健康に関して気になる情報について調べ可能な限り文献にも目を通した上でまとめます。始めからトンデモだと決めてかかるのでは無く、また正しいと決めるのでも無く、出来るだけフラットになるように心がけますが、なにぶんメモ書きであり内容の正しさを保証するものではありません。基本的にはWikipediaの情報を参考文献や他の検索結果を見つつメモし、考えるための資料を用意していく予定です。
第9回はGI値とは何か、正しいGI値とは何かです。
GI値とは何か
まず始めにGI値とは何か?Wikipediaの以下の項目から抜粋してまとめます。グリセミック指数 – Wikipedia
グリセミック負荷 – Wikipedia
正式名称は「グリセミック・インデックス」または「グリセミック指数」。簡単に言うと「ある食品を摂取したときの血糖値の上がりやすさのこと」です。提唱者はデヴィッドJ.ジェンキンズ博士で、提唱年は1981年とのことです。血糖値や血中インスリンの急上昇は糖尿病や心筋梗塞のリスクを上げると言われており、GI値はその指標となるのではと考えられました。現在では炭水化物の少ない食品(野菜など)のリスクを考慮するためにGI値を元にした「グリセミック負荷」というものも考案されています。
測定方法
測定方法は「ある食品を食べる前後で血糖値を測定して比較した」というような単純なものではなく(食べる量に左右されてしまうため)、下記のように定められています。食品の炭水化物50グラムを摂取した際の血糖値上昇の度合いを、ブドウ糖を100とした場合の相対値で表すとされる。
GI値 = 「試料」摂取時の血糖値上昇曲線の面積) ÷ 「ブドウ糖」摂取時の血糖値上昇曲線面積 × 100
基準試料(この場合はブドウ糖)が異なればGI値は当然変化する。欧米では主食である白パン、日本では米飯が基準となる事がある。
例を挙げると100g中10gの炭水化物を含む食品の場合には500g、100g中1gの炭水化物を含む場合には5kg食べて、その前後の血糖値を比較するということになります。
またグリセミック負荷の測定方法は下記の通りです。
グリセミック負荷の値はグリセミック指数を100で割り、炭水化物の重さのグラム数をかけて算出される。
実際の計算と効果の推定はこんな感じで行うようです。
グリセミックロード – 米国統合医療ノート
血糖負荷~GL値(グリセミックロード):浜村拓夫の世界
これを見る限り、単純なGI値での比較とGL値での比較とでは推定される効果がかなり異なることが解ります。例えばご飯と食パンのGI値はともに同程度に高いのですが(84と91)、GL値で見ると18と30と大きく変わってくることが解ります。
【注意】GI値はピーク血糖値の高低を示さない
GI値は上昇を始めてから正常値に戻るまでのグラフが作る面積(つまり積分)で決定されるので、GI値の低さが必ずしもピーク血糖値の低さを示さないことに注意が必要です。例えば砂糖の場合、急激に上昇し急速に下がるため、ピーク血糖値は高いけどGI値は低くなります。
(画像:Glycemic Index)
代表的な食品のGI値
「GI値一覧」で検索した結果から、代表的な食品のGI値を抜粋してみます。参考にしたサイトは以下のGoogle検索上位3サイト。
低インシュリンダイエット・GI値について
たまごや|食材別GI値一覧表
低インシュリンダイエット GI値表
- 白米 … 84
- 玄米 … 55
- 食パン … 91
- 小麦全粒粉パン … 50
- じゃがいも … 90
- さつまいも … 55
- パイナップル … 65
- オレンジ … 31
- 牛・豚・鶏 … 45
- 魚 … 40
- 白砂糖 … 109
- 黒砂糖 … 99
- 日本酒 … 35
- ワイン … 40
- ビール … 24
よくある「GI値リスト」に見られる矛盾点、疑問点
データの出典が明らかでないまたははっきりしない
日本で一般的に知られている「GI値」といえば恐らく上で挙げた数値のことを指すと思われるのですが、不思議なことにどのサイトにもきちんとした出典がありませんでした。ここでいう「きちんとした出典」とは、- 国際機関が発表した資料に基づくもの
- 国内機関が発表した資料に基づくもの
- 正規に発表された論文に基づくもの
- そのほか実験方法・資料が明確にされそれが正しいもの
3件目のサイトには「©永田孝行(2001)」と書かれていますが、永田孝行さんのどのデータを引用したのか、その元データが信頼に足るものなのかについては解りませんでした。永田孝行さんという方は「低インシュリンダイエット」という本を書いて有名になった方のようなので、その著作の中に何かあるのかなとも思いますがはっきりしたことは解りません。
GI値の定義と矛盾している
Wikipediaには下記の記述があります。炭水化物の非常に少ない肉類などは実質的に測定不可能である。例えば豚モモ肉は100gあたり炭水化物量が0.2gのため、およそ25kg摂取しなければ測定できない。
ところがどの資料にも豚肉のGI値は明確に書かれています。これはどうやって調べたものなのでしょうか。もし単純に摂取し血糖値を計っただけなのであれば、それはいわゆる「GI値」とは異なる定義で決定されたものと言うことになります。もちろん「GI値」を再定義しても構いませんが、その場合には従来の「GI値」に基づく研究結果(病気リスクの上昇など)とは関係がないことになります。
矛盾している点はもう1つあります。以下の砂糖に関する記述です。
精製された砂糖であるグラニュー糖のGI値は60前後である。グラニュー糖の主成分の蔗糖はグルコースとフルクトースからなる二糖類で、フルクトースは吸収されても血糖値を上げにくいためこうした値になる。フルクトースとグルコースは糖としてよく似ているが、フルクトースが糖新生によりグルコースに変換されるような特別な場合を除きフルクトースがグルコースに変換されるわけではないのでフルクトースのGI値は低くなる。
GI値の決定方法・成分毎の働きの違いから考えると、上白糖のGI値がブドウ糖(グルコース)のみのそれと比べて著しく下がることは納得できる事だと思うのですが、それが考慮されているデータは見当たりません。上白糖のGI値が100(グルコース100%の場合の数字)を超えている場合すらあります。
Wikipediaの記述が間違っているのか「GI値リスト」のGI値の測定方法が違うのかはっきりしませんが、ともかく違いがあります。
国内で流布しているGI値リスト以外の信頼できるGI値リストはないのか?
