友達の「愛犬飼育日記」が馬の馴致や乗馬の調教と同じこと書いててなんか懐かしい

乗馬をしている風景2


経験した人は日本人ではそう多くないと思うので、まあ書いても伝わらないよなと思うんですけど(後述)、まあいいや。




友達が新しい犬を家に迎えて1年、ドッグトレーナーを目指す娘さんとあれやこれや試行錯誤しているのをInstagramやFacebookで見ているのですけど、それを見ていて思うのは、犬の調教と馬の調教が恐ろしくよく似ているなあと。もちろん肉食性・草食性の違いから来る性格の違いやそのサイズから来る人間との距離の違いは確かにあり、調教の難しさ、気をつけるべきポイントなどは違ってくるとは思うのですが、本質的な意味で。


例えば「人間に大人しく従って見えるときは、従順と言うよりもむしろ舐めている」という主旨の話がありました。「舐める」というのは乗馬では常に存在する状態で、馬が乗り手の技量を判断しこいつは下手くそだなと感じたら言うことを聞きません。単純に指示の出し方が技術的に下手で伝わらないと言うだけでなく、指示自体を無視して好きなように動き始めます。見た目動いているように見せつつ、手を抜く場合もあります。体をきちんと動かさないとか、円を小さく回るとか、勝手にペースを落とすとか止まるとか。

犬と馬とでは求める結果が違うので過程や具体的なメソッドは変わってくるとは思いますが、基本的には良い悪いをきちんと見極め、良いときにはすぐに褒める、悪いときにはすぐに叱る。良いときと悪いときの基準を一定にして、混乱させない。頭の良い動物であればあるほど、基準が一定しない状況をストレスに感じます。で、あとはそれをひたすら繰り返す。フリーなときはフリーで良いけど、いざやるよってなったらきちんとスイッチが入るようにしておく。家畜を支配下に置くみたいな強権的な話ではなくて、シンプルに人間のパートナーとして生活するために必要なことを教えるって感じ。



犬と同じように馬も様々な悪癖を持つ場合があります。主な悪癖には噛み癖、蹴り癖などがありますが、それぞれに生まれてから今までのどこかで何かアクシデントがあってトラウマになってしまった、性格に難はあったけれど矯正できるチャンスもあった、年齢の問題、環境のストレスの問題といった理由や原因があります。それぞれについて考察し分析することも大事だけれど、結局一番最初に必要なのは今、付き合ってあげること。それ以上悪くさせないとか、もし今悪くさせる要因があるなら取り除いてあげるとか(馬房の使い方汚くてストレスになりがちなら頻繁に寝わらを替えてやるとか)、それで治らなくてもそういうものとして付き合っていく。

僕が面倒を見ていた馬は騸馬(せんば)でとても小心者で噛み癖があったんですが、でも小心者過ぎて噛みつくまではいかない。せいぜい威嚇。それは悪いことだけれど、そこで怒って萎縮させても悪化するだけなので、例えば外で一頭で放置するとか、何時間も放牧しておくとか、そういうことをすることで徐々に気持ちが落ち着いて噛み癖も収まっていく……まあ治りはしませんでしたけども。でも僕は噛まれたことは無かったんじゃないかな。

なんかそういう「理想と現実の折り合い」みたいなのが調教にはあって、「良いところを伸ばす」「悪いところを矯正する」だけじゃない、「悪いところをより悪くしない」「悪いところを見えにくくする」みたいな考え方もあり。もちろん一流の乗馬と一流の調教師だったらそんなことで悩まないのかも知れないですが、ごく普通の大学生とごく普通の競馬上がりのアラブ馬だとそんな感じになるわけです。でも現実ってそんなもんですよね。



なんかとりとめないけど、そういうことを考えていた時代があったなあとちょっと思い出しました。
懐かしい。



僕はあんまりみんなの「こうあるべき」に従っていなかったので、選手としても育成者としても評価は高くなかったですが、必要なときに必要なことを必要な分だけやっていました。老馬に毎日ハードワークさせるとか、どう考えても無理させすぎだと思って3日に1回くらいしかきちんと動かさず、それで夏の試合までもたせたりとかね。動かさないと動けなくなるって随分怒られましたけど、僕以外の直近の責任者が全員途中で馬壊してること考えたら、老馬の扱い方として何が正解かは、ま、わかりますよね。20歳越えた乗馬の筋肉が今さら柔らかくなったり硬くなったりしないって。特に腰と屈腱炎に古傷がある馬ならなおさら。

おかげで僕自身はさっぱり上手くなれませんでしたが、健康でさえいれば良い馬だったので、得点は歴代責任者の中でも良い方でした。全国大会までは差がありましたけどね。

正しいことと、やるべきことの差ってのはそういうところに出るんだと思います。


正しいことが、目の前の相手にも正しいとは限らない。


ちなみに:日本の乗馬人口は?

乗馬人口 日本とイギリス・フランス・ドイツ | Umas!

乗馬人口7万人前後は「乗馬クラブ」の個人・法人会員の人数です。馬術部や非会員で乗っている人口は含まないため、実数とは異なります。

乗用馬・競走馬を問わず、馬の生産・育成・調教や馬の管理を仕事として行っている人数も含まれません。



とのことなので、それに学生(所属大学あたり20人いたとしても1,000人くらい)、競馬関係(JRAの騎手と調教助手合わせて最大で3,000人くらい)、馬産地の方たちを加えて多く見積もっても10万人くらいでしょうか。人口比で言うと、0.1%くらいですね。その中で調教を行ったことがある人間というと、一般の乗馬会員・非正規の会員は無いと思うし多く見ても半分くらい?0.05%、2,000人に1人くらいの話ですね。そりゃ伝わらんわ。