正義の暴力がアメリカ中を揺らしている|アメリカ大統領選、やじうま観戦記!|渡辺由佳里|cakes(ケイクス)
これまでは、予備選でいくら血みどろの戦いをしても、いったん党の指定候補が決まったら、「打倒民主党候補!」で団結するのが共和党の慣わしだった。民主党も同様で、2008年にヒラリーはオバマと党をまっぷたつに切り裂くような戦いを繰り広げたが、オバマが勝利を決めた後は、彼のために全米をまわって応援した。 つまり、どちらの党も、「どんなに嫌いな候補でも、敵対する党の候補よりもはまし」、「何があっても、民主党(民主党の場合は共和党)にだけは勝たせない」が暗黙の了解だったのだ。
ところが今回は、2008年の共和党指名候補マケインのスピーチライターだったマーク・ソルターまでもが、「(ゴシップ中心のタブロイド紙)National Enquirerなんかを購読し、それがまともなレベルだと思っている奴を、共和党は大統領候補にする。僕はI’m with her(ヒラリー支持)だ」とツイートした。
なんか微妙なことになってんなーと言うのは何となく感じてたんだけど、トランプ候補の微妙発言集を読んだ感想は「これいつもいる、極右向け泡沫候補でしょ?」だったのにそれが共和党の大統領候補になってて、まったくどうなってのかよく分かんなかったんだけど、共和党の対立候補も同程度のレベルで共和党自体が悲惨な状態になってるとはおもわなんだ。すごいな。
正義の暴力がアメリカ中を揺らしている|アメリカ大統領選、やじうま観戦記!|渡辺由佳里|cakes(ケイクス)
全国委員長のシュルツやヒラリー支持を明らかにした上院議員のシャヒーンのスピーチの間のヤジとブーイングがあまりにもひどくて話がまったく聞こえない。 ヤジを飛ばしているのは、若いサンダース支持者たちだ。しかも、「whore(売女)」とか「bitch(メス犬)」といったネットで彼らがよく使う汚い言葉が聞こえる。同じくサンダース支持の年配の女性が前席の若者に注意をしたら、顔を真っ赤にして「憲法修正第1条で保障された表現の自由を知らないのか? 僕には発言の自由がある!」と怒鳴り返した。
私は2003年から政治的なイベントに何度か参加しているが、こんなにことは初めてだった。このイベントの前に行ったトランプのラリーのほうが、雰囲気が良かったくらいだ。
正義の暴力がアメリカ中を揺らしている|アメリカ大統領選、やじうま観戦記!|渡辺由佳里|cakes(ケイクス)
どんなに崇高な理由であっても、ライバル候補のイベントで道を封鎖し、会場に潜入してヤジを飛ばし、参加者たちを罵り、唾を吐きかけ、挑発するのは、「ハラスメント」だ。そして、ネットで仲間と一緒になってライバル候補やその支援者を攻撃するのは、「cyberbully(ネットいじめ)」だ。
トランプとサンダース支持者が作り出したのは、「自分が正しいと思っていることであれば、相手を威嚇したり、いじめたりしてもいい」という雰囲気だ。
このままでは、誰が大統領になっても、アメリカ国民の大部分は、尊敬もせず、ハッシュタグをつけ、汚い言葉で揶揄するか、犯罪者扱いするだけだろう。そして、自分に反対する者を罵ったり、あざ笑ったりして封じ込める傾向は、私が民主党のイベントで目撃したように、リアルの世界にも滲み出している。
「同じにしないでくれ」と言われるかも知れないけれど、ま、日本でも似たような活動をしている人はいるよね。特別な会派を結成している人もいるし、そのカウンター会派を結成している人もいる、特定の名称を付けられているネットユーザーもいるし、定期的に過激な発言を繰り返して衆目を集めようとする人もいます。「死ね」といった人権を無視した単語を使用する人もいる。
社会活動には守るべき「モラル」、侵すべきでない「ハラスメント」のラインというものが存在していて、それらを踏み越えることが出来る「正当化」などないと思うんですよ。そうした活動は、政治活動や啓蒙運動以前に「ハラスメント」であり、人権を侵すものであり、表現の自由どうこうの問題ではないと思うのです。
アメリカ大統領選挙と比べたときにまだ救いが残るのは、それらが一部の人々の活動に留まっていて、一般大衆はそれが特殊であるとわかっていることと、政党や政治家がそれに乗っかっていないからだけど、「アベ政治を許さない」とか「戦争法案」とか一部危うさを感じる表現もあります。選挙での票獲得を望むあまり、モラルが低く、正当化されることを望んでいる人たちに、居場所を与えてしまうような政党が出ないことを祈ります。
……で、アメリカ大統領選挙はどうなるんだろうね。多分、ヒラリーが勝つんだろうけど、ヒラリーが勝ったら何か変わるんだろうか。オバマと同じ民主党だし、しかも国務長官だったんだし、大枠では変わらないのかな。そのへんはよく知りません。そのうち調べるか読むかします。