イニシエーション・ラブ (ミステリー・リーグ) 乾 くるみ 原書房 2004-03 by G-Tools |
とあるきっかけで読むことになった本。
率直な感想としては…これは、コンセプチュアル・ワークだということ。
後で記載する解説サイトによれば、著者自身が、
「この小説の裏タイトルは『チープ・ラブ ?マユの物語?』だ」とコメントしていたそう。
つまりこの小説は、どこにでもあるような恋愛話をただチープに描いたというものではなく、
その話にふさわしいようにチープに描いたという作品なんだなと。
どんなに小さなエピソードも描写力で何倍にも見せる…それがプロの仕事ですが、
それを敢えてせず、チープな話にはチープな描写を用い、
その代わりとしてその組み立てにトリックを用いる、と。
まぁ考えてみれば、著者としては添え物のストーリーの方はなるべくさらっと見せて、
コンセプトの方を重視したいわけですから、当然ですね。
描写を書き込んで厚くしちゃうと、話は面白くなっても構成はぼやけちゃう。
結局のところ書きたい話があっての小説…というよりも、
作りたいコンセプトがあっての小説だなぁと。いわば実験的な作品ですね。
なんてかなー話題になってるのはわかる気はするけど、本を読む気で読む本じゃないね。
そういう気で読むと、これって要するにただの携帯小説じゃね?っていう話になっちゃう。
つまりキャラクターが、私は今ここで生きてるよ、と言うための話。
そうじゃないんだ、と。
そういうコンセプトに対しては正直言って凄く感心したけど、
…ただまぁ、僕個人はあんまり好きではないかなぁと思う。
料理も盛り付けより味重視だしね。
それに、そういうコンセプチュアルな設定と、厚みのある描写ってのは、
僕の中では伊坂幸太郎が既に実現してしまってる。
むしろ、ミステリものの名作では大概その両方を両立しているもの。
ただのチープな小説と比べると凄いけど、名作と比べれば片手落ちであって、
違うのは、恋愛話との距離感くらいかなー。その感性だけはなかなか持ち得ないから。
それ以外は、物語としてはあんまり。
解説サイトと合わせて読むことで初めて、娯楽として楽しめる1冊かもしれませんね。
あまりに実験的すぎて、本としてだけでは僕はあんまり楽しめませんでした。
■ 解説サイト(超ネタバレなので読後に読むこと)
【ゴンザの園】: 謎解き『イニシエーション・ラブ』 序章 時系列データ
…ちなみに。
小説どうこうとは別の話で、静岡市出身の僕にはある意味で面白かったです。
なんていう言い回し、一発で解る人なんか皆無だと思うんだけど、
でも静岡市出身ないしは在住の人からすると「センター」が、
一般名詞じゃなくて固有名詞だってわかる。てか、そうじゃないとわからん。
油断したときに混じる静岡弁もそれっぽいし、柚木だ、流通通りだ、なんだかんだと、
ずいぶんと郷愁を煽ってくれるじゃないかw
静岡の地名がこんなに乱暴に何の説明もなく使われてて良いのかとか思ったけど、
まぁそれも著者が最初から物語を説明する気持ちがないってことなんだろうなー