参考資料
でも……
アメリカは同時に貧富の差がとても大きい国です。地域差も大きい。アメリカ国民は「政府に頼らない」という信条のもと「国民皆保険」を拒否し続けていますが、おかげで貧しく保険に加入できない人たちは病気になっても病院に行くことも出来ない。だって盲腸で入院して1日入院して請求が150万円らしいですよ。日本だと1週間入院して30万ぐらいなのに……ニューヨークで親知らずを2本抜いて請求が1,200ドル(約13万円)だったという話もあるし、新型コロナウイルスで多くの死者が出ているのも、毎年インフルエンザで多数の死者が出ているのもわかる気がする……国全体を見てまんべんなく幸せかと言われたらどうでしょうね。それは違うかも知れない。
そんなアメリカが抱える問題に焦点を当てた本書
本書はトランプ政権になってから規制が厳しくなったメキシコ国境を中心に、銃規制や教育、外国籍兵士など外からはあまり注目されないアメリカの諸問題とそれに翻弄され続けるアメリカ国民の生活をとてもフェアに描いたノンフィクションです。印象的な描写はたくさんあるけれど、例えばこんなこと、
ウエストバージニア州の州都チャールストンから北に50分ほど。農地や牧草地が広がる街道を走り抜けると、目指していた小学校に着いた。コテージビル小学校(Cottageville Elementary School)。人口1800人ほどのコテージビルにある公立小学校である。この小学校では、全校生徒135人のおよそ3分の1が、祖母や里親など、遺伝上の両親とは異なる保護者によって育てられている。
理由は両親がドラッグ依存症できちんとした育児が出来ないから。祖父母や里親に育ててもらえるならまだいい方で、育児放棄も相当数いる。そしてこれは別に違法移民のはなしではなくて、アメリカの色んなところに普通に存在している話らしい。コテージビルの場所はこんなところ。
アメリカは広すぎて地図を見てもよくわからないけれど、ワシントンDCから西に400km。何も知らなければ「多少山がちではあるけど普通の場所だなあ」という感じがします。でもそうじゃないんだなあ。
何が怖いかというと、本書の中で描かれるアメリカの人たちがこういう状況に対して淡々と暮らしていること。もちろん多くの人たちが状況を改善しようと活動し、実を結んでいる活動もたくさんあるのだけど、失礼を承知で言うならそれらは対症療法であり、社会からこぼれてしまう人たちを必死で掬い/救い続けている、けれど社会のシステム自体が大きく変わることはなくて、国民の何割かは虐げられ続けていく、そんな世界。ただそういう街に生まれたというただそれだけのことで、こんな状況にならなければならない……日本でそういうことがないとは言わない。言わないけれど、でも規模が違いすぎる。こういう状況を数字で糊塗して世界一とは。想像していた以上に状況が悪くてショックでした。これが先進国なのか。
いずれ来る日本の未来のためにも
日本にだって様々な問題はあるけれど、日本は本当に平和だと思うとともに、今後20年30年というスパンの中で緩やかに貧しくなってく日本も、アメリカのこういう状況から学び先回りして社会システムを見直し、整備していく必要があるんだろうなと感じました。もし今の日本で同じような教育状態になったとして、本書に出てくる意欲的な教育長や校長のように改革を断行できるだろうか?アメリカ社会の実態に刺激を受け興奮するだけではなく、ちょっとした社会の変化で日本にも起こりうることなのだと。きっと大騒ぎすることもできないほど、淡々と悪くなっていくことなんでしょうね。そんな未来のために僕らに何が出来るだろうか。そんなことを強く感じました。