【健康に関するメモ】第8回:アルミニウムとアルツハイマー病の関連について。

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健康に関して気になる情報について調べ可能な限り文献にも目を通した上でまとめます。始めからトンデモだと決めてかかるのでは無く、また正しいと決めるのでも無く、出来るだけフラットになるように心がけますが、なにぶんメモ書きであり内容の正しさを保証するものではありません。基本的にはWikipediaの情報を参考文献や他の検索結果を見つつメモし、考えるための資料を用意していく予定です。


第8回はアルミニウムとアルツハイマー病の関連についてです。





アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)とアルミニウムには相関関係があるという説があります。水を浄化するためのアルミニウム化合物や、アルミ製の調理器具を使った料理によって体内のアルミニウム量が増加し、それが脳に何らかの影響を与えることによってアルツハイマー病を誘発するという説です。

僕自身はこの説を聞いたことがなかったのですが、一部では根強く支持されている論のようなのでテーマとして取り上げてみました。


「アルミニウムがアルツハイマー病の原因となる」説の出来るまで

アルミ缶リサイクル協会、軽金属製品協会、(社)日本アルミニウム協会の3団体からなる団体連合体「「アルミニウムと健康」連絡協議会」によると、この説の形成過程は下記の通りです。

「アルミニウムと健康」連絡協議会

(1) 1972年にAlfreyらは腎不全透析患者において認知症が発生する(透析脳症)ことを報告し、さらに1976年には透析脳症の原因は、透析に使用した水道水や薬剤中のアルミニウムが原因であり、脳内にアルミニウムが蓄積することであると報告した。
(2) 1989年にマーチンらは飲料水中のアルミニウム濃度とアルツハイマー病患者発生に相関関係があるとする疫学調査を報告した。(Q6をご参照下さい。)
(3) アルミニウムの神経毒性及び疫学調査結果に基づき、アルミニウムは危険因子(リスクファクター)であるとする仮説が報告された。



また別のサイト「介護百科ドットコム」によると下記のように書かれています。


アルミとアルツハイマーの関係 知らないと怖い認知症対策のウソ・ホント

1972年
アルミニウムが残留していた透析液やアルミニウム製剤を投与された人工透析患者の脳内にアルミが蓄積し、アルツハイマー病と似たような症状が起きたとされる米国の事件。
1988年
飲み水として利用される水道給水に誤って大量の凝集剤が投入されたため、その汚染された水(超高濃度のアルミを含んでいる)を摂取した住民にアルツハイマー病と結び付くような症状をもつ患者が現れた英国の事件。
1989年
英国のアルツハイマー病患者が多い地域の飲料水から高濃度のアルミニウムが検出された事件。
1992年
体内のアルミニウムは正常な脳にも取り込まれ蓄積し、脳の神経細胞に障害を起こすということを日本国内のプロジェクトチーム(東大や東北大)が証明。



とても簡単にまとめるとこういうことです。

  1. アルツハイマーとよく似た症状を起こす「透析脳症」と言う病気の原因が高濃度で摂取したアルミニウムであることが判明
  2. 上記を理由に「アルミニウムがアルツハイマー病の原因となる」という説が1990年代に国内メディアによって報道され、常識として定着した



「アルミニウムはアルツハイマー病の原因である説」に関する雑感

説がどのように形成されたかは上記の通りですが、それを読んだだけでもよく分からないことがあります。まず「透析脳症」と「アルツハイマー病」は同じなのでしょうか。脳内に高濃度で蓄積されたアルミニウムが「透析脳症」の原因になることは解りましたが、であるから「アルツハイマー病」の原因でもあると言えるでしょうか。もしくは「透析脳症」が「アルツハイマー病」の原因になると言えるでしょうか。

次に、脳にアルミニウムが高濃度で蓄積されたのは、アルミニウムの大量摂取が原因と言うよりも腎臓の障害による透析機能の低下が原因と書いてあるのですが、であるならば正常な腎臓を持つ人ではアルミニウムの蓄積は起きないのではないでしょうか。



アルミニウムはアルツハイマー病の原因になるのか

実は、答えは明確に出ているので、そちらから最初に書きましょう。


アルミニウムの摂取がアルツハイマー病に関連があるとは言えません


例えば総務省の資料であるところの「アルミニウムに関する食品健康影響評価関連基礎資料(PDF)」には下記の記述があります。

アルツハイマーとの関係性は否定されている。
食品からのアルミニウムへの暴露がアルツハイマーを進展させるリスクを形成す
るとは考えていない(EFSA、2008)。
食品用物品由来のアルミニウムによるアルツハイマーの危険はない(BfR、2007)


