ウェブ検索の発達によって我々は自らの馬鹿を認知できなくなっている
昨日の続き、みたいな感じ。
ウェブ検索を通じて情報を収集するには特別な技術を必要とする | mutter
ウェブ検索を正しく利用し正しい情報を収集するには一定以上の教養や知性、文章に対する読解力が求められ、見た目の簡単さとは裏腹にウェブ検索は「誰でも簡便に行えるようなもの」では無い。その能力が欠如している人間の多さから考えるとむしろ正しくウェブ検索を利用する技術そのものが特別と言える、というのが昨日のエントリの骨子。ウェブ検索は難しい。
んで、そのことを視野に入れつつ、社会で話題になること(原発問題や被災地の問題や健康の話や風営法によるクラブ規制の話や生活保護受給の話や領土問題の話)やそれに対するウェブ上の反応のことを考えてみると、見た目馬鹿なことを言っている人が自分のことを馬鹿だと知っているかというとそういうことは全然無い、むしろ自分は大真面目に社会のことを考え明るい未来に進むために貢献しているとさえ思っているというのがわかります。無用の争いを避けるためにあんまし具体的には言いたくないのですけど、例えば科学的に何の根拠もないような事案(例えば「砂糖を摂取すると骨が溶ける」)に対して実際には単なる感情や先入観に依る個人の好みでしか無いにもかかわらず、さも「科学っぽい」根拠を並べてデマを拡散しようとしている人たちのことです。彼ら自身は大真面目で自身を世間一般より頭が良いとさえ思っているのですが、中身は馬鹿ですね。
なぜ彼らが「自分は真面目だが馬鹿である」と認知できないかというと、ウェブで検索すると自分と同じような意見を述べてくれる人が大勢見つかるからです。
砂糖 カルシウム – Google 検索
一つ一つ目を通し、「砂糖を摂取するとカルシウムが骨から溶け出す」説の根拠が「乳酸が血液を酸性にするから」であることを突き止めた瞬間に僕は大笑いしてしまいましたが、そこまできちんと読む人はあんまりいません。はっきり言って自分の信条の真偽などどうでも良いんです。そんなことよりも自分の信条を支持してくれる人が大勢見つかる方が大事です。その方が正しい気がするからです。多くの人に「あなたは正しい」と言って貰えることが正しさの証明なんです。
まぁ、そんなだから馬鹿なんですけど。
かくして彼/彼女は、自らの馬鹿さ加減に気付くことなく、自分の信条に対する自信を深め、それを人前で開陳したりブログに書いたりTwitterで人にお勧めしたりすることとなります。先の例に沿えば、「白砂糖はカルシウムを溶かすけど黒砂糖はカルシウムを多く含むからたくさん食べるべき」とか書いてる人は真性のアレなので要注意です。主成分が変わらない上カルシウムはごく微量なのに効能が逆転するわけ無いだろ…馬鹿じゃなければ解ります。でも、本人には解らないんですね。馬鹿だから。そして大勢の承認を得ている(気がしている)から。
このお手軽自己承認には、読解力は必要ありません。ただ、検索欄に自分の信じる信条を打ち込めばそれでOKです。そうして自分の信条の真偽の判定を、ウェブ検索の上位20件に託すことによって、人は自ら判断すると言うことを放棄して復帰の見込みのある馬鹿から復帰の困難な馬鹿に変質します。そこに至っては、自らが馬鹿であることすら認知できない、する必要すら無い、とても「幸せな空間」に到達します。本人は恐らくとっても幸せなんでしょう。解放されたとすら思っているかも知れません。
でも、馬鹿なんですけどね。