DISPとアホウドリ契約

最近のMLBの契約がますますインフレなわけだが…
誰かが高額の契約を手にすると、んで、その人が大した能力もなかったりすると、
他の選手(というか代理人?)もムキになってそれを追い求める感じになる傾向が…

日本のプロ野球に比べて、資本規模は確かに全然違うけれども、
それにしても、年俸10億の選手を何人も抱えられるわけもなく。
そろそろ、選手側も、相対的ではない形で、
自己評価を評価すべきじゃないのかなぁ、と思ったり。


で、これ。
NumberWEBの、李啓充さんのコラム。

1月3日、投手としては史上最高額の契約(期間7年・総額1億2600万ドル)でジャイアンツ移籍が決まった、バリー・ジートの入団発表が行われた。ジートについては、もともと「今オフ、FAとなった選手の中で実力最高」との呼び声が高かったが、それにしても、1年平均1800万ドルの年俸額は「高すぎる」し、7年の契約期間も「長すぎる」と見る向きがほとんどである。メジャーでは、将来に禍根を残しかねない「大馬鹿」契約は、一般に「アホウドリ」契約と呼ばれるが(「albatross(アホウドリ)」という単語には、「成功や前進を妨げる重荷」という意味がある)、今回のジートの契約はその典型と言ってよいだろう。
 


アホウドリ契約(苦笑)
要はアレだね、釣り合わない契約と言うことだ。


バリー・ジトは、オークランドが、シアトルと同じアメリカン・リーグ西地区と言うこともあり、
イチローの試合などを通して、『好投手』として記憶している人も多いと思う。
僕もそう思ってた。

でも、彼の記録を調べてみると、
メジャーと言えばイチローだった時代、
例えば2000-2002年あたりは確かにかなりのレベルの成績を残しているけれども、
それ以降の成績を見てみると、
2006年が大きく勝ち越しただけで、勝敗がほぼ五分、
特に負け数が必ず二桁というのはちょっと、超一流と言うには物足りない。
(もちろん、十分に一流ではあるけれども)

バリー・ジート – Wikipedia


ただまぁ、ヤンキースの投手陣がかなりヤバイというのは確実なことだし、
少しでも計算できる投手であれば、金は出しまっせということなんだろう。
良い投手は沢山いるけど、そのいずれもが金次第で獲得できる、とは限らないし。

…といってもなぁ。
これはないよなぁ。
せめて、李さんが言っているような指標(DISP)で、
損得を把握した上で適切な契約をすべきじゃないのかなぁと。
(なんだか、アスレチックス的な考え方なので、ヤンキースとは相容れなさげだけどね)

(→ 事実誤認でした。移籍先は、サンフランシスコ・ジャイアンツ…)


DISPっていうのは、
まぁ僕も初めて聞いたんだけど、
defense-independent pitching statisticsの略で、
『守備の影響を排除した投球データ』という意味。

防御率は、投球回と自責点に依存してるし、
勝敗は打撃力にも依存してるわけで、
投手の力量以外で、つまり所属するチームによって、
その数字が上下する可能性は十分にある。

僕らは、まぁそれはそれとして、みたいな感覚で、それに対して諦めていたのだけど、
さすがデータマニアなアメリカ。
それを回避するような数字の出し方を考案する人もいるわけで。。


コラム内には、具体的な数字の計算方法は書いていなかったが、
調べてみたところ、以下のようになっているらしい。
DIPSを数値化する方法はいくつかあり、時には奪三振、与四球、被本塁打以外に投手が打たれた二塁打と三塁打も投手の責任とする方法があるが、多くの場合投手が打たれた二塁打と三塁打の記録を見ることができないので、奪三振、与四球、被本塁打だけで算出する方法が主流である。 DIPSを数値化するポピュラーな方法は「DIPSera」と呼ばれる方法で以下の2つの式が使われる事が多い。
  • (与四球×3+被本塁打×13?奪三振×2)÷投球回+3.2
  • (与四球?(敬遠+死球)×3+被本塁打×13?奪三振×2)÷投球回+3.12
マクラッケンは最近の研究で、DIPS2.0と呼ばれる改良式を提示した。この式では、変化球投手の評価精度を高めるほかに、BABIP(打球がフェアゾーンに飛ぶ確率の指標)との相関性を追求している。しかし、公式成績に出ていない指標と小数の係数を多く含めているため、かえって計算が煩雑になってる。その一方で、アメリカのタンゴ・タイガー(Tango Tiger)は、DIPSの簡易版としてFIPを提唱してる。
  • DIPS2.0=(フェアフライによるアウト数×(?0.041)+ゴロによるアウト数×0.05+ファウルフライによるアウト数×0.251+ライナーによるアウト数×0.224+与四球数×0.316+与死球数×0.43?奪三振数×0.12)÷投球回数×9
 

