【レビュー】最近読んだ本をざっくり紹介してみる(2022年3月)

読書感想文のイラスト
読んだ本の棚卸し。定期的にやろうと思ってたのに去年9月にやって以来、すっかり忘れていたこの企画。久々にやります






書籍一覧

岡本隆司 / 中国史とつなげて学ぶ 日本全史



前著「世界史とつなげて学ぶ 中国全史」が非常に面白かった岡本隆司さんの続編。前回が中国史だったのに対し今回は日本史。薄々感じてはいたけれど、有史以来日本と中国の関係性っていうのはほんとに強いものがあり、直近50年ぐらいがたまたま日本の方が上だっただけでそれ以外の全ての期間は中国からあふれてくるものを海を利用してうまく堰き止め取捨選択しながら、言ってみれば中国に学び中国から逸脱しという繰り返しが日本史であったと。どうやらそういうことのようです。意識したことなかったですが、うん、すごい納得感ある。

あとで紹介する「日本の偽書」の中で「神代文字」というものが出てきます。これは漢字が日本に伝わる前に日本には既に神様が作った文字があったとされるもので、近代史において国威発揚のために利用されたのですが、実際のところ後代の偽作です。そんなものはありません。ただこれがあって欲しいと思う心、これを利用しようと思う心は結局のところ中国からの脱却に結び付いていくわけで、日本の立ち位置ってそういうところなんだなと。なかなか興味深い本でした。もう一度読み返したい。


【レビュー】 岡本隆司 / 世界史とつなげて学ぶ 中国全史




馬部隆弘 / 椿井文書―日本最大級の偽文書




かなり衝撃的な一冊。非常に面白いです。

内容をかいつまんで書くと、近畿地方を中心に様々な神社や旧家に伝っている古文書が実は1人の男が生涯掛けて作り上げた偽文書であり、一部では自治体公認の資料にもなっているという話。男の名前は「椿井政隆」(1770-1837)。郷土史家として実際に広範な知識を持ちつつ、(恐らく)地元の名家や箔を付けたい家、神社などの依頼を受けてそれらを持ち上げる偽文書を作ったという話なのですが特徴的なのは、その周辺に裏付けとなる史料を大量に用意すること。結果、え、これも?これも?となっていやあこれ大問題だろ。

面白いのはかなり精巧に作り込まれている一方で、わかる人が見ればわかるようにも作られていること。ひとつひとつ丹念に特徴を拾っていくと椿井政隆の仕事であることがわかるようになっていて、それらを串刺しにして見ると状況が綺麗に浮かび上がる。いやあこれ、椿井政隆が悪いということではなく、相当な需要があったんだろうねと思うんですよね。今でも箔を付けたい成金がやることって似たようなもんですから……そういう裏背景含めて楽しめる一冊です。




藤原明 / 日本の偽書



古本市場の安売り新書コーナーで見掛けたので偽書繋がりでこちらも。「椿井文書」が近代だったのに対し、こちらは主に「日本書紀」「古事記」以前のものとされる古代史を著す文書を集めたもの。ものによってはフィクションとして面白半分に書かれたものが後世に再発見されて歴史的史料とされてしまったものもあるような気がしますが、いずれにしても人は見たいものを見る、信じたいものを信じるというのが非常によくわかります。そんな昔のものがそんな都合良く大量に残ってるわけないんだよなあ。常識的に考えて。

ロマン、フィクションとして楽しむ余地はあるのかなとは思いますが、念のためこれを貼っておきたくなるそんな一冊でした。


ひろゆき





大石学 / 江戸のお勘定



意識したわけではないんですがたまたま同じような時期にまとめて日本史関連の本を読んでたので、一緒にこれも。

江戸時代の物価がどんなだったかを現代の物価に換算して教えてくれる一冊。雑学的な構成になっていて読みやすいです。どれもとても興味深いのですが全体を通して感じるのは、庶民でも十分に楽しく便利に過ごせる社会だったんだなと言うこと。落語なんかを通して感じるのは、江戸庶民は基本的に貧しくて慎ましい、話題には出るけど吉原に行ける人なんて極少数、たまの行事を全力で楽しむ……そんな感じなんですけど、思ったより楽しそう。家賃2万4千円で湯屋300円。何か仕事についてさえいれば食って楽しく生きるのには困らないそんな感じです。

こうして読むと遠い過去のように思えるけどでも実はほんの200年前のことなんだよなあ。。生活変わりすぎだなあ。




磯田道史 / 感染症の日本史



日本史の最後は感染症にスポットライトを当てた「感染症の日本史」。もちろん新型コロナウイルスの感染拡大を受けて書かれた本ですが、発行が2020年9月なので今に比べるとだいぶまだ先行き不安な状況であり、これからどうしていけば良いかを過去から学ぶという雰囲気の一冊になっています。

興味深いのは、過去の様々な感染症がもたらした甚大な被害。新型コロナウイルスの影響も大きいですが、天然痘やはしかのもたらした被害に比べればまだ小さいです。医療の発達ってすごい。20年に1回流行するはしかとか、海外(琉球含む)からの来訪者によってもたらされて日本を縦断していくインフルエンザとか、人がバタバタ死んだ(国民の大半が死んだという説も)天然痘とか……怖い。

大正期のスペイン風邪は死者45万人ですって。よく「スペイン風邪に比べれば新型コロナウィルスなんて」とか言ってた人いましたけど(今でもいるの?)、これを読むとなぜスペイン風邪の被害が大きかったかがよくわかります。理由は、平気で祭やイベントをやってたからです。祭を見に出掛けて帰ってきて一家全滅とかそういうことが起きてたんですね。新型コロナウイルスの被害がスペイン風邪に比べて小さいのは、新型コロナウイルスの毒性が低いだけでなくスペイン風邪から学んできちんと対策を行っているからです。

過去が常に正しいとは限りませんが、そこから学ぶのは大事ですね。



あとがき

ほんとたまたまなんですけど、日本史関連の本を読んでいたので少しまとめてみました。日本史に関してまったく知らないことってほとんどないと思うんですけど、それでも切り口を変えて見ると見えてくるものがかなり変わってとても面白いです。中でも偽書に関しては、他にも関連書籍がたくさんあるようなので機会があったら読んでみようと思います。特に椿井文書に出てくるような場所には行ってみたいですね。京田辺市の周辺とか、米原市とか。

馬部さんは「世界の偽書」という本にも寄稿されているみたい……なにこれ面白そう。世界の偽書かー。見たいものが見たい、そしてそれを満たすものを作る人間。やはり人間の性向というのはいつまで経っても変わらないもんなんですね。