【健康に関するメモ】第5回:カルシウムと牛乳の関係について

dawn-sky


健康に関して気になる情報について調べ可能な限り文献にも目を通した上でまとめます。始めからトンデモだと決めてかかるのでは無く、また正しいと決めるのでも無く、出来るだけフラットになるように心がけますが、なにぶんメモ書きであり内容の正しさを保証するものではありません。基本的にはWikipediaの情報を参考文献や他の検索結果を見つつメモし、考えるための資料を用意していく予定です。


第5回はカルシウムと牛乳の関係についてです。


目次

  1. 牛乳の摂取は骨粗鬆症を促進する?
  2. ついでなので砂糖とカルシウムの関係について。




牛乳の摂取は骨粗鬆症を促進する?

この手の話題で有名な「ハーバード大学による牛乳が骨粗鬆症を促進する調査」の中身は「牛乳あるいは食物起源カルシウムをより多く摂取すると骨折発生率が減るという証拠は見出されなかった」であって「牛乳を多く飲むと骨粗鬆症になる」ではありません。この2つの話(促進すると言う誤解とその読み解きは間違っているという話)は反対派・賛成派それぞれでとても有名です。

このことは牛乳乳製品健康科学会議による新谷弘実医師の公開質問状に、新谷医師の回答およびそれに対する再度の見解と共に記載されていて(参照)、上記「ハーバード大学の研究結果」もWeb上で公開され確認出来ます(PDF/英語)。公開質問状でのやりとりについてどう読むかは人それぞれだと思いますが、少なくともこの部分については、新谷医師は自分が欲しい部分だけを恣意的に引用した上で自らの理論を補強しているように感じました。

新谷医師が上げた論文に記述され新谷医師が指摘していない論旨の例:

  • ナトリウム摂取がカルシウム再吸収と競合する
  • 牛乳を取ることは骨密度に良い結果をもたらす
  • 牛乳を飲む人と飲まない人の骨折率には差がない

第3回「「酸性食品とアルカリ性食品」について」でとりあげたのウォルター・ウィレット教授の講演を参考にするのであれば、牛乳がどうこうと言うよりも人為的にビタミンAが添加された加工食品を取ることを控えたり、日光に当たる事の方が重要に思えます。

もちろんWHOは「牛乳を飲めば骨粗鬆症が改善する」と述べているわけでもありません。そればかりか「カルシウムの摂取量が多い国で骨折率が高いこと(=通称「カルシウム・パラドックス」)を調査しなくてはいけない」と述べています。今後の研究でそれがなぜなのか、牛乳なのか、他の乳製品なのか、カルシウムと一緒に摂取する何かか、外的な要因(日照時間など)なのか…そういったことが解ってくることになると思います。



ともあれ、現状、牛乳が骨粗鬆症や骨密度の低下の原因になるという研究結果はありません。
少なくとも低下の原因にはならないという研究結果であれば存在します。



ついでなので砂糖とカルシウムの関係について。

砂糖(ショ糖)の分解の仕組みは下記の通りです。

  1. ショ糖
  2. グルコース(ブドウ糖)→ 体内に蓄積

ショ糖を大量に摂取した場合、分解の仕組みは下記のように変化します。

  1. ショ糖
  2. ピルビン酸
  3. 乳酸

グルコースに仕切れなかったショ糖が乳酸に変化すると言うことのようです。乳酸の水溶液は酸性を示すため、それを中和するために血中ミネラルが消費されそれでも足りなくなるとカルシウムが消費される…というのが「ショ糖が骨からカルシウムを奪う」の仕組みです。


酸性食品とアルカリ性食品 – Wikipedia

海外の骨粗鬆症の診療ガイドラインである『骨粗鬆症 診断・予防・治療ガイド』[23]では、砂糖や動物性食品はカルシウムを奪う「骨泥棒」とされ、骨粗鬆症の予防のためアルカリ性食品を摂取するように言及している。また、そうしたことで発生した血中の酸を中和するのは骨の仕事だと解説している[23]。



