アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫) 伊坂 幸太郎 東京創元社 2006-12-21 by G-Tools |
伊坂幸太郎は、危険です。
こんなに次から次へ自分好みの良作がざくざく出てきて良いんだろうか?
読み終わった後に、正直そう思いました。今回も参った。
物語は…2人の男性と1人の女性。
それからもうひとつ、2人の男性と1人の女性。
2年間という時間差を置いて描かれる2つの物語が、
実は2つではなくて1つだった…
…ってまぁ、僕なんかが言葉で書いても大して何も伝わらないし、
いや伝えられるくらいだったら代わりに書けよという話なんだけど、
陰鬱な方向へ“物語”が進んでいくのをその場にいる全員が感じ取りながら、
それを避けることが出来ないまま、でもどこか飄々と前向きに進んでいく。
こんな物語が僕の身近にあった試しなんか無いのに、
ふと自分にもこんな時期があって、どこかでしっぽの先が曲がった黒猫に出会っていたような、
そんな錯覚を覚えてしまう。なんだろうなーこの感じは。
細かな描写に裏打ちされた伏線がつながっていく爽快感と、
その上での物語の展開、まさにミステリ小説のそれだけど、
伊坂幸太郎の凄いのは、そのミステリをミステリ通りの型にはめない、
別の皿に盛りつけることかなぁと思う。
描写や語り口はミステリやサスペンスのそれではないのに、きっちりと味がする。
それでいて、決して迎合した軽薄な小説ではないんだよなぁ。
エッセイのようにはっきりと主張されることはないけれど、
1冊の本の中にも、そして著作群を通してみても、はっきりとした哲学があって、
それを加味してなお読まされてしまう。というか。
書評とかって言うと、8割方ほめておいて2割ぐらいけなして、
『次回作にも期待』とかで締めておくのが良いんだろうけど、
いやなんつーか、もう著者にこてんぱんにやられちゃってるんで、
欠点をあげつらってかっこつける余裕もないっす。
わざわざこんな時間に、電源落としてたパソコンを立ち上げてこれ書いてるくらいだもんなぁ。
これだけ連続で一人の小説家を追ってたら、さすがに食傷していまいそうなのだけど、
新しい本を手に取るごとにまた違う刺激がある。うーむ。
いつか飽きることもあるんだろうか?
まぁ、それはいつか来るかもしれないけど、
そのときは、伊坂幸太郎のおかげで進行速度がまるで合わない(苦笑)、
同時読みの他の3冊で目線を変えれば良いかなと思う。
別のものが欲しくなったとしても、直にまたすぐ飢えそうな気がする。
まあ当面しばらくはなさそうだけどね。
面白かった!
追記
そうそう、この小説を読んでる間、『あーこの話は映画化は無理だなー』と思ってたんだけど、
いやいや映画化されてるんだよね。DVDにもなってる。
アヒルと鴨のコインロッカー 濱田岳, 瑛太, 関めぐみ, 田村圭生, 中村義洋 アミューズソフトエンタテインメント 2008-01-25 by G-Tools |
映画化に出来ない理由は、2つの時間軸を通しての河崎の描き方が難しいだろうな、と
思ったからなんだけど…どんな演出になってるんだろう。
少し見てみたい気もするなー。
追記 その2
いつものことだけど、書いてるうちに一番書きたかったことを取り落としてしまうな…僕が一番印象に残った言葉は。
僕はいかにも自分が主人公であるような気分で生きているけれど、よく考えてみれば、他人の人生の中では脇役に過ぎない。そんなことに、今さらながらに気がついた。(P.182)
裏も表もなく、そうだよね…と、少し考えた。