DISP2.0はなんかどえらく複雑になっちゃってるけど、
1.0の方を見る限り、結構簡単。

コラム内で李さんも触れてるけど、ESPNのサイト内では、
MLBのピッチングスタッフに関するこのデータも公開されていた。

ESPN.com – MLB – Pitching Sortable Stats(2006)

DISPによる防御率(DISPERA)の右側にあるデータ(DIP%)は、
旧式の防御率(ERA)との比較。
これが1.00を下回っている場合、
旧式の防御率での評価が過小評価になっている、
逆に1.00を上回ってたら、過大評価されている、という感じか。

バリー・ジトは、DISPが4.87で、71位(防御率は3.83で23位だが)。
DIP%は、1.27で、TOP80の中で、最も過大評価されている投手と言うことになる。
よりによって。


もちろん、だからといって契約が失敗したとは言えないし、
ヤンキースサンフランシスコ・ジャイアンツで大活躍するかもしれないわけだけど、
(金もらって近年のモチベーションの低さ?が無くなるかもしれんし)
少なくとも、ERAと、DISPERAの差の原因を予測して、
それがヤンキースサンフランシスコ・ジャイアンツというチームで埋められるか…くらいの指標にはなりそうな。
少なくとも、現在のところは、契約と実力が不釣り合いじゃないかなぁという気が…


ところで、日本野球に当てはめたらどうなるんだろう…というのが気になるけど、
この辺りによると、こんな感じの結果が出てるらしい。
56 :神様仏様名無し様:04/11/04 21:23:05 ID:BCn7ekhv
>>37式での投手ランキング(1980年以降&規定投球回以上)

DISP ERA   IP   HR BB  SO  YEAR PLAYER
2.17  2.46  193.7  07  28  187  2001  野口 茂樹(D)
2.39  1.92  145.7  04  36  139  1989  大野 豊(C)
2.49  2.53  203.0  09  72  239  1995  伊良部 秀輝(M)
2.50  1.79  150.7  06  33  141  1989  槙原 寛己(G)
2.52  2.38  196.3  12  34  196  1999  工藤 公康(H)
2.54  2.09  197.7  12  24  179  1999  上原 浩治(G)
2.63  1.70  185.0  11  39  183  1988  大野 豊(C)
2.71  2.16  208.7  11  43  187  1988  槙原 寛己(G)
2.71  3.11  136.0  14  16  148  2000  工藤 公康(G)
2.78  2.40  157.3  07  59  167  1996  伊良部 秀輝(M)
2.83  2.83  194.0  13  63  215  2003  松坂 大輔(L)
2.84  3.13  181.0  05  69  169  1994  斎藤 隆(YB)
2.85  2.49  187.7  08  30  130  1997  小宮山 悟(M)
2.90  1.94  148.3  09  28  123  1992  石井 丈裕(L)
2.90  2.60  204.0  18  23  182  2002  上原 浩治(G)
2.92  2.49  209.7  15  53  206  2002  井川 慶(T)
2.92  2.41  141.7  10  19  113  1982  山本 和行(T)
2.97  2.20  249.0  20  59  247  1993  今中 慎二(D)
3.01  2.60  187.0  11  53  169  1995  小宮山 悟(M)
3.02  1.80  130.0  05  29  088  1992  赤堀 元之(Bu)

この期間、防御率1位の89年の斎藤雅は3.16
69 :神様仏様名無し様:04/11/06 15:21:49 ID:NIA+aHy0
ERA ? DISPera の差分値ランキング(1990年以降&50回以上)

