健康に関して気になる情報について調べ可能な限り文献にも目を通した上でまとめます。始めからトンデモだと決めてかかるのでは無く、また正しいと決めるのでも無く、出来るだけフラットになるように心がけますが、なにぶんメモ書きであり内容の正しさを保証するものではありません。基本的にはWikipediaの情報を参考文献や他の検索結果を見つつメモし、考えるための資料を用意していく予定です。
第4回は「酸化」「酸性食品/アルカリ性食品」の補足です。
「酸化したもの」を食べてはいけないのか?
目次
- 「酸化したもの」とはなにか
- 「酸化すると酸性になる」と言う誤解
- 「酸化したもの」は食べてはいけないのか
- 「酸化した油」は摂取してはいけないのか
- 油はどれくらい酸化するのか
「酸化したもの」とはなにか
先のエントリ「「酸化」について」で指摘したとおり、酸化とは、酸素と結合すること、ないしは他の物質に電子を与える反応のことを指します。それでは「酸化したもの」とは何かというと、酸素と結合したもの(例:酸化銅、十円玉の色)や、酵素により変質されたもの(例:リンゴの変色など)のことです。リンゴの変色に関する生化学的な説明はこちらを。
・酵素的褐変現象
皮をむいたリンゴを空気中に置いておくと、茶色に変色してくる。これは褐変現象の一つであり、これにはポリフェノールオキシダーゼという酵素が関与している。
ポリフェノールオキシダーゼによってカテキン類が酸化されると、メラニン色素を生成する。これによって茶色に変色していくのである。この現象はリンゴ以外にバナナやジャガイモなどでも起こる。
「酸化すると酸性になる」と言う誤解
よく見掛ける誤解の手順として、以下のようなものがあります。- 食品が酸化する
- 酸化するのだからその食品は酸性食品になる
- 酸性食品は食べてはいけない
「酸性食品/アルカリ食品」という分類の妥当性については疑問がありますが、仮にここでそれが妥当な分類だったとして、その区分は「体内に取り込まれたときに血液のpHを上げるか/下げるか」を根拠に決まっているのであって、食品の酸化とは関係がありません。
リンゴの場合、元々の区分は「アルカリ食品」です。酸化によってポリフェノールからメラニンが生じますが、メラニンは酸ではないし、不溶性であるので酸性でもない。そもそもリンゴ成分のほとんどは炭水化物なのでポリフェノールの酸化は影響力は大きくありません。このことから変色したリンゴであっても「酸性食品/アルカリ食品」という分類を変えることにはなりません。
酸化することは、pH値という意味でも、食品分類という意味でも、酸性になるという意味ではありません。全く無関係です。
「酸化したもの」は食べてはいけないのか
まず、一概に「酸化したもの」と言っても食品によって生成物が異なります。リンゴの場合は先に述べたようにメラニンが生成されます。メラニンは似た名前の「メラミン毒素」とは違って無害の物質です。健康に支障はありません。生成物が食品によって異なる上、無害であるものも多いことから、「「酸化したもの」は食べてはいけない」のではなく、「食べていけないものは何か?」と考えることの方が正しいでのではないでしょうか。
「酸化した油」は摂取してはいけないのか
「酸化したもの」すべてを確認していくことは出来ませんが、そう言われているものを検討することは出来ます。「酸化して健康に害を生じる」とされている代表が油。油が酸化すると最終的に「過酸化脂質」と言うものが生じるようです。「過酸化脂質」は体内でも生成され、その有害性はコレステロール値の上昇だそうです。なぜ、LDLは悪玉コレステロールといわれているのか?
