「復刊」ということで話題になっていた一冊。
本書は、ゲームウオッチを初め数々の任天堂の製品開発に携わってきた横井軍平氏の「作品」を紹介しながら、それぞれについて横井氏自身へのインタビューを載せつつ、これらの「作品」を開発しているときに横井氏が考えていることはなんなのか?に焦点を当てた本。
象徴的なテーマ「枯れた技術の水平思考」、これは僕ら技術者にとってはまさに「そこにある現実」であり、OSやプログラム言語などにおいて古いモノが必ずしも悪いとは限らないことを日々実感しているのだけど、でもいざ実際に自分が何か作ろうかなと思ったときに考えるのは新しい技術であり、新しい方法であり、工夫であり、サービスであり、場合によっては全く新しいモノを作り出すまでは何も完成しない、完成したとしても技術が未熟で応用が利かないなんてことになったりするわけで、実践するのは本当に難しい。
横井さんというと僕はゲームウオッチとゲームボーイのイメージが強くて、ややもすると、職人的なイメージがあったのだけど、この本を読んで良い意味でそれを裏切られ、「仕事人」として社会で会社で生きていくためにはそこがブレたらいかんよね、と言うのを強く感じました。
何か?
それは、ものとして最良のものを作るのは当然大事だけれども、それよりも大事なことは、どうやったら売れるだろうか?を考えること。採算や、売上を度外視しての商品クオリティは、商売をしている以上あり得ないわけで、それは確かに。
それはこのあたりの記述から推察できます。
このドライブゲームは、結果から言えば失敗に終わった。
(略)
ここから横井氏は「面白いアイディアをどうしたら量産商品にできるか」というところに目を配るようになったのだ。これが、横井作品が単なる商品で終わっていない原点なのではないだろうか。(p.32)
「売れないけど質は良い」というんのは、芸術家ならしてもいい言い訳かも知れないけれども、社会人としてはそれは逃げだよね。トライするだけで誰かが幸せになれるのならそれでも良いけど…それは違うよね。
「第5章 横井軍平の哲学 「売れる商品」を作るには」から引用。
娯楽品は「不要不急の商品」です。
(略)
「不要不急の商品」のニーズとはなんでしょうか。端的に言えば「暇つぶし」です。ですから、暇つぶしのニーズを探り出すというのは、そう簡単にはいかない。「なにをしたら楽しいか」というものはなかなか見つけづらいものです。
(略)
ロッカーのむこうをのぞきたいとか、新幹線の中ですることがないとか、そういう小さなことが、商品開発のニーズとして重要なんですね。
また技術者としては耳が痛いというかなんというか。
あるユーザーがあるニーズを言ったときに、それを聞いて技術者がものを作っていこうとすると、自分の技術で「あれも出来る。これも出来る」ということで、ユーザーが求めている以上のことを付け加えてしまう。
(略)
べらぼうな金額になってその上に使い方が分からないという最悪のことになってくる。
ありますね…
自分のデザインしたモノでもそう言うモノはあるし、身の回りの機械でもそう言うのはあります。なんというか、プログラミング的に言うと「YAGNI」的なもの。そんなに昨日盛り込んだって使ってる人なんか1%もいないだろっていう機能。電子レンジにもHDDレコーダーにもテレビにも。Appleの製品にはなくて、日本の高機能製品にあるもの。
ユーザーは何を求めているのか?
自分が作りたいものを作って押しつけている限り、現在の状況が改善することはないでしょうね…マーケティングだなんだとかいう大袈裟なことではなくて、ごくシンプルな話。お前は、なんのために、仕事をしているんだ?と言う。常に確認していたいことですね。「求められているものは何か?」と「何を作れば売上が立つのか?」と。
その他、この本を読んで落ちた鱗の数、感慨の量は計り知れませんが…残念ながら、これ以上言葉にできる自信がありません。多すぎて。
むしろ読んでくれというような。きちんと伝えようとしたら、書籍を「全文引用」しそうな勢いで。
この人を失ったのは、本当に、本当に、損失だったなぁと。思うのです。
僕らにできるのはせめて、彼の言葉や得たことを身にしていくことかな…