先に述べたように、日本語で検索して得られる「GI値リスト」のほぼ100%は永田孝行さんが独自に作成された資料に基づくものです。その資料もWebに公開されているものではなく書籍に掲載されている(もしくはハンドブックに記載され市販されている)ものなので、多くの場合にはコピー&ペーストで広まったものだと推測できます。永田孝行さんのデータが正しいか否かという判断とは別に、他の研究者による研究結果というのはないのでしょうか。日本語検索で見つけるのがとても困難なので海外に結果を求めてみたところ「glycemic index list」という検索で以下のサイトが見つかりました。
Glycemic Index
このサイトはシドニー大学の運営するGI値に関するサイト、データベース。シドニー大学はオーストラリアの公立大学で、世界ランクは37位(東大が24位、京大が25位、大阪大学が49位)。ハーバード大学もシドニー大学のこの資料を利用しているようです。
Glycemic index and glycemic load for 100+ foods – Harvard Health Publications
研究者ではないので精査は出来ませんが、公開している大学、参加している研究者の数、公開しているデータ数、袖手している資料数などからこのデータは信頼できると言えるのではないでしょうか。このデータベースでは食品や食材だけではなくどんな組み合わせで摂取したか、どんな順で摂取したかも網羅され、それぞれの場合のGI値とグリセミック負荷、標準的な提供量、炭水化物含有量、データ提供者名などが検索可能です。日本独自の食材には厳しいものもあるかも知れませんが、日本人研究者もたくさんデータを提供されているようなので、ある程度はカバーできているようです。少し検索してみましょう。
代表的な食品のGI値とGL値(シドニー大学ver)
左から、GI値、GL値、国内の検索結果にあるGI値の順です。- Japonica, short-grain white rice … 76/35(84)
- Japonica, short-grain brown rice … 62/26(55)
- White bread, wheat flour … 70/10(91)
- Potato, white without skin, baked … 98/26(90)
- Pineapple, raw … 66/16(65)
- Oranges, raw … 40/4(31)
- Sugar (Sucrose), 100 g portion … 65/7(109)
- Beer, Toohey’s New … 66/5(24)
一番大きいのは砂糖の数値ですね。危険領域ぶっちぎってた数字が、普通の数字に落ち着いています。GL値も低い。逆に超安心数値だったビールが普通の数字に。その他は大体かわりませんが穀物類では白米と玄米の差がとても小さくなりました。小麦パンの数値も危険な数字から落ち着いた数字に変化しています。
また肉、魚についてはシドニー大学のデータベースにはデータがありませんでした。一応、単語を変えて様々に検索してみましたが、良くて加工食品やレシピ(シチューなど)が表示されるのみで食材そのもののデータはありませんでした。(単語的に一番近かったのが「マックチキン」と「マックフィレオフィッシュ」だったのは余談)
まとめ
血糖値への影響を示すとされるGI値は、健康に気を遣う人の間では広く流布していますが、その情報のもとになっているのは1冊の本、1人の研究者による資料であり客観性という点で疑問です。公式サイトにその実験について詳細に解説されている、参考文献が示されている、ないしは、他の研究結果と一致していると言うことであれば「信頼できる」と言えますが、現時点では「信頼できる」とは言えないと考えます。その検索ヒット数から考えると、かなり問題がある状況です。シドニー大学の研究結果と比較したとき国内で広く流布しているGI値にはシドニー大学のそれと比べて一部その定義を疑うほどの大きな差があり(砂糖など)、実験データの信頼性を考慮すると国内で広く流布されているGI値は、誤った手法で計測された資料か、引用する際に数値を誤ったか、ないしは科学的に規定されている「GI値」とは異なった「GI値」を設定したものと考えられ、その数字の利用には注意が必要だと考えます。少なくとも「GI値」の効果に対する実験結果との関連は無いのではないでしょうか。
また「GI値」自体についても「そもそも血糖値への影響を正確には表していない」というが現在主流の考え方のようです。実際の食事に取り入れる際には「GI値」よりも「GL値」(グリセミック負荷)を重視した上で、可食部がどの程度かや調理方法・摂取方法についても考慮して決定すべきで、単純に「GI値」の高低で食品の善し悪しを決定するのは間違いです。
追記:「低インシュリンダイエット」について
GI値を調べると必ず「低インシュリンダイエット」に当たることになりますが、これについては本稿の主題ではないため、言及を避けたいと思います。「ダイエット」というのは基本的に「こうなんじゃないか?」という仮説→実験→痩せた→「ダイエット法確立!」という流れで生まれるもので、正直仮説が科学的に正しいかどうかなんかどうでも良く(例えば「GI値の低いもの=脂肪分が少なめ」が痩せる理由かも知れないし)、検証するだけ無駄なんですよね。好きな人が好きにやって、提唱者にお布施を払っていけば良いと思います。その程度の小銭で身を持ち崩すわけでもないですからね。