今年の猛暑と2020年開催予定の東京オリンピックを鑑みて、サマータイムを導入すべしと主張する人が一部でいるらしく、先月くらいから侃々諤々と議論されています。いや議論されてるのかな。偉い人がごり押ししようとして、他大多数の人が「そんなバカな」と反論してるっていうのが正しい図式かも知れません。
東京五輪にサマータイム導入を 猛暑対策で安倍首相に申し入れ – スポーツ – SANSPO.COM(サンスポ)
2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(81)と武藤敏郎事務総長(75)は27日、安倍晋三首相と会談し、大会開催年のサマータイム制度導入を申し入れた。組織委として同制度導入を正式に要請するのは初めて。武藤総長は「抜本的な暑さ対策として政府に考えていただきたいと申し上げた」とした。
先日決定した五輪の競技日程では、マラソンを午前7時、競歩を同6時スタートとするなど暑い時間を避けている。それでも「マラソンを、もう1時間早めるためには、スタッフは真夜中に準備を始めなければならない。選手も未明に起きなければならず、アスリートファーストとしてどうなのか。現実的には7時が限度」と武藤総長。社会全体で1~2時間早まれば問題なく実現できるとした。
サマータイム「大事故起きかねない」 IT研究者ら反発:朝日新聞デジタル
2020年東京五輪・パラリンピックの暑さ対策として、政府・与党が検討しているサマータイム(夏時間)をテーマに、ITの研究者らでつくる情報法制研究所が2日、シンポジウムを東京都内で開いた。拙速な導入は見直すべきだ、との意見が相次いだ。
コーディネーターを務めた立命館大の上原哲太郎教授は「システム改修に4年は必要」。20年までの実施は不可能だと指摘した。
上原教授によると、国や自治体、企業、家電などの日本のITシステムには、欧米とは違ってサマータイムを想定していないものも多い。
日本時間をそのまま取り込んでいるシステムもあれば、「世界標準時+9時間」という処理をしているもの、手動で時間を設定しているものもある。これらのシステムは互いに接続しているため、調整には大規模な改修やテストが必要で2年では間に合わない、という。
以前書いた、スペイン人シェフによる素朴な疑問「なんで日本はサマータイムを導入しないの?」という記事は、サマータイムの有効性に疑問があるんだよという資料の紹介のおかげもあって結構読まれた記事になりました。
「日本はなんでサマータイムを導入しないの?」 | mutter
「ヨーロッパはみんな導入してるじゃん。日本はなんで検討しないの?」
科学的素養があるのではなく子どもと同じくらいの純粋で素朴な感想なので、説得するにはきちんとした理路が必要で、それをスペイン人に日本語で説明するのは難しかったです。イラッときた理由は「ヨーロッパは合理的に制度を作ってるのに日本はいつまで経っても非合理的」という感じのニュアンスが含まれていたためです。しかもよくわかってないスタッフの女の子まで「日本は保守的ですから変わらないんですよ」とか言い出す始末。どう思おうと勝手ですけど、無知な誤解は、しかもステレオタイプを前提とした誤解は気に入りません。
サマータイムについては、毎年のように導入しましょう的な話が持ち上がりますが、検討の末、実施は見送られます。シェフの感想は「明るいうちに活動するから電気代の節約になる」「日没が17時だったら18時にずらせば?」だったのですが、まあなんというかいろいろと素朴すぎるようで……きちんと平易な日本語で説明できるようにまとめておこうかなと。
あれから5年、時代は巡りまして、そのヨーロッパでもこんなことになっています。
EU、夏時間廃止の方針=市民調査で84%希望-欧州委、加盟各国に提案:時事ドットコム
欧州連合(EU)欧州委員会は31日、EUが採用している現行の夏時間制度の廃止をEU加盟各国と欧州議会に提案すると発表した。欧州委が実施したEU市民への意見調査で、約460万件の回答のうち、夏時間の廃止希望が84%に上ったことを踏まえた。
ユンケル欧州委員長は同日、ドイツの公共放送ZDFに対し、「何百万人もの市民がもう時間を変更したくないと言っており、欧州委は彼らの言う通りにする」と語った。
EUは現在、3月の最終日曜日に時計を1時間進め、10月の最終日曜日に元に戻す制度の実施を加盟28カ国に義務付けている。
欧州委が31日公表した調査結果(速報)では、84%が廃止を要望。76%が夏時間制度による年2回の時間変更を「非常に悪い」あるいは「悪い」経験だと回答した。廃止を希望する具体的な理由としては、健康への悪影響や交通事故の増加、省エネ効果がないことなどを挙げた。
結局のところ、ヨーロッパ人だって好きでやってたわけでもないってことなんですよね。
その上効果が薄いとか健康に害があるとか言われたら、続ける必要性はもう全くないわけで。そりゃ廃止に向かいますよねえ。僕が記事を書いた5年前でさえそういうことは言われていたわけで、EUであっても既存の仕組みを変えるとなるとそれなりに時間が掛かるわけですね。当たり前か。大きな組織だし。それだけ影響力のある制度だし。
で、それだけのことを「2年間限定でいい」「2020年だけでも」とか言ってる偉い人はほんともうどうにかして欲しいというか、オリンピックのためだけだったらシンプルにオリンピックの競技時間を全体的に1時間とか2時間とか早めれば良いだけなんじゃねえのと思います。そしたら国民はそれに合わせて生活するので、サマータイムみたいなもんになるじゃないですか。
例えば高橋尚子さんがオリンピック2連覇を達成したシドニーオリンピックの場合、競技開始は現地時間で9時でした。同様に真夏に行われた北京では7時半スタート。
シドニーオリンピック2000 陸上競技の日程(9月24日) – JOC
北京オリンピック2008 陸上競技の日程(8月17日) – JOC
これを例えば6時開始とする(今年東京で最も暑かった8/26の朝6時の気温は27.2℃)。見やすいかどうかはさておき、擬似的にサマータイムになるでしょう。社会システムはそのままで。たった1ヶ月間のことなんだからそれで十分なんじゃないですかね?
サマータイムとかほんと勘弁
いざサマータイムを導入するとなったら社会にある様々なシステムを改修するだけでなく、まずその前に、改修すべきかどうかできるかどうかをすべてのシステムに対して確認していく必要があります。改修作業自体はそんなに複雑ではないかも知れないけれど、全体の工程を考えるとどう考えたってしんどすぎ。オリンピックの「ボランティア」と同様に、本来コスト掛かるのにコストを無視して総予算にも繰り入れない無償の義務みたいなの、勘弁して欲しい。ほんとにサマータイムやるなら、その改修費用もオリンピック予算として計上してくれ。もうほんとになんとかならんのかというね。。