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健康に関して気になる情報について調べ可能な限り文献にも目を通した上でまとめます。始めからトンデモだと決めてかかるのでは無く、また正しいと決めるのでも無く、出来るだけフラットになるように心がけますが、なにぶんメモ書きであり内容の正しさを保証するものではありません。基本的にはWikipediaの情報を参考文献や他の検索結果を見つつメモし、考えるための資料を用意していく予定です。


第3回は「酸性食品/アルカリ性食品」についてです。


目次

  1. 酸性食品とアルカリ性食品について
  2. タンパク質の摂取は骨を弱める?
  3. 「血液が酸性になる」時のpHってどれくらいなの?


酸性食品とアルカリ性食品について

酸性食品とアルカリ性食品 - Wikipedia

1890年前後にこの概念を提唱したのは、スイスのバーゼル大学の生理学者、グスタフ・フォン・ブンゲ (de:Gustav von Bunge) で、肉を食べると含硫アミノ酸(当時は硫黄と呼ばれた)が硫酸に変化し、体組織を酸性にするのでアルカリ性のミネラルを摂取する必要があると主張した[2]。アルカリを欠乏させないことで健康を保つことができるということである[3]。



「科学的に証明され」「アメリカでは常識となっている」と記述されていて、検索エンジンで検索した結果もこのWikipediaを引用しているページが多いので確かにWikipediaを参照する限りではこれが真実のように思えます。

全体としては次のような論理構成になっています。

  • 特定の物質を摂取すると血液のpHがアルカリ性または酸性に偏る(これらの物質を含む食品をそれぞれアルカリ性食品、酸性食品と呼ぶ)
  • 血液が酸性の場合ホネなどからミネラルを血液中に放出することで血液を弱アルカリ性に保つ
  • 血液がアルカリ性の場合には尿にミネラルを排出することで血液を弱アルカリ性に保つ

批判の多かった判定方法に「PRAL値」という客観性が期待出来る判定方法を導入したり、「血液のpHが変わる」という仮定(元々の論理)から「pHが変わらないように体が反応する」という論理を導き出すなど上手に補正してあると思います。しかしどんなに公平に見てもこの手の問題でここまで断言している項目は逆に珍しく(通常は既存の論理との両論併記)、多数の教科書が存在する臨床栄養学の一遍だけを取り上げて「2010年時の管理栄養士の教科書」と記述するなど、恣意的な編集が疑われます。編集履歴を読む限り積極的に追記しているのは1人ないしは2人なので少し慎重に読んでみる必要があると感じました。



いくつが疑問点があるのですがとりあえず2点だけ下記にあげます。



タンパク質の摂取は骨を弱める?

Wikipediaに以下のような記述があります。


酸性食品とアルカリ性食品 - Wikipedia

ウォルター・ウィレット教授は、タンパク質を摂取しすぎれば酸を中和するために骨が使われるので、骨が弱くなる可能性があるとして注意を促している



参考文献としてあげてある著作「太らない、病気にならない、おいしいダイエット-ハーバード大学公式ダイエットガイド」は未読です。ただそれを基礎とした講演(2004年)は公開されていた(PDF/日本語)ので、そちらを参照しました。これを読む限りでは「カルシウムの放出」ではなく「牛乳や朝食用シリアルの栄養強化やサプリメントの製剤にレチノール型のビタミンAが使われており」「レチノールを多く摂取している女性は、そうでない女性に比べ股関節骨折になりやすい」「レチノールAが細胞内のビタミンDレセプターを妨害し、ビタミンD摂取を邪魔する」ということが書かれているようです。また同時に現代人の生活様式が太陽に当たらずビタミンDが生成されにくいことが、骨折しやすい要因かも知れないとも併記されています。

酸性/アルカリ性に関する言及はありませんでした。単に言及していないだけかも知れませんけれど。


なお、体内のpHの調整は主にナトリウムとカリウムによって行われています。


臨床栄養士のひとり言 : 体内のpH(ペーハー) その2

細胞の酸度は、Na+ (ナトリウム)の保持とK+ (カリウム)排泄のバランスに関与しています。体外に排泄されるK+が増加すると、アルカリ性‐酸性のバランスが悪くなり、その結果、だ液がアルカリ性を示します。pHの上昇は、自律神経系におけるナトリウム‐カリウム比率に対しても同様の状態を引き起こし、結果として酸性‐アルカリ性のバランスに影響を与えることになります。



カルシウムという話はどこから出てきているのでしょう?



