991209

『羽根』

知らない店のカウンターで、ビールの後に、『アラユ』を飲みながら
友達の女の子と、その子の友達の、知らない女の子と
3人で話をする。
非日常なはずなのに、日常的、それとも日常にあるけどどこか非日常的?
どこか違和感を感じながら、でも、それを楽しみながら、ブラジル産、
アルコール度数40%のスピリッツを飲み干す。

僕はその3人目の女の子は知らない。最初に ── ですと紹介された名前が
少し酔ってきた頭の中のどこかに引っかかっている、だけだ。
だけどその彼女は、友達から聞いているのだろう、
僕のことを少しは ── または、“よく” ── 知っているらしい
何を知ってるんだか、という思いは拭えないが、大方想像はつくし、
そんなことより、今口にしているスピリッツがあまりに美味しいので
細かいことはどうでもよくなっていて、サプライズ・バースディ・パーティ
について意見を求められているのを聞き流してしまって、困った顔をさせる。

barの店長はさして客も入っていないので、暇そうに、ちょっと憂鬱そうにしていて、
女の子の話に時々きれぎれの言葉を返し、灰皿を確認する。
3人の吸っているタバコの煙が、狭い店のさらに狭い天井へと立ち上って、
僕は2人の話半分に、白くもやのかかった景色を追いかける。

3人で話しているのに、ずっと
カウンターの奥に綺麗に並べられた、
エメラルド・グリーンのグラスに向かって喋り続けている気になって
それを取り戻すために
2人の顔を確かめてみたり、タバコの火を借りたり、携帯電話の表示を見たりする。

『でさぁ、』という区切りからまた話に耳を傾けて、適当な言葉や返事を選んだり、
しなくてもいい冷静な分析を ── そんな気分じゃないのに! ── 加えたりする。
ちょっと気になって脚を組み替えると、
とたんに両足のしびれが爆発して考えどころではなくなるけど、
じきに気にならなくなるだろう。

知らなかった女の子(もう少しは知ってる女の子)はもうすぐ帰ると言い出していて
僕もどうしたもんかね?と、タバコの煙に映る自分に言ってみる。
だけど煙はぐるぐる回って、『好きにすれば?』とだけ言って、壁のぐるぐる回る羽根に消えて行った。
仕方がないから、友達の女の子にもどうしたもんかね?と聞くと、やっぱり好きにすれば?
と言いたそうだったけど、そうは言わずに、考えといてね、とだけ言って、その日のお酒は
お開きになった。
何を考えとくんだっけ?そんなことを言っているうちにもう1人の女の子の名前も忘れちゃいそうだ。