「堂島ロール」の物語が想像以上に燃え上がってて笑った(商標とかのお話)

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「堂島ロール」って言うロールケーキがありますね。一時なんだか話題になってた、やたらとクリームが詰め込まれた、体重を増やすために作られたような食べ物です。美味しいんですかアレ。画像を見てるだけで太りそうなんですが。その「堂島ロール」みたいなのが近所のスーパーで予約販売するっていうんでよく見てみたらなんだか「堂島ロール」とは微妙に違う。「堂島ロール」の製造元は株式会社モンシェールなんですが、スーパーで予約販売されるのは「堂島プレミアムロール」で製造元は株式会社堂島プレミアム。あれ……何か違う……

不思議に思って「株式会社堂島プレミアム」で検索してみたんですけど、ヒットなし(これについては後述)。
その代わりに今度は「堂島シェフ ARITA プレミアムロール」という商品が見つかりました。

好評につき 3個以上で送料無料 あの大好評のロールケーキなら堂島シェフ ARITA プレミアムロール 

そこでの紹介文を引用すると、

ホテルアンビエント(通称:堂島ホテル)の総料理長として数々のスィーツを世に送り出した、有田逸郎氏監修のロールケーキです。

とのこと。誰だよ有田逸郎さんて……




「堂島ロール」の生みの親、有田逸郎さん

堂島ロールの誕生のいきさつは大雑把に書くとこんな感じ。

  1. ホテルアンビエント堂島の総料理長だった有田逸郎さんが「堂島ロール」を考案。
  2. 当時、ホテルアンビエント堂島にて営業していたケーキショップ「モンシュシュ」にて「堂島ロール」の製造・販売を開始。次第に大人気に。
  3. ホテルアンビエント堂島の経営母体が変わったことで「モンシュシュ」は閉店。
  4. 販売員の金美花氏が近くに別店舗「モンシュシュ」を開店し、同名の「堂島ロール」を販売継続。今に至る。

「堂島ロール」を考案したのは有田さんだけれども、商品として販売を継続してきたのは金さん。その結果「堂島ロール」という商標はこの金さんが経営する株式会社モンシュシュ(現在は株式会社モンシェール)に認められることとなり、有田さんはその代わりとして「堂島シェフ ARITA プレミアムロール」を他会社にて監修したり、ご自身のケーキショップ「Chez Arita」(福岡市)にて「プレミアムロールケーキ」を販売したりしているわけですね。

シェ アリタ 【旧店名】アンセノンヌーボー – 西鉄福岡(天神)/ケーキ [食べログ]

なるほど。


商標「堂島ロール」の権利を巡って金さんと有田さんが大揉め

上の大雑把な年表では「閉店。→ 開店し」とざっくり書いていますけど、この部分でいろいろと揉め事が起きているようです。何が真実かまでは解りませんが、「堂島ロール」の考案者である有田さんが株式会社モンシェールによる「堂島ロール」商標登録において行った異議申し立ての中で、この辺の事情について長々と述べられています。
(このページの出しかたは後述)

概要を引用します。

申立人の主張は、要するに、以下のようなものである。
 平成15年(2003年)に、吉留氏と、ホテルアンビエント堂島の調理シェフであった申立人(有田氏)は、ロールケーキの製造、販売を行うこととなり、申立人が「堂島ロール」と命名したロールケーキを作った。また、吉留氏は、同ホテル1階にケーキショップを開店し、現在の「モンシュシュ」の代表者の金氏を堂島ロールの販売員として採用した。「堂島ロール」は、半年くらいの間に大変な人気ケーキとなり、ホテルの周りにそれを買い求める長い客の行列がほとんど毎日のようにできた。その後、ホテルアンビエント堂島は他の資本に譲渡され、吉留氏は名古屋港のテーマパーク「イタリア村」を運営する事業を開始し、「堂島ロール」の製造販売からはいっとき離れた。これに乗じて金氏は、「堂島ロール」の評判に乗って独立後の自店舗で販売を拡大するようになった。
 したがって、「堂島ロール」の製造販売の真の創案者及び事業主体は、吉留氏であって、かつ、本件商標「堂島ロール」の使用は、開業時の旧モンシュシュの経営者である吉留氏によって行われたものであり、それが2003年(平成15年)11月から2006年(平成18年)3月まで続いた。そして、同ホテルに「旧モンシュシュ」が営業されていた約2年5ヶ月程の間に、「堂島ロール」は既に需要者に広く知られるところとなっていた。
 よって、堂島ロールの使用が本件の商標権者(モンシュシュ)によって始まったものではないことなど、本件商標が同法第3条第2項に該当するとして登録されたことは不当であり、商標法第3条第2項に該当して「堂島ロール」の登録を受ける資格は、吉留氏や申立人にこそある。
 そして、旧モンシュシュで実質的に販売店員であった金氏が、吉留氏がイタリア村事業に忙殺されている間に、「堂島ロール」の高い認知度にタダ乗りすることでこれを最大限に利用して独立後の自店舗(モンシュシュ)の販売規模を広げ、かつ吉留氏に無断で「堂島ロール」の商標を秘密裏に自ら申請して「堂島ロール」を独占しようと企てたものであって、本家本元である吉留氏や申立人が「堂島ロール」の販売に戻ると、その販売を商標の登録により排除し妨害しようとする挙に出たもので、信義則上からも到底許されるものではない。


なげえ。超ざっくりまとめると、

  • ホテルアンビエント堂島内で経営していたケーキショップの経営者は吉留達也氏(氏については後述)
  • 金氏は一販売員に過ぎず、「堂島ロール」に関わる権利は一切持っていない
  • 金氏の販売は有田氏や吉留氏の権利にただ乗りすることで行われたものであり、権利は有田氏や吉留氏に帰属すべき

ということらしいですが、結論から言うと、この有田氏の申し立ては却下され、商標は金氏が経営する株式会社モンシュシュ(現・株式会社モンシェール)のものとして登録されました。そうなったポイントは、

  • 「堂島ロール」が全国的に認知され、商標として登録出来るまでの知名度を獲得出来たのは金氏が独立した2006年以降、2007年頃のことと考えられる
  • 商標の権利は個人ではなく法人に所属するものと考えられ、「モンシュシュ」として実質的に継続して使用していた実績がある以上、「堂島ロール」の商標は「モンシュシュ」に帰属すると考えるのが妥当

みたいな感じですかね。


このテキストが一方的に有田氏側のものであることもあり、心情的に思うことはありますけれども、「地名プラス商品名」という商標は取るのが難しいという状況の中で、それを認めさせるのに十分な実績を積んだ現モンシェールは評価されて良いと思うし、ケーキショップの閉店によって一度その名前を手放してしまった有田氏(「堂島ホテルロール」という名前で販売したらしい)は、「堂島ロール」を継続して使用していたとは言いがたいわけで、商標としてはこの結論で