「血液が酸性になる」時のpHってどれくらいなの?

「血が酸性になるのでミネラルを流出させてアルカリ性にする」と言う論理には一定の説得力があると思います。細胞の浸透圧とか考えても体って自動的にバランスを取るようになってますもんね。ただ一つだけ疑問があります。「酸性になった」ときの血液ってどれくらいのpHなんですか?生理的に考えると脳がpHをチェックしたり食べ物を感知したりして骨を溶かすのではなく、血のpHに応じて骨が溶け出す仕組みがあるはずです。

で、その酸性pH値は7.3程度です。

pH.gif

中性(わずかにアルカリ性)ですね(画像はこちらよりお借りしました)。理由は7.0を下回ると昏睡状態に陥ってしまうからです。


血液 - Wikipedia

滅多にない事だが、ヒトの場合、血液 pH が 7.0 以下になると昏睡に陥り、7.7 以上になると痙攣を起こし、いずれも心臓が停止してしまう。輸液や手術の際には、血液 pH を常に監視し、pH の維持に努めなければならない。アシドーシスとアルカローシスを参照。



酸性食品、アルカリ食品の理屈で言うとこれは、補正後の値ということになるのでしょう。骨から溶け出して調整したから7.3で済んだと。もう一度疑問ですが、その反応というのはどれくらいの速度で起こるものなのでしょう。一瞬たりとも7.0を下回らないようにするには、かなりの反射速度が求められます。正直に言って僕はその即応性は信じられませんが、その辺を突っ込んで書いた記事はなかったので何とも解りませんでした。人間の体は凄いと言うことなのでしょうか。



まとめ

結論のようなもの…を書こうと思いましたが、正直に書きましょう、よく分かりません。Wikipediaを読む限りではとても説得力のある良く出来たストーリーのようにも読めます。しかしひとつひとつをよく見ていくと、そこには正しくないと思えるものもたくさん含まれているように見えました。正しいかどうかが解らないと言うよりは、これは一体全体何なのでしょうか。



「よく分からない」という感想を持ちつつ、あえて個人的な印象を述べますと、「酸性食品とアルカリ性食品」と言う分類やそれによって健康を維持する理論自体は相当に疑わしいと言わざるを得ません。根本的に血液は酸性にはならないという点で、理論を構築する前提そのものが間違っていますし、論理の補強に関する部分についてもおよそ正しいとは言えないことばかりが列挙されています。

確かに動物性脂肪の過剰摂取が生活習慣病の原因になることなど、「酸性食品とアルカリ性食品」と言う分類が食生活にもたらすメリットもあるでしょう。しかしそれは、あくまで動物性脂肪のコントロールによるメリットであって、血液がアルカリ性に保たれる事によるメリットではありません。なぜならあなたの血液は、ステーキを食べているときもポテチを食べているときも、常に弱アルカリ性です。

「酸性食品とアルカリ性食品」と言う分類がもたらす一番の問題は、食生活に二元論をもちこむことだと考えます。人間が食べる食品にはどれも、摂取することによるメリットと過剰に摂取することによるデメリットがあります。我々はそのメリットを最大限に活かし、デメリットを最小限に抑えることを考えながら、食生活のバランスを取っているのです。「酸性食品とアルカリ性食品」と言う分類によって食品ごとに善し悪しを判定することは、根拠なく食生活を偏らせるだけです。

「ベジタリアンだっているじゃないか」と思われる人もいるかも知れませんが、彼らはただ単に野菜だけを摂取しているのではありません。彼らにはきちんとした栄養学上のフォローがあり、野菜しか取らないことで生じるデメリットを食材のバランスを調整することで補っているのです。そこに食品の酸性/アルカリ性という指標は関係がありません。



どうしても健康的な食生活を送れない人に対して、「酸性食品とアルカリ性食品」という物語を提示することで軌道を修正させる、そういう必要があるときもあるでしょう。しかし健康について本当に真剣に考えるのであれば、「酸性食品とアルカリ性食品」という分類がどういう意味を持っているのか、そこまできちんと考えられなければいけません。

もしそれが出来ないのであれば、それはただ単に「正しそうな物語に身を委ね、判断をさぼっている」と言うだけになってしまいます。それは「健康を真面目に考えている」といえるのでしょうか。