なぜドイツは原発を停止出来たのか

風力発電所のイラスト
「フランスから電力を買ってるから」だとばかり思っていたのですけど、国境をまたいだ電力の都合というのはそう単純ではないらしく、やはり背景にはそう出来るだけの理由があるようです。で、なんでなん?






2023年4月、ドイツは全ての原発を停止

国内すべての原子力発電所の停止を目指してきたドイツでは、15日、稼働していた最後の3基の原発が送電網から切り離され「脱原発」が実現しました。今後、再生可能エネルギーを柱に電力の安定供給を続けられるかなどが課題となります。

ドイツで「脱原発」が実現 稼働していた最後の原発3基が停止 | NHK | ドイツ



ドイツの「脱原発」に関する解説記事

NHKによる解説記事

12年前の東京電力福島第一原発の事故を機に主要国として初めて原子力発電所の全廃を決めたドイツで15日、最後の原子炉が発電のための運転を停止しました。ロシアのウクライナ侵攻後エネルギーの供給不安を抱える中での原発廃止は、さらなる電力不足や価格の高騰を招きかないだけに市民の受け止めもさまざまです。日本と面積や経済力がほぼ同じで自動車産業がさかんなことなど共通点も多いドイツはなぜ脱原発に踏み切ったのか、その意味と影響を考えます。

ドイツ 原発なきエネルギー戦略は NHK解説委員室

2011年当時の解説記事

東日本大震災での日本の原発事故を受けて、早々に「脱原発」を決定したドイツ。ヨーロッパ有数の経済大国は、いかにしてエネルギー政策を転換したのか。

ドイツはなぜ「脱原発」ができたのか | 時事オピニオン | 情報・知識&オピニオン imidas – イミダス

電力を輸入するという単純な話ではない?

2011年に解説を書かれていた熊谷徹さんによる「「ドイツはフランスの原発由来電力を輸入している」は本当か」という記事もなかなか興味深いです。


好評連載の熊谷徹氏の欧州エネルギーレポート。多く寄せられている反響の中に、「そうは言ってもドイツは原発輸出国のフランスから電力を輸入している。だから再エネに取り組むことができるんだ」というものがありました。では、本当に再エネ先進国のドイツは、フランスから原発由来の電力が輸入されているから成り立っているのでしょうか。

「ドイツはフランスの原発由来電力を輸入している」は本当か | EnergyShift



要点

大事だと思う点を抜き書きしながら自分なりにまとめます。

まずドイツの現状について

  • ドイツが原発全廃を決めたのは2000年6月
  • 再生可能エネルギーが占める割合は43.8%(2021年上半期)と日本の18%(2019年)に比べて非常に高い
  • 再生可能エネルギーの次に大きな割合を占めるのは石炭だがそれも2030年までに全廃予定


そもそも原発の全廃を決定したのが2000年というのに驚きます。自国ないしは周辺国に石炭や天然ガスが豊富にあったという背景はあったにせよ、大胆な決断だと思います。しかもメルケル元首相が「やっぱ無理」と言いかけた2010年の翌年、福島原発の影響で「やっぱり全廃」となったのも運命的ですね。そのまま日和っていればメルケル元首相の評価も今と違っていたかも知れません。


自然環境など様々な要因があるので単純に比較するのは適切ではありませんが、日本に比べて再生可能エネルギーの割合が非常に高いのは、そうした長い時間を掛けた取り組みの成果だということが言えると思います。準備期間は日本の倍あるわけで「なぜ日本はこんなに少ないんだ」と言うのは、準備をして計画的に割合を増やしてきたドイツに対して少々失礼かもしれません。日本だってこれから増やしていけばええんやで。


意外だったのはドイツ国民の反応

  • 直近の調査では、原発全廃に賛成する人は26%、反対する人は68%
  • 電気代は直近2年間で60%以上上昇、今後も石炭の廃止に伴って高騰が見込まれる


政府がここまで大胆な決断をしているのですから国民はそれを支持しているのだとばかり思っていました。ドイツ国民は高い理想を持って社会問題に取り組んでいるのだと。原発全廃を決めた当時は確かにそうであったかもしれませんが、徐々に生活に影響が出始めるにつれ国民の意見は「やっぱ無理じゃね」に傾いて行っています。「原発全廃」の良し悪しは脇に置いて考えるに、国民の意見が政府になかなか反映されないのは世界各国どこでもあることなんだなと感じました。


