アレな人として名高い武田邦彦さんが「早死にしたくなければ、タバコはやめないほうがいいい」という、タイトルからしてアレな感じの本を書かれていて、興味本位でアマゾンのレビューを見に行ったら案の定、タバコを止めたくない人の賞賛と、その後手術を受けた喫煙者の批難が併記されていて大変楽しめたのですが(でももちろん買う気にはならない)、そこで「これを読むくらいならこれを」と紹介されていたのが本書。

本来は、禁煙をしたい人向けとして評価が高い本らしいのですが、タバコを止めたとは言えまだ3年で今後も吸わずにおれるか自信が無いので、参考までに一度読んでおこうと思って購入しました。


目次

  • タバコに火をつける前に
  • 第1章 やめられない魔性のアイテム
  • 第2章 心臓と血管をニコチンが襲う
  • 第3章 脳の機能低下とタバコ煙の驚くべき組成
  • 第4章 タバコが暴力事件を引き起こす!?
  • 第5章 発がんと軽いタバコの危険性
  • 第6章 急増するCOPD―肺疾患の恐怖
  • 第7章 未成年者をたぶらかす自動販売機
  • 第8章 タバコ業界の隠蔽と情報操作
  • その火を消して、タバコを手放そう


ざっくりとした感想

結論から言うとですねえ……怖いね。怖い。そして煙草が余計に嫌いになりそうです。

読み始めたときには、意外にも煙草を吸っていた頃のことを思い出し、すこし吸いたくなりました。最初の1章分くらいでしょうか、書いてある内容は喫煙による害であるのですが、「これくらいなら」となぜか思ってしまうんですね。3年経っても僕の頭にはニコチンが残っているのかも。

ただ読み進めていくうちにその「喫煙による害」がかなりシャレにならないことが解ってきます。煙草の主流煙及び副流煙に含まれる有害物質の量やその影響、実際の疾病とどんな関係があるかを示す多くの資料(もちろん資料の出自は明らかになっていてその多くは学会等で発表された論文です)が掲載され、それらと喫煙をしない人間、喫煙を止めた人間の状況とが比較されます。筆者の推論による結論への誘導はほとんどなく、喫煙による害が淡々と列挙されていきます。それが逆に怖い。


最近は何でもかんでも煽るのが流行りですが、本当に怖いのはこっちの方ですね。


衝撃だったのは、煙草農家への影響と副流煙(正確には呼出煙も含めた「ETS」)

今まで、煙草農家に害をなすことがあるなんて考えたこともありませんでした(p.54「あなどれない経皮吸収」)。僕の認識では、煙草というのは刻んで製品にして火を付けた段階で始めて有害なものになるという認識だったので、ニコチンは水溶性であり、雨が降った際にそれが溶け出し皮膚から雨滴を通じて経皮摂取されることで、畑に入るだけで特別な症状を呈するほどとは思いませんでした。農家の間では「タバコ酔い」と言うそうです。タバコは、植物そのものが人間にとって有害であると。

副流煙と喫煙者が吐き出す呼出煙とを合わせたETS(「Environmental Tobacco Smoke」(環境タバコ煙))に含まれる有害物質は主流煙よりも多い場合があること、同居する家族に喫煙者がいるときの非喫煙者の疾病率が有意に高いこと、喫煙者が換気扇の下やベランダで喫煙することは、「同居する家族に悪影響を与えない」という意味ではなんの意味もないこと(喫煙後の呼気や衣服に付着した有害物質が十分な悪影響を与える)など、今まで自分が「喫煙者として気を使っている」つもりだったことが、全く実を結んでいなかったというのは少しショックでした。

当時「好きで吸ってる俺だけが病気になるんだから良いだろ」と思ったこともありましたけど、実際に資料を見てみると「俺だけ」じゃないんだというね。そうだったのか……


「喫煙者も被害者」……父親のことを考える

「副流煙による非喫煙者への影響」と書くと喫煙者が加害者のようですが、本書で取られているスタンスはそうではなく、「喫煙者も被害者」。ニコチンに慣らされてタバコを「吸わされている」状況であって、喫煙者を批難するだけでは喫煙者と非喫煙者の間の溝を大きくするだけで、問題は改善しないということ。


先月、父親が肺の手術をしました。手術の内容はそれほど喫煙とは関係がなく、ウィルスが侵入して化膿し切除するしかなくなったと言うものでしたが、手術するに当たって心臓周りを検査したところ、周りの血管がぼろぼろ。何とか手術には耐えられるだろうということで手術は実施し、無事終了しましたが、血管の半分は薬を投与して治療しなくてはならないだろうし、もう半分はいずれバイパス手術を行う必要があるだろうとのことでした。そうしないと、心臓自体はとても丈夫であるにもかかわらず、遠からず心筋梗塞になるだろうと。

祖父母が亡くなってから、親戚一族から父親が受けていたストレスはとにかく過大であったので、そうしたことも影響の1つであったかも知れませんが、医師曰くまあタバコでしょうね、ということで。なんかこうとても冷たいものを感じました。ああ、僕もタバコを止めずに64歳まで吸っていたらこうなっていたのか……と。

病床に横たわる父は、被害者そのものでした。


このあたりの病気に関することは、第2章・第3章と第5章・第6章にそれぞれ詳しく記載されています。タバコを吸っている今からすると、そんな状況は20年も30年も先のことではあるのですけれど、吸っていれば必ず訪れる未来でもあります。その現実だけは知っておいた方が良いかも知れません。


まとめ

先に述べたとおり、全体を通して信頼できる資料をベースにした説得力ある内容で構成されており、喫煙しているとつい採用したくなってしまう「そうは言っても酷いことにはならないでしょ」という選択肢が、実際には存在しないのだと言うことを思い知らされます。

喫煙は自分で「止めよう」と思わない限り止められないし、思ったとしてもなかなか止められないものではありますが、現実にどんな影響があるのか(自分に、配偶者に、子どもに)を正しく知って、判断の糧にしてもらえたら良いのではないかと思いますし、そういう場合に本書は最適な資料となるだろうと思います。



ただし:第4章だけは判断保留で

全体を通して信頼できる資料とそれに基づく明快な論理で、喫煙が及ぼす害が語られているのですが、第4章「タバコが暴力事件を引き起こす!?」だけは、そのほとんどが筆者の推測で構成されており、「正しいかも知れないし正しくないかも知れない」と言う域を出ていません。他の章が明快すぎる分、この章は曖昧さが目立ってしまうので、重要な問題提起だとは思うものの、事実かどうかについては保留にしておくべきかな、と感じました。