【今日のニュースから】雇用契約を業務委託契約に切り替えることのメリットとデメリットについて

ブラック企業のイラスト(女性)
昨日読んだ記事ですが、こんなのがあって少し気になったので。



昨年12月の深夜。LINEの着信音が聞こえた。

内田加奈さん(30、仮名)がスマートフォンを開くと、「通知書」と書かれた書類の写真が添付されていた。差出人は、勤務先の美容室。内田さんの債務不履行のせいで、営業損害金50万円が生じたとし、これを相殺するため、11、12両月分の報酬を支払わないという内容だった。

(中略)

なぜ、こんな事態が起きたのか。

そもそもの原因は、内田さんら美容師と会社との契約が労働者としての「雇用契約」ではなく、個人事業主としての「業務委託契約」だったことにある。

この美容室は、原則12時間勤務だ。内田さんら複数の美容師によると、出勤する店舗や始業時間はあらかじめ決められ、遅刻すると、1000円の罰金を徴収された。顧客の予約も、会社側がコンピューターで管理。店長には、会計や清掃方法など40項目以上を指示する「業務確認表」が配布されるなど、美容師たちが自らの裁量でやりくりする余地は、ほとんど認められていなかったという。

実態は「労働者」なのに…… 「名ばかり事業主」の苦しみとは – Yahoo!ニュース



お前ら全員個人事業主だ!ヒャッハー!

最近、ちょっとだけ縁がある某カフェで同じような契約変更が行われて、それまで社員・アルバイトとして雇用されていた人が全員個人事業主として「業務委託契約」(法律的には「委任」)に変更されたという話があって、全力で「それはあかんやろ」と突っ込んだんですが、この記事にあるようなガチで被害を受けている人たちの話を聞くに付け、そういうのを「経営改善」とか「節税・コスト減」とかの名目で吹き込んでる人がいるんだろうなあと遠い目になります。そんなの何も知らない経営者が自然に同時多発的に思いつくような手法じゃないですからね。闇深い。



「業務委託契約」自体が悪いというわけではありません。「雇用契約」と「業務委託契約」にはそれぞれメリットとデメリットがあり、「雇用契約」が労働者としての立場を法律が保証してくれる一方で、「業務委託契約」では自分の条件にあった契約を選ぶことが出来、実力が十分にあれば多くの業務をこなすことで高収入を得ることが出来ます。わかりやすい例としては、プロ野球選手とか。

ただ一般の労働者が「業務委託契約」で働くことになった、業務内容や条件は変わらないという話になると、労働者に取ってのメリットは限りなく少なくなります。


企業側のメリット

  • 労働時間の規制と無関係に働かせることが出来る
  • 最低賃金の規制と無関係に報酬を決定することが出来る
  • 残業代を支払わなくて良い
  • 即時契約解除が可能
  • 雇用保険を支払わなくて良い
  • 加入条件を満たしていても社会保険に加入させなくて良い

企業側のデメリット

  • 労働実態と合っていない場合、是正を求められることがある

労働者側のメリット

  • 契約次第では、働いたら働いただけ収入を得ることが出来る

労働者側のデメリット

  • 法律による労働時間の規制が適用されない
  • 最低賃金で保証されないので報酬について直接交渉する必要がある
  • 残業代が支払われない
  • 有給休暇が取得出来ない
  • 即時解雇されるリスクがある
  • 失業しても失業保険が給付されない
  • 社会保険に加入出来ない


こんなところでしょうか。


企業側にはメリット山盛りですが、労働者側にはメリットがほとんどありません。もちろん先に述べたようにプロ野球選手のように(もしくは保険のおばちゃんのように)個人の実力次第でいくらでも収入を増やせるという働き方をしている人にとっては「業務委託契約」はとても便利な働き方です。ですが、働き方が一般の労働者と変わらない場合には、ただただデメリットを負わされるだけでメリットがありません。

企業側が企業側の都合でスタッフを虐げているわけで、そんなスタッフを大事にしないような会社今すぐ辞めろと思うんですけど、先の記事のように業界としてそういう労働実態が普通になってしまっている場合もあるんですよね。働き方をチェックすればすぐに「業務委託契約」ではないと判断されるようなことでも、誰も何も言わなければ何も変わらないと言うね。



某カフェは今すぐ雇用契約に戻した方が良い

僕自身、自分のITエンジニアの契約を「業務委託契約」に切り替えようと思って調べたことがあります。その時わかった「業務委託契約」とみなされる条件は以下のようなものでした。


  • 業務に使用する機材(パソコンなど)を自前で用意すること
  • 業務を行う場所や時間を会社側に指定されないこと
  • 業務の依頼や指示について、断ることが出来る
  • 業務遂行にあたって指揮監督される割合が低い
  • 時間給や日給ではなく仕事の成果の大小によって報酬が決まること
  • 他の会社の仕事も出来ること
  • 就業規則等に従う必要がないこと


実際には金銭的メリットが殆どなかったために切り替えなかったのですが、会社と交渉してこれを満たすような働き方に変えるのは、僕の場合は可能でしょう。でもこれを飲食店での調理補助やホールの業務で満たすことは出来るでしょうか?

賃金の支払い方ひとつとってみても、時給で支払われていればそれは労働者です。飲食店内の作業について、店長の指示通りに動かないと言うことはあり得ないし、労働時間を拘束出来ないというのも飲食店スタッフを雇用するという意味でナンセンスです。お客様に食べものが届きさえすれば過程は問わない、みたいな営業方針なら別ですけど(どんな店だ)、飲食店の業務形態に明らかに「業務委託契約」が合ってないんです。


先に述べたとおり、「雇用契約」か「業務委託契約」かは契約書の内容ではなく労働実態に沿って判断されます。もし「雇用契約」であったと判断された場合、年次有給休暇付与義務の発生、残業代等割増賃金の支払、残業時間が法律上の規定を越えていた場合は罰則(中小企業では2020年4月から)など、労働基準法など関連法案の適用を受けることになります。それならば普通に雇用しながら、コストを抑える働き方を模索する方が遥かにコストダウンになります。

どんな人に唆されたのか知りませんが、先のカフェ経営者が早めに翻意してくれることを祈っております。



経営上の他のいろんな問題についてはオーナーの裁量で決めることだし自由にしたら良いけど、これはあかんやろ。