ちなみに今現在は脱原発反対が68%に上っていますが、メルケル首相が全廃に戻した2011年当時は脱原発賛成が86%でした。


メルケル首相が党首であるキリスト教民主同盟(CDU)だけでなく、すべての保守政党が福島原発事故をきっかけに脱原発派に転向した裏には、リスク意識の変化だけではなく、「原子力推進の姿勢を維持したら、選挙で緑の党に票を奪われる」という懸念もあった。ふだんから原子力エネルギーに批判的だったドイツのマスコミは、福島原発事故についてセンセーショナルな報道を行い、ドイツ市民の間では強い不安が広がっていた。公共放送局ARDが福島原発事故の2週間後に行った世論調査によると、回答者の86%が「20年頃までには原発を廃止するべきだ」と答えている。

ドイツはなぜ「脱原発」ができたのか | 時事オピニオン | 情報・知識&オピニオン imidas – イミダス


そういう意味ではドイツの脱原発は国民の声を正しく反映した結果でもあるのですが、国民の声というのは変わりますからね……特に脱原発のように長い時間掛かるプロジェクトの場合、国民の声を汲み続けるか否かというのはなかなかに難しい問題ではあります。イギリスのEU離脱(ブレグジット)なんかでも散見されることですが。


話を電力に戻すと、原発が全廃される中で現在電力を支えているのは石炭発電なんですが、脱炭素の影響でこれも2030年までに全廃予定です。ドイツとしては「2035年以降は国内の発電をほぼ再生可能エネルギーで賄う」予定らしいですが、もし実現出来たらすごいですね。再生可能エネルギーは不安定でベースロード電源にはならないといわれているのに、それを実現しようとしているのですから、かなり挑戦的です。


ドイツ以外の欧州各国は

  • 脱原発はドイツ、イタリア、スイス、オーストリア
  • 新規建設中のフランスやフィンランドなど原発推進は8ヵ国


EUとしての声がデカいせいでつい「ヨーロッパは先進的」というような印象を持ちがちですが、原発に関しては原発推進の国も多数あります。なによりEUにおける原発の定義は「環境に良いクリーンなエネルギー」です。そんなバカなと思われる方もいるかも知れませんが、正式な方針です。


脱炭素社会の実現を目指す欧州委員会は2日、原子力および天然ガス発電について、環境にやさしい「グリーンエネルギー」として認める方針を明らかにした。委員会は2023年の発効を目指しているが、脱原発を推進する一部の欧州連合(EU)加盟国は激しく反発している。

EU、原発を「グリーン」認定の方針 ドイツやオーストリアは反対 – BBCニュース


つまり何が「正しい」かということは「視点」をどこに持っていくかで変わるということです。脱原発と脱炭素は現代社会においてはトレードオフの関係ですから、脱原発に軸足を置けば原発は「悪」だし、脱炭素に軸足を置けば「善」なのですね。で、今現在は脱炭素の方が国際的には優勢なので、原発推進の方が少し優勢だということです。


ドイツは「電力輸出国」

  • ヨーロッパは地続きなので電力の流入量から売買を判断するのは難しい
  • ドイツは2008年以来電力の「純輸出国」
  • よって、「フランスの原発のおかげでドイツは脱原発できた」は正しいとは言えない


そうだったのか……かなり目鱗でした。2008年からは電力の輸出量が輸入量を上回りしかも直近はかなり大幅な輸出超過です。


連邦系統庁の統計によると、2017年にドイツが外国へ売った電力量は730億kWhだった。これに対しドイツが外国から買った電力量はその4分の1にも満たないわずか170億kWhだった。つまりドイツの電力の「貿易収支」は大幅な出超なのである。

「ドイツはフランスの原発由来電力を輸入している」は本当か | EnergyShift


もちろん背景にはロシアから輸入した天然ガスなどもあったでしょうがその割合も徐々に減らしていっていることを考えると、ドイツが原発を停止出来た真の理由は「再生可能エネルギーの割合を増やしたから」と言わざるを得ません。2000年からの20年以上の取り組みの成果なんでしょうが、素直に凄いですね。



まとめ

「なぜドイツは原発を停止出来たのか」の理由は「再生可能エネルギーの割合を増やしたから」だということがわかりました。継続した取り組みは大事ですね。


一方で日本ではどうするか?という点については、日本も、脱原発・脱炭素に向かうべきだと思いつつ、現実的には今の日本ではまだ難しいというのが個人的な考えです。日本における再生可能エネルギーが占める割合は、2011年度の10.4%に対し2020年度には19.8%に増えました。エネルギー庁の計画では2030年に36~38%を目指しているそうです。


国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案(PDF)


問題は再生可能エネルギーを増やした後にどうするか?です。

ドイツに倣うのであれば原発全廃ということになりますし、フランスやイギリスに倣うのであればより安全で効率的な新型原発への置き換えということになります。この問題について積極的に発言する人たちの声の大きさからすると、原発全廃以外の選択肢は採りようがない気もしないでもないですが、いずれ何かを選択する時がくるでしょう。その時の状況に合わせた判断をしたいと個人的には思っています。