色んなところでちょいちょい名前は聞いていたけれども、きちんと全部読み通したことがなく、一度読んでみたいなぁと思っていたのだけど、新しいシリーズのマンガを買うというのはなかなかに勇気のいるもんでして、お財布に余裕があったらね…なんて考えていたんだけど、なに?孤独のグルメって全1巻なの?ということを知って慌てて購入。もっと早く買えば良かった。
「孤独のグルメ」は、原作が久住 昌之さん、作画が谷口 ジローさんの、知る人ぞ知る名作。
編集は西原理恵子のマンガでおなじみ、新保信長さん。

単行本自体は1997年に出ているのだけど、その単行本に10年ぶりの新作(2008年発表)と、作家・川上弘美さんを交えた鼎談を収録して新たに出版されたのがこの新装版。単行本を買うべきか…と一瞬思ったものの、そちらはプレミアが付いて値段が倍くらいになっていたので、素直に新装版を買いました。


で、どういう漫画かというと…なかなか説明は難しい。

この漫画自体にはストーリーらしいストーリーはなくて、あるのは主人公「井の頭五郎」の設定だけ。個人で雑貨輸入業を営む中年男性で、1人で静かにご飯を食べるのを好み、酒は飲めない、愛煙家、以前はパリに住んでおり当時は日本人女優と付き合っていた。カジュアルなものから高級なものまで選り好みせずに食べるけれど、注文や食べ方のバランスにはうるさい。大食漢であり、同時に食いしん坊であるためついあれもこれもと注文しすぎてしまい、結果食べ過ぎてしまう。その割に全く太っていないのは肉体労働が多いかららしい。見かけによらない筋肉質の体は、その肉体労働と、古武術師範である祖父に鍛えられたもの……

そんな主人公が東京を中心に色んな店で色んなものを食べるというだけの漫画なのだけど、主人の態度に立腹するエピソードを除けば大体においてはにこやかに食事を取っていて、これがとにかく美味そう。食べ物の描写もさることながら、その食べ物にありつくまでの道中の絵、食べたときの五郎の表情などなど、全てが凄い。こんな漫画だったら、1冊といわずどんどん出て欲しいとも思ったのだけど、鼎談と合わせて読むにこれがとにかく手間の掛かった作品なのですね。久住さんが取材に取材を重ねて原作を練り上げ、その原作を受け取った谷口さんが資料をもとにトコトン描き込むという…

例えばこれは、鼎談でも言及があった商店街の描写ですが…



確かにさらっと流してしまうけど、描写がとてつもなく細かい。この1カット、そんなに描き込む必要があるのかと思うけど(谷口さん曰く「1カット1日」)、でもこれがあるのと無いのとでは…

漫画にも背景を細かく描き込む作品と背景はざっくり省略する作品とあって、描写としてどちらが優れているというわけではないけれど、谷口さんのこの描写は、写真撮影に似ているなぁとちょっと思ったり。写真撮影というのは、ポートレートのように絞りを開いて背景をぼかして被写体を際立たせる時もあれば、絞りを絞って背景を全てはっきり写して「状況」を描写するときもあるわけで。「孤独のグルメ」では、その両方がバランスよく配置されていることで、今注目すべきは食べ物か、五郎の表情か、状況かが意識しなくても頭に入ってきます。凄い。


個人的に感慨深かったのはこの表情。



自然食品で食事をしたときの表情なんだけども、なんだろうな…この表情までの「自然食品」に対する偏見(いや実際にそうなんだけど)、それからこの表情の後の「どれもくやしいけどうまい」という台詞、その両方を感じたことがあって。そうなんだよ、メチャクチャ美味くて、メチャクチャ物足りない(笑)それが自然農法、無添加、無農薬の店で食べる料理。よくぞこの表情を描いたと思って、なんだか自分が描かれたみたいで嬉しくなってしまった。そうなんだよねぇ…

さすがにその後にカレーを大盛りで追加注文することはなかったけど(笑)



そんなわけで、全18話+特別編の19話しかない「孤独のグルメ」なんだけど、これだけは言える、読む価値、アリ。孤独な食事のはずなんだけど、なんだかとても温かいものが残っていいんですよね。でもって、間違いなく腹減る。

ああ、焼肉食いたい、鰻丼食いたい、カツサンド食いたい、大盛り焼きそば食いたい…



最後にこれを。



やめて!それ以上いけない。