つねづね、ウェブ検索なんて誰にでも出来るだろう、だから今この時代は誰でもすぐに正確な情報を収集できる時代になったのだ、なんていう風に考えていたのです。だってウェブ検索は同じ単語を入力すれば誰に対しても大体同じ検索結果を返しますし、結果であるサイトの内容にしても読む人によって文章が変わるようなものでは無く固定されたテキストなわけなので、欲しい情報にたどり着く時間の長短はあれど最終的には誰でも情報にたどり着けるのだろうと思っていました。
間違ってた。
- ── これがわからないんだけど
- 検索すればすぐに解りますよ
- ── 解決しないんだけど
- 検索して出たこのページを読んでください
- ── 解決しましたありがとう
みたいな流れがあって、これを理解するには「ウェブで検索できない人や検索しても正しい結果にたどり着けない人というのは存在して、それはどうやら訓練してもなかなかかわらない」んだということを了解する必要があるみたいです。誰でも簡単にできることじゃない。
上のパターンであれば、まず1の時点でそれを言う前に「ググれ」と言わざるを得ない。もし既にググってるならどんな検索結果になって何を試したかを言ってくれないと。で、検索してみても正解にはたどり着けない(3)。理由は検索語の選択が出来なかったり、検索結果を正しく読み解くことが出来なかったり、検索結果に書かれていることを実行できなかったり。大体の場合は検索語と読解力の問題。検索語は試行錯誤するしかないし、読解力は解るものを探せば良いor解らないところをまた検索すれば良いだけなんだけど、そういう複雑なことは出来ない。
仕方が無いから代理で良い感じの検索結果を引いてあげると(4)、結構問題なく解決に至る(5)。
つまり解決する能力がないんではなく…単純に情報を収集する能力が無い。昔であれば情報が無いならそれを教えるしかなかったので、「検索してください」という指示そのものがなく、聞かれた時点でいちいち教えていくことになったと思うのだけど(もしくはバイブル的な本を示すこともあるかも)、現代では検索できることを前提にして「検索してください」という指示を出してしまう。聞かれた方は楽だけど、検索結果は検索をする人によって十分・不十分が曖昧だから、実行結果の方もなんとも曖昧になってしまう。これは良くないなぁと。
上のバリエーションとしてはこんなのもあります。
- ── これがわからないんだけど
- 検索すればすぐに解りますよ
- ── 検索してやったら動かなくなっちゃった!どうしよう!
- あー…何やったんですか…じゃあちょっと預かります
- ── ありがとう!
例えば「液晶ディスプレイが映らなくなっちゃった」という事態があったとして僕だったら当然「液晶 ディスプレイ 映らない」で検索するところ、「ディスプレイ パイナップル果汁塗る 効果」とかで検索しちゃう人もいるってことです。いねーよ。いやでもそういう的外れな検索語でヒットした検索結果を鵜呑みにして試してしまうことも容易に起こります。結果、事態は悪化する方向へ。
ウェブ検索を通じて情報を収集するには特別な技術を必要とする
ウェブで検索をし、正しい情報にたどり着くには次のような手順が必要です。- 正しい検索語を選択する
- 検索結果一覧を読み自分が欲しい情報に適合するページを探す(適合しなければ1に戻る)
- ページを読んで理解する
ウェブ検索は基本的に様々な情報が雑多に転がっているものです。しかも検索順位が上位のページはただ単に影響力があるからであって、必ずしも中身が正しいとは限りませんし、話題によってはデマばかりが引っかかる事もあります。それらを丁寧に取り除きながら、正しい情報に至るまで検索語を選択し続けるというのは並大抵の技術ではありません。
先日「健康に関するメモ」と題して、健康に関する俗説(例えば「血液が酸性になる」)についてそれに添えられている証拠が正しいのかどうか検証していましたけれど、まぁとんでもないですね。検索して出てくる記事は皆、「血液が酸性になる」「血液が酸性になると骨からカルシウムが溶け出る」などと書かれています。それが正しいこととしてそれを前提に書かれているので、そうした記事を多く読めば「血液が酸性にするのは健康に良くない!」と思ってしまうでしょう。
一方でそれらの文章が何を書いているかを客観的に読むと、それらが具体的なことは何も語っていないこと(理論の説明もなければその証明もない)と、最終的には商品の購入を勧めていることが解るはずです。記事の中では「血液が酸性になる」と書かれていますが、実際にその現象が確かめられているわけではない以上、「体の中に小人が増える」であっても良いはずです。「血管が伸びるために血流が不足しミネラルを消費とする」でもいいんじゃないですか。大事なのは理論の受け入れやすさじゃなくて、検証可能かどうかなんですよ。
一定以上の教養と知性があり読解力を備える人間が読めば、「血液が酸性になる」と訴えるブログ記事のほとんどが検証無く情報に飛びついた軽薄な人間の記事か、もっともらしい理論(ただし証明は基本的に伝聞形式であり、リンクがあってもリンク先はその道の「大家」のサイト)を並べて商品を紹介するページであると気付くはずです。そんなもんなんですよ。
結局はその人の「読解力」に依拠する
ウェブで検索する技術というのは、単に単語を検索欄に入力していく技術ではなく、文章を読み解きその正しさを判断するという点に帰結します。読解力が無かったり、事前に自分が正しかろうと思っていたものをすぐに正しいと信じてしまう「無邪気な」性格だったりすると、正しい情報にはたどり着けません。そのことは膨大な訓練を重ねることによって改善することも可能でしょうが、基本的には本人に危機感がないため変わりません。自分の検索結果が正しいと疑わない、そういう人に検索をさせてはいけないし、それをブログやTwitterに書かせてはいけないし、その人の検索結果を信用してはいけないのだと思います。ウェブ検索は誰にでも使いこなせるほど簡単にはできていないんです。見た目はそう見えますけどね。
「それくらい自分で検索できるだろ」と思うことは日々たくさんありますが、出来ない人もいるのですよね。そういう人に「ググれ」というのは色んな意味で凄く危険なので控えると共に、「出来ない人はいる」「それも結構な数いる」ということを、肝に銘じておきたいと思います。