可能性があることがわかった。



ポイントは「省エネにはならない」ということではなく、「省エネになるかどうかわからない」ということです。

つまり日本がサマータイムを再導入しないのは、保守的だからではなく効果が疑わしいからです。もちろん「疑わしい」だけであって「効果が無い」ということではないでしょう。サマータイムのメリットは省エネだけではありませんし。でも社会のシステムを大きく変更させデメリットも生じさせるだけのメリットがあるのか?という点が解決していません。夏時間が当たり前の国の人間がそういうことを解らないのは仕方ないけれど、日本人なら知っておいて欲しいなあ。


「そんな気がする」と思ってしまうのも無理ないですが、ま、そんな簡単なもんじゃないってことですよね。
まあこれを理解出来るように説明できるかは自信ないところではありますが。