グラスホッパー 伊坂 幸太郎 角川書店 2004-07-31 by G-Tools |
今まで書いた作品の中で一番好きだ、と伊坂さんが言っているこの作品。
他のどこか爽快感を伴うミステリーとは少し毛色が違う。
読んでいる途中、登場人物のあまりの悪意と「鈴木」の亡き妻への想いとで、
かなり憂鬱になって(それでも読むのを止めようとは思わないのだけど)、
亡霊でも良いから誰か側にいて欲しい、そんなことを思ってた。僕には珍しいんだけど。
終わり方は…ハッピーエンドなの、、だろうか。
誰が悪で、誰が善ということはあまり意味が成さない疑問で、
きっとそこに生きる人がいて、その人が生きるために誰かが死ぬということなのだろうと。
登場人物に対して「善か悪か?」と聞いている人がいたけど、その質問自体が意味が無くて、
「社会的な意味で言えば」出てくる登場人物は誰しも悪で、
だからこそ、全ての人物が罪悪感を背負い、鯨の能力に心をくすぐられるのだと思う。
でもさ、みんなそうだよな?多分。
(法律的な意味ではなく)罪の大小はあれど、
罪悪感というのは生きる上でどこかで寄り添っていて、
それは別に人を殺したとか、非合法な薬を売っていたとかでは無しに、なにがしかという意味で、
僕も鯨に迫られたら…死んでしまうと思う。きっと。
だから、こんなアンダーグラウンドな設定なのに、
何ならもっと深刻に、振りかぶって、かっこつけて書けるような題材なのに、
すぐ隣にあるように書けるんじゃないかなとか。
あんまり勘ぐるのもどうかとは思うけど、
ある種、人間の社会へのメタファーかもしれないなーと感じた。
「人間は6人いれば世界中誰とでもつながることができる」という話があるけれど、
この作品はまさにその話の中に収まっている。偶然かもしれないけれど。
鯨を出発点にして、
鯨→秘書[1]→議員[2]→岩西[3]→蝉[4]→鈴木[5]→槿[6]。
順々にたどっていけば、案外、探していたものに巡り会う…ものなのかも。