これをよんで何を感じるでしょうか。それは人ぞれぞれだと思いますが、僕はこう思いました。「大量に摂取ってどれくらい?」それを明記しているサイトは残念ながら見当たりませんでした。どのサイトも「大量に摂取すると危険」と書いてありますが…大量に摂取すると危険なのは酸素も同じです。

カロリー面からの砂糖の摂取目安は成人の場合1日50グラム程度です。目の敵にされることが多いコカコーラは350ml缶で39グラムもの砂糖が含まれています。乳酸になるかどうかはともかくとして生活習慣病の観点から、コーラを愛飲するのはまぁやめておいた方が無難でしょうね…



なおショ糖の摂取以外にも「確実に血中乳酸濃度が上がるシーン」というのがあります。それは「運動」です。そのこととカルシウムの関連については軽く調べましたがよく分かりませんでした。いずれ運動生理学方面のテキストを読んでまとめてみたいと思います。



砂糖とカルシウムを同時に摂取するとカルシウムの吸収率が上がるという研究も

というわけで「砂糖を摂取するとカルシウムが血中に溶け出す」と声高に語られているわけですが、最近の研究では「砂糖(ショ糖)とカルシウムを同時に摂取するとカルシウムの吸収率が10倍になる」(城西大学・和田政裕教授)ということもわかっています。もちろん動物実験の結果なので人間に適用出来るかどうかは解りませんが(それを言うなら砂糖依存症も同じなのでなんとも)。

ただこの2つの結論は二者択一ではなく、両立し得ます。つまりショ糖をただ摂取するだけではカルシウムが流出するが、カルシウムを一緒に摂取すれば骨が弱体化することはないということですね。もちろん、ショ糖にはこのほかに「血糖値が高い」「カロリーが高い」などの問題もあるので特別に取る必要のないものの気がしますが、少なくともカルシウムに関して言うと、そこまで神経質になるほどもないかなと言う感じです。



ちなみに和田先生の論文はたくさんありすぎてどれを読んだら良いか解りませんでした。また「ショ糖を摂取すると骨が溶ける」という論についても検索結果がありすぎてネタ元がよく分かりませんでした。Wikipediaのショ糖には項目がないし…「コーラを飲むと骨が溶ける」というのは30年前に既に言われていたことなので、そろそろ誰か明確な基準くらい示しても良いような気がしますが、そういう論説は見掛けませんでした。確定的に明らかなのかな。




まとめ

牛乳とカルシウムの関係について解っていることを整理すると、牛乳を摂取することによって骨粗鬆症が進むということはないようです。一方で牛乳を飲めば骨密度が上がるという単純な話でもありません。じゃあどうすればいいのか?と言われると困るのですが、用量を守って適度に飲めば良いと思います。特段に骨密度に悪い影響があるようには読めませんでした。

もちろん牛乳に対する指摘はカルシウムに関することだけではありません。先の牛乳乳製品健康科学会議と新谷弘実医師のやりとりをざっとまとめてもこれだけあります。

  • 「ホモゲナイズ」によって脂肪が過酸化するのか否か
  • 牛乳タンパク質(カゼイン)が消化しやすいか否か
  • 子牛が牛乳を飲めるか否か

また両者が指摘していない点として、

  • 母乳を出させるために投与されるエストロゲンの人体への影響は?

という問題もあります。


文献を挙げ丁寧に書かれた牛乳乳製品健康科学会議の質問文に対して、新谷医師の回答は率直に言って誠実さと正確さを欠くものであるため、この資料に記載されている範囲においては、申し訳ありませんが新谷医師を信頼することは出来ません。自らの言説に対する抗議と回答を求められ、「各自お調べください」と的外れな文献を挙げるのは研究者として正しい姿勢なのでしょうか。主張の合理性を考慮すると質問文内での争点に関しては、牛乳乳製品健康科学会議の意見を支持せざるを得ません。

エストロゲンの影響についてはまた別の回に考えたいと思います。