差分  DISP  ERA   IP  HR  BB  SO  YEAR  PLAYER
3.48  4.03  7.51  *50.1  *3  13  *18  1991  中西 清起(T)
2.60  2.90  5.50  *54.0  *4  22  *67  1996  宣 銅烈(D)
1.96  4.79  6.75  *53.1  *8  19  *38  1992  入来 智(Bu)
1.88  4.83  6.71  *57.2  *4  42  *42  1993  鈴木 健(C)
1.85  5.41  7.26  *57.0  *9  21  *27  1999  芝草 宇宙(F)
1.82  5.08  6.90  *61.1  *7  46  *57  2003  萩原 淳(Bw)
1.77  4.86  6.63  *91.0  12  45  *70  1995  佐藤 秀樹(D)
1.73  2.92  4.66  125.2  *9  36  130  1994  高村 祐(Bu)
1.71  3.13  4.83  *54.0  *2  14  *36  2001  武田 一浩(D)
1.69  5.70  7.39  *52.1  *9  22  *26  1996  郭 泰源(L)
1.68  5.26  6.94  *59.2  *8  35  *43  1991  藤本 修二(T)
1.66  3.43  5.09  *93.2  *3  29  *52  1997  田之上 慶三郎(H)
1.59  4.02  5.61  *85.0  *7  41  *72  1991  バートサス(S)
1.58  3.37  4.96  *52.2  *4  21  *53  1991  松谷 竜二郎(G)
1.56  3.78  5.34  *62.1  *4  28  *50  1998  今中 慎二(D)
1.55  4.42  5.98  *84.1  *8  37  *56  1994  武田 一浩(F)
1.54  3.97  5.51  *65.1  *7  23  *55  1996  木村 恵二(H)
1.54  6.84  8.38  *81.2  25  36  *68  2003  吉見 祐治(YB)
1.49  7.94  9.44  *62.0  18  36  *24  1990  藤本 修二(H)
1.44  4.82  6.26  138.0  22  59  120  2004  斉藤 和巳(H)

宣、高村は翌年防御率1点台
73 :神様仏様名無し様:04/11/06 21:29:52 ID:/UbpqlE0
DISPera 年度別リーダーズ

YEAR  DISP ERA   PLAYER 
1990  3.45  2.51  桑田(G)
1991  3.06  2.52  今中(D)
1992  3.30  2.53  仲田(T)
1993  2.97  2.20  今中(D)
1994  2.84  3.13  斎藤隆(YB)
1995  3.02  2.33  ブロス(S)
1996  3.12  2.36  斎藤雅(G)
1997  3.28  3.35  三浦(YB)
1998  3.09  2.94  斎藤隆(YB)
1999  2.54  2.09  上原(G)
2000  2.71  3.11  工藤(G)
2001  2.17  2.46  野口(D)
2002  2.90  2.60  上原(G)
2003  3.23  3.34  木佐貫(G)
2004  3.42  4.65  黒田(C)

YEAR  DISP ERA   PLAYER
1990  3.14  2.91  野茂(Bu)
1991  3.54  3.05  野茂(Bu)
1992  2.90  1.94  石井丈(L)
1993  3.09  3.35  星野(Bw)
1994  3.26  3.04  伊良部(M)
1995  2.49  2.53  伊良部(M)
1996  2.78  2.40  伊良部(M)
1997  2.85  2.49  小宮山(M)
1998  3.64  3.57  小宮山(M)
1999  2.52  2.38  工藤(H)
2000  3.75  4.31  石井貴(L)
2001  3.95  3.26  ミンチー(M)
2002  3.16  3.69  岩隈(Bu)
2003  2.83  2.83  松坂(L)
2004  2.95  2.90  松坂(L)
 

過小評価されている選手が翌年活躍するとか、
なかなか興味深い考察が出来るみたいだ。


あー日本野球のデータサイト欲しいなぁ…
自分で作るしかないのかなぁ…
(しまいには、作ってしまいそうで怖い)



■ 訂正(2007/06/27)

文中、なぜだか素で、バリー・ジトの移籍先がヤンキースと書いてますが、
引用のエントリにもあるとおり、サンフランシスコ・ジャイアンツですね…
自分でもちょっとビックリしました。
訂正します。