LDLは、肝臓でつくられたコレステロールを血液中を通って全身に運ぶのが役割ですが、どんどん運ぶと使い切れないコレステロールが血液中や血管壁に溜まり、活性酸素に出会うと過酸化脂質となります。過酸化脂質はマクロファージが食べてくれるのですが、食べカス(アテローム)にもコレステロールを供給し続けることになるなど、結果は、高脂血症、動脈硬化を進行させ、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの深刻な病気につながります。
一方、善玉といわれるHDLは、血液中や血管壁に溜まったコレステロールを“掃除”して肝臓に運ぶ、つまり、回収するわけですが、際限なく回収できるわけでもありません。また、このコレステロールの分子は小さなサイズであるため、活性酸素で過酸化脂質にされやすい性質もあります。
コレステロールを過剰にしてしまう自分自身が悪い、お分かりですね。
30代後半を過ぎれば新陳代謝は確実にdown方向、さらに食事や運動量、コレステロールを過剰にする生活習慣は10代から始まっていると考えてもよい今の日本です。過酸化脂質を抑制する食品摂取も大事なことですが、その原料となっている過剰なコレステロールをつくらないように、コレステロールをコントロールすることが何よりも大事です。
「過酸化脂質」の摂取に関しては中毒性という問題もあります。
過酸化物価の高い油脂は、ネズミの成長を阻害するといわれています。舞う氏の経口投与実験で、過酸化物価は生体内の酵素を不活性化し、血球の破壊、肝臓、腎臓、肺臓の肥大化や各組織の細胞変性や壊死等を引き起こすことがわかっています。
過酸化脂質自体は腸管からの吸収がよくないことから、腸管内壁を傷つけることで下痢や腹痛を起こします。
過酸化物の分解生成物であるヒドロペルオキシアルケナールは短鎖で低分子のため腸管での吸収がよく毒性が強いといわれています。尚、過酸化物は生成されるほど毒性は低くなります。
中毒というとすぐに常習性のことを思い浮かべる人がいますが、違います。有り体に言えば、消化不良ですね。インスタントラーメンやポテトチップスなども油で揚げたあと長時間空気にさらされることになるので酸化しやすいそうです。
その他Wikipediaによると、
- 蓄積されたコレステロール由来の過酸化脂質が動脈硬化を悪化させる
- 活性酸素を増加させるため酸化ストレスによる諸症状を引き起こす(DNA損傷など)
と言ったことが指摘されています(参照)が、個人的には、
- 動脈硬化についてはまず動脈硬化そのものをコントロールするのが必要であること(過酸化脂質自体が動脈硬化の原因になっているわけではない)
- 酸化ストレスについては他にも多くの要因があるので特定しづらいのではないか
と思います。
油はどれくらい酸化するのか
揚げ物油の印象があるせいか、とても酸化しやすく油全体が「酸化した油」(過酸化脂質)に変化してしまうようなイメージがありますが実際に酸化する油は多くありません。もちろん油が酸化しないというわけではありません。長期間保存することで酸化しますし、加熱することでも酸化します。しかしわずかです。科学的と言えるか解りませんが、「ためしてガッテン」に実験の結果があります。
対決!ガッテンVSエコ 極ウマ!手抜き調理術 : ためしてガッテン – NHK
食用油は、使い続けると「酸化して体に悪い」と思われがちです。そこでガッテンではかつて、新品の油を3日間、日光に当てたり、わざと酸素を加えてみました。しかし、体に害が出るほどの酸化は起きなかったのです。
実際に酸化するのはごく少量です。加えて経口摂取した過酸化脂質のうち、体内に取り込まれるのは全体の0.5%であるそうです。過酸化脂質そのものの有害性とは別に、食品からの摂取についてはそれほど神経質になるものでは無いのではないかと感じました。
まとめ
今回の主題「「酸化したもの」を食べてはいけないのか」に対しては、「食品による」と回答するのが正解だろうと考えます。理由は代表的な食品の酸化である、果物の酸化と油の酸化において、前者は完全に無害、後者は忌避すべきものとまでは言えない(ただし推奨するわけではない)という結論に至ったからです。ただし、対象が食品である以上気をつけるべき点はあります。それは食品が酸化すると言うことは、それなりの時間が経過していると言うことでもあり、その食品が腐敗している可能性が高いと言うことでもあると言うことです。「酸化」と「腐敗」とは全く異なるものですが、時間の経過という点では共通点があり、そういう意味での安全性には気をつけるべきでしょう。