このシリーズでは、健康に関する話題について可能な限り文献や論文、公的機関の報告書に目を通した上でまとめます。性質上いわゆる「トンデモ」や「似非科学」と言われている話題を扱うことが多くなりますが、始めからトンデモだと決めてかかるのでは無く、もちろん正しいと決めてかかるのでも無く、出来るだけフラットになるように心がけます。ただなにぶんメモ書きであり、自分が考えるための資料の集積でありますし、僕自身は専門の知識を持っているわけでもありませんので、内容の正しさは保証できません。疑問に感じる部分があれば独自に調べることをオススメします。
第11回となる今回は、キャベツを囓ったときにときおり感じる「苦味」の成分についての調査です。
目次
- キャベツを「農薬臭い」と感じる理由は?
- 「イソチオシアネート」の効能について
- 「硝酸態窒素」(硝酸塩)について
- まとめ
キャベツを「農薬臭い」と感じる理由は?
相方が、キャベツってすごい農薬臭いことがある!
と言っていて「まあ、そういうこともあるのかな」と思っていたのですけど、でもまーよくよく考えてみるとそこまで食味が変わるような農薬って農家的な意味で問題になっているんじゃないだろうか。だって、そのまま直接「美味い」「不味い」に関わるようなことだし、そもそもそこまで明確に解るような濃度の農薬って明らか人体に悪影響があるんじゃないの?
そう思って調べてみたら、キャベツの「苦味」には2つの可能性があることが解りました。
- キャベツを始めとしたアブラナ科の植物に含まれる「イソチオシアネート」または「アリルイソチオシアネート」
- 野菜に多く含まれる「硝酸態窒素」(硝酸塩)
「イソチオシアネート」の効能について
これはアブラナ科の植物がもともと持っている成分です。わさびやからし、大根下ろしの苦味成分でもあります。この物質は酸素と反応して「ジメチルジサルファイド」「ジメチルサルファイド」と言った成分に変化することで、特有の苦味をもたらすとのこと。元々の物質が硫黄化合物であることもあり、変化した場合には臭いを伴うこともあってあまり良い印象のものではありません。これを防ぐには、
- 酸素との接触を防ぎ
- なるべく新鮮なものを食べる
ということに尽きます。というのもこの「イソチオシアネート」という物質には、傷つけられた部分を保護し品質を保持すると言う性質があることが解っており、「キャベツを刻む」という活動がこの分泌を促すことになるため、要するに「不可避」なんですね。カットキャベツではなく丸ごとのキャベツを買う、古いキャベツは水にさらしてから使う、といったことをすることで苦味を避けることができます。
ちなみに
この苦味成分「イソチオシアネート」には抗がん作用があるものがあることが解っています。フェニチルイソチオシアネートやスルフォラファンなどのイソチオシアネートは発癌や腫瘍化を防ぎ、化学的な抗がん剤となる。これらは様々なレベルで働き、特にシトクロームP450の働きを阻害して発癌を防ぐ作用が知られている。またフェニチルイソチオシアネートはがん細胞にアポトーシスを起こさせることが示されている。例えば、アポトーシス阻害タンパク質BCl-2を生産する薬剤抵抗性の白血病細胞などにアポトーシスを起こさせることにも成功している。
「苦い=体に悪い」と考えがちですけど、実際問題そうでもないよねという自然の不思議さというか。だからといって積極的に食べようとは思いませんけども。
「硝酸態窒素」(硝酸塩)について
もう一つの話題、「硝酸態窒素」。これは一般的には「化学肥料を大量に投与することで野菜の中に取り込まれてしまう物質」と捉えられています。この物質が発がん性作用のある物質(「ニトロソ化合物」)の生成を促す可能性がある(ただしその関与を示す実験データは現時点で得られていません)ことから、人体に取り入れるべきではないとする研究者が多くおり、実際にEUではその含有量に対して基準値が設けられています。論説としては「慣行栽培はやばい」「有機農業なら安全」「自然農はベスト」といった論調で語られることが多いのですが、しかしこれ、これといって証拠のない話なのですね。なぜなら、まあ農業を少し知っている人ならすぐに解ると思いますけども、植物への窒素を始めとした物質の沈殿てそんなに簡単なことではないからです。もし簡単に説明できるのであれば、農業はもっとずっと簡単です。雨が続こうが、気温が低かろうが、日照時間がみじかろうが、肥料さえ与えていれば収穫が約束されるわけですからね。そんなに単純な話ではありません。そもそも、窒素蓄積的な意味で、化学肥料と有機肥料との間に大した差はありませんしね……
実際、日本の野菜の含有量がEUの基準値と照らしてどうなっているのか?
それについては農林水産省に資料があります。
農林水産省/日本の野菜の硝酸塩含有量
季節によって変動する含有量をEUの基準値と比較したもので、そのすべてにおいてEUの基準値をクリアしています。日本で基準値が設定されていないことを「行政が手を抜いている」と批判する向きは多いですが、そういう人は「基準値を設定する必要が無いからしていない」という判断も存在することを理解するべきです。
もちろん、硝酸塩の数値が土壌の富栄養化を示す数値の1つであることから、きちんと継続して調査を行っていく必要はあるでしょう。ただ健康との関連が解明されておらず、実際の含有量がEUの基準値を下回っている現状を考えると、それほど神経質になるものでは無いのではないでしょうか。
まとめ
キャベツを囓ったときに感じられる「苦味」「えぐみ」「薬品臭」といった特徴は、不快ではあるものの、健康に対して悪影響のあるものではありません。野菜そのものがもつ物質と、その物質の性質によって生じる物質の味であり、抗がん作用があるなどメリットもあります。- カットしたキャベツはなるべく空気に触れないように保存する
- なるべく早く使い切る
- 苦味を感じた場合には水にさらす(ただしビタミンなども流出してしまう)
などの対策を行うことでこれらを防ぐことができます。
不快な味わいだからと言って、そんなに神経質になりすぎませぬよう。
そっちのがむしろ、体に悪いですよ。
参考記事
農林水産省/野菜等の硝酸塩に関する情報野菜の硝酸態窒素を巡るウソ | FOOCOM.NET
アリルイソチオシアネートによるカットキャベツの品質保持機構 | 農研機構
近所の大手スーパーで買った安売りの国産キャベツ(98円)が、どうも変な味がします。国産とは思えず産地偽装かと思い、最近は…|質問・相談が会員登録不要のQ&AサイトSooda!(ソーダ)
イソチオシアネート – Wikipedia