喜ばしいことではありませんが、あるバッチのビールの仕上がりが期待どおりでなはく、廃棄するという難しい決断をしなければならないことがあります。これは通常完成したビールのフレーバーの特徴が、私たちが設定した許容範囲を超えているからです。
違うアプローチでIPAにチャレンジ – 残念なお知らせ – Kyoto Brewing Co. – Online Store
(中略)
残念なことに、最近紹介した8月上旬リリース予定の実験的なドライホップビールにも同じことが起きてしまいました。
(中略)
廃棄するという選択は私たちをとても悲しい気持ちにさせますし、ビールを無駄にしてしまったなあと思います。しかし、製品に誓うコミットメントとお客様に抱いている尊敬をよりいっそう強くしてくれるという点で、その選択をすることを非常に誇りに感じてもいます。基準を満たさない製品を出すことはお客様をがっかりさせ、その結果私たちが懸命に取り組んできた品質に対する評判を損なうものであると、強く信じています。
醸造所としては痛恨の極みでしょうし、酒の場合は廃棄するに当たって税務署に届けて場合によっては検査を受ける必要があり、手続も煩雑です。多少のクオリティには目をつぶって販売してしまった方が、目の前の財政的にも手続的にも楽なんでしょうが、麦酒を醸造するものとしてそこを譲ることは出来ない、その強い信念を感じるリリースでした。僕は、京都醸造のこの姿勢を強く支持します。
ある日とある醸造所でリリースされたこんな新商品の話
あまり詳しく書けないので不足する分は想像で自由に補って頂きたいと思いますが、関係するとある醸造所で新しいビールがリリースされることになりました。京都府内の農家と連携して作られたもので、その作物由来の着色料によって斬新な色づけがされており、見た目は美しいビールです。その色に合わせて提供するスペシャルメニューも考案され、提供が開始されたのですが、「味見」として回されてきたそのビールを飲んで驚愕しました。びっくりするぐらい不味い!!!
例えるなら「駄菓子屋で売っていた粉ジュースのブドウ味」。「何の味がしますか?」と聞かれたら一番最初に出てくる答えは「水」。味がないだけでなく発泡性も低く、プレスリリースで堂々と書かれていたような「スパークリングワインのような味わい」も「フルーティな香り」もまったくない。これを胸張って新商品でございますと発表出来る醸造家の顔を見てみたい(知ってます)。こんなクソ不味い液体(ビールとは呼びたくない)を「新商品でございます」と勧めるスタッフの気持ちになってみろ。お金出してこれを飲んだ客に謝ってこい。
案の定、ホール担当社員が「期間限定商品なのにこのままだと半年近く売れ残る」と嘆くほどの売れ行きの悪さで(つまり誰もリピートしないってことだ)、いつまであるんだろうかと思っていたところ、どこかからかダメが出たようでいつの間にかラインナップから消えてました。詰める樽もないぐらいの売れ残りでしたし、タンクを開けないと次が仕込めないわけで、まあ、廃棄ですよね。
醸造家の舌が本当に狂っているのなら話は別ですが、そうでないなら、無理してリリースしたところで酷いクオリティのものは廃棄される運命なわけですよ。ほんの少し現金化はしたけれど、下がったお客様の評価やスタッフの信頼度を考えるとどう考えても差し引きマイナス。味見時点で早々に廃棄を決断すべきクオリティであったのは明らかです。でも凡人にはなかなか踏み切れないんでしょうね。そして誰も得しないクソみたいな展開になるわけですね。
そんな出来事があったので、今回の京都醸造の発表には感慨を覚えました。きちんとしている人は、きちんとした決断をするのだなと、深く思いましたよ。そして某醸造家は、味覚が死んでいるかどうかは別にして、人間としてきちんとしていないのだなということも。きちんと反省して向き合う姿勢から改めてくれていると良いのですが。そしてそれを会社としてサポートする、失敗を許容し条件を付けて次のチャンスを与える、そんな会社であってくれると良いのですが。
大事なことだと、思うんですけどねえ。