数字に変換出来るかどうか
大事なことは数字に変換出来るかどうかです。大さじといえば15mlですし、小さじといえば5mlです。「大さじ2」なら30mlに変換出来ますし、「小さじ1 1/2」なら7.5mlに変換出来ます。「大さじ2」を計るのに小さじを6回使用したとしても出来上がりが変わることはありません。結果的にその分量になるのなら器具を何を使っても良い、誰がやっても同じになるというのが、レシピにおける分量の大事なところです。一方「山盛り」というのを誰もが同じとするのは少々無理があります。人によって感じ方は変わるだろうし、スプーンの形状によっても変わります。口が小さくて深さがある計量スプーンだと山盛りにしてもさほど多くなりませんが、口が広くて浅い計量スプーンだとかなり多くなります。
レストランにおけるパスタソースの話
「山盛り」と同じような表現として例えば「カレースプーン2杯」という表現があります。これがまたわからない。仕事である料理を出すときのソース(ラグー/和牛テールの煮込み)の目安として「サーバスプーン2杯」と教えられました。でも教えられたとおりにきっちりやってるのに、どうもソースが少ない。で、先輩がやっているのを見ていたらサーバスプーンで大盛りにすくって2杯入れてました。量にして僕が入れてた量の1.5倍ぐらい。そりゃ少ないわけだわ。量の多少で味が変わるわけではないのでそんなに神経質になる必要はないのですが、少なすぎると乳化しづらいしパスタと絡みにくくなるのである程度は必要。仕込むときは1gまできちんと計って仕込んでいるわけだし、原価を出すときも1gまできちんと計って計算しているわけだから、最初教えるときは重さで指定して欲しかったなあというのが正直なところ。「ソースは1人前85g、大さじで大盛り2杯ぐらい」みたいな感じだと感覚をつかむまでのブレが少なくて済む。
居酒屋の時の「明太子パスタ」の話
そういえば思い出したけど、僕が居酒屋にいたときの料理長Kさん、健康診断でコレステロールが異常に高くなってしまったことがあって。原因は人気メニュー「明太子パスタ」の味見のし過ぎ。明太子パスタのソースは、ほぐした明太子とバター、マヨネーズ、黒こしょうを温めておいて、そこに茹でたパスタを入れゆで汁でソースの量を調整するという工程なのですけど、歴代の料理長は皆、明太子やバターの量を目分量でやってました。Kさんも先輩のやり方に倣って目分量でやっていたのだけど、なかなか自分好みの味にならないので味見を繰り返し試行錯誤をしながら毎日出していたそうですが、それが良くなかった。まあ明太子なんて、塩分とコレステロールとプリン体の固まりですから、たまに食べる分には良いけど毎日大量に食べるとなるとね……そりゃ体壊しますよね。
最終的にはそれまで目分量でやっていた材料をすべてグラム単位できっちり決めて、明太子とバターはあらかじめ1人前ずつわけておく、マヨネーズは毎回計って入れる、そうすることで味のブレがなくなって味見をする必要が無くなり、Kさんの健康診断結果もなんとか正常値の範囲内に収まるようになりました。めでたしめでたし。Kさんは後に心臓を悪くして倒れることになるので、そのとき味見をしなくて済むようにしていなければ、もしかしたら死んでたかもね。料理人の宿命ではあるけれど、明太子パスタに命まで賭すわけには……。
というわけなので、改善しようかなと
レストランであれカフェ営業であれ、仕込みに関してはきっちり分量を決めて味がブレずに決まるようにしているんですけど、それでも一部の調理において「山盛り」というような表現が出てくることがあり、それで結果問題が起きていないならそれでいいんだけど、たまに味がブレることがあってちょっと悩んでました。もう少しつかみたいなあと。でもなんてことはない、結局計れば良いだけの話なんですよね。例で上げたレストランのソースの話にしても、暇な時に目安のグラムを計っておいて、どんな感じでサーバスプーンに盛ればその目安に近づけるか把握しておく。それだけでだいぶクオリティが安定しそうです。「別にそんなのどうでも良いだろ」と思いがちだし、実際そう思ってきましたが、把握した上でざっくりやるのと、よくわからないままざっくりやるのとでは大違い。そういう細かいことも大事よね。