EFSAは「欧州食品安全機関」。BfRは「独連邦リスク評価研究所」。共に、アルミニウムの摂取がアルツハイマー病の原因となることを否定しています。


また独立行政法人 国立健康・栄養研究所にも「アルミニウムとアルツハイマー病の関連情報」という資料があり、その中で以下のように記述されています。


「健康食品」の安全性・有効性情報

透析と関連する痴呆は、病理学的にアルツハイマー病といくつかの類似点があります。血液透析液中のアルミニウムが発症に寄与し、透析の中止、またはアルミニウムの除去により透析痴呆の発症を防ぐことが出来るとされます (2) が、透析痴呆とアルツハイマー病とでは症状が異なるとされています (1) 。今のところ、ヒトで見られるアルツハイマー病とアルミニウムの関連性を明らかにした科学的根拠は見当たりません (2) 。
 ヒトに対するアルミニウム暴露がアルツハイマー症の発症を増強あるいは加速するという仮説について、WHOのEHC (Environmental Health Criteria;環境保健基準) では、「この仮説を指示している様々な疫学データの多くが、交絡因子やヒトにおける総アルミニウム摂取量の考慮が行われていない研究であることには問題があると考えられるが、一概に仮説を却下することはできない。これらの疫学データから求められたアルミニウム暴露によるアルツハイマー症に対するリスク値は算出方法に統一性がなく、不確かなものなので、一定地域の人々に対するリスクを正確に算出することは出来ない。」と判断しています (3) 。
 アルツハイマー病の発症とアルミニウムには、何らかの関係がある可能性は否定できませんが、今のところ、アルミニウムの摂取が原因でアルツハイマー病が発症するとは言えません。



また、アルミニウム製の調理器具を使用することによってアルミニウムが料理内に溶け出し、健康を損ねる(多量のアルミニウム摂取は子どもの成長に影響を与える可能性がある)ことになると言う説も否定されています。


「健康食品」の安全性・有効性情報

アルミニウム製の調理器具や容器等の使用により、アルミニウムの摂取量が増大し、アルツハイマー病になるというような情報も流れているようですが、アルミニウム器具からの食物への溶出はわずかです。アルミニウム溶出量について、次のような報告があります。
 1) 加熱調理をすべてアルミニウム製鍋でおこなった場合に調理器具から1.68 mg、アルミ箔製品から0.01 mg、飲料缶0.02 mg摂取すると推定されている (1) 。
 2) 酸や食塩が強い食品ではアルミニウム容器からの溶出が比較的大きいが、全ての食品がアルミニウム容器で調理・保存されても、容器由来のアルミニウム摂取量は6 mg/日程度であるので、暫定的週間耐容摂取量PTWI (7 mg/kg体重/週) と比較して非常に低い (PMID:8885317) 。
 以上の報告からも分かるように、アルミニウム器具からの溶出に対して過度に心配する必要はありません。

 ドイツBfRからの報告 (5) でも、市販アルミニウム製品からのアルミニウム摂取量は、食品や制酸剤 (水酸化アルミニウムやケイ酸アルミニウム) から摂取するアルミニウム量よりも少なく、毒性を示す量よりも明らかに少ないことが示されています。したがって、市販アルミニウム製品の使用による健康への影響はないと考えられます。ただし、アルミニウムは酸性条件下で溶解性が高くなるため、酸や塩濃度の高い食品 (リンゴをすりつぶしたものやトマトピューレ、塩漬けニシンなど) にはアルミ製の容器やアルミホイルを使用しないことを勧めています。




上記の資料に基づいて考えるに、

  • アルミニウムがアルツハイマー病の原因になるというのは、アルツハイマー病と透析脳症の混同による誤解であり、実際には関連性はない
  • アルミニウム製調理器具からの溶け出しが微量であることを考えると、アルミ製鍋の使用を控えたり、アルミ製鍋を他の鍋(例えばステンレス製)に置き換えることには特に意味は無い

ということが言えると思います。



参考資料

アルミニウムに関する食品健康影響評価関連基礎資料
アルミニウムとアルツハイマー病の関連情報 – 「健康食品」の安全性・有効性情報〔独立行政法人 国立健康・栄養研究所〕
Aluminium (EHC 194, 1997)