あなたのその無自覚で自分勝手な行動が人に迷惑を掛けるのだ

月に1回ぐらいの頻度でカフェ営業をさせて頂いているお店の前は幅1メートルほどの細い路地になっています。自転車同士ですれ違うのは難しく、歩行者同士でも譲り合ってすれ違うぐらいの路地。ただ人通りはその幅の割には少なくなく、カフェに来店されるお客様だけではなくて、付近の住民や観光客が使う生活道路になっています。



ある日の営業後、60代ぐらいのおばさんが既に営業が終わって片付けている店の戸をガラッと開け、「つかぬ事をお聞きしますが」と話し始めました。


自転車がなくなってしまったのですが、ご存じないでしょうか?



はて。泥棒にでもあったのか、はたまた撤去か。僕も何度も撤去されているので同情しましたし、もし盗難だったら事件です。詳しい話を聞こうと思って外に出ると、おばさんは路地のわきを指さしながら、


ここ、ここに置いたんですけど



ここかー。よりによって向かい側に電柱があって一番狭くなっている場所に。ぶっちゃけ言うとものすごい邪魔。ただでさえ路地の奥にあるカフェなのでなるべく通りやすくしておきたいし、そこに置かれたら色んな人が困る。難儀な人だなと思って渋い顔をしているとおばさんは続けてこう言いました。


駐輪場が埋まっていてね、タクシーを待たせてたので仕方なくてね



それはおばさん、あなたの勝手な事情でしょう。知ったことではない。でもまあそういうときがないとは言わないし、まだ同情の余地はあります。まだ別に冷静に聞いてます。


そこへ通りかかる周辺住民のおばあさん。


さっき、自転車の撤去が来てたわよ。大きな車でね


ここまで入ってくるのかしら


来てたわね、大きな車だったからね



やっぱり撤去なのか、面倒だけどその辺に保管場所の表示があるからそれ見て取りに行ってくれれば良いんじゃないかな……


こんなところにね。こんな奥まで



我ながら気が短いと思うのですけどね、この一言が僕は許せませんでした。それが無ければ「残念でしたね」で終わろうと思ってたんですけど、その、「私は迷惑を掛けていない」という風情で発せられた一言で僕はもうダメでした。お前、何言ってんだ?


そうですね。来るでしょうね、邪魔ですからね。すごい邪魔ですから。そこに置かれるとみんな迷惑するんですよね。


ねえ、わざわざ取りに来なくても


まあ、ここまで取りに来なくても営業中なら僕が移動してるでしょうね。邪魔ですから。


まあ、私が悪いんですよね


そうです。しかたないですね。



あとで、彼女の人に「言い方がキツすぎる」って怒られましたよ。まあ確かにキツかったですが、でもね、途中までは僕だって我慢してたんですよ。もし自転車置くときに相談してくれたら、うちの店の自転車置き場を案内して上げたのにと思ってたぐらいですよ。でも「こんなところ」の一言は僕には看過出来ませんでした。


あなたが「こんなところ」と呼ぶこの細い路地を使っている人が大勢いるんです。あなたが「私ぐらい別に良いでしょう」と思っておいたその一台の自転車で、通れなくなるような足の悪いおばあさんや、ベビーカーを押したお母さん、キャリアケースを持った観光客がいるんです。あなたが自分のことしか考えずに、ちょっとぐらい良いだろう、こんな狭い路地なのだからと置いた自転車で、迷惑している人がいる。周辺に「自転車を止めるな」と大書きされているのには理由があるんです。


この周辺の路地は近くに鉄道駅があるせいでかつて路地という路地がそういう迷惑を受けていて、それに対する周辺住民の声を反映させる形で大きな駐輪場が2つ作られたという経緯があります。高校生や大学生のように子供であればある程度仕方ない、でもあなた、孫もいるようないい大人でしょう。周りの大学生ですらみんなちゃんとしてるのに、あなたがそんなことをしてどうするの。その上、それが迷惑であったことを自覚せずに撤去されたことに憤りすらするのはどうなの。

駐輪場が足りていないことや、自転車で駅まで来ざるを得なかった事情など、同情はしています。していますが、でもそのことは自分勝手を許す理由にはなりません。自宅にタクシーを呼ぶ手だってあったかも知れないし、僕らやどこかの店に相談することだって出来たでしょう。なぜそこに置いた?良いと思ったの?


態度の悪い若者だってたくさんいます。でも若者のそれは「いずれ直るだろう」とも思う。けれど、高齢者の「社会に対して慣れて横柄になってしまっている態度」はとても目立ちます。親子連れがたくさん通っている駅前で、ハイキング帰りの60代70代男女が今日のことを笑って話しながら煙草に火を付ける、僕にはその心境がわからない。自分もこれから歳を取るごとに社会に対して横柄になっていくんだろうなと思いますが、立ち止まって自分を見つめる余裕ぐらいは持っていたい。そう強く感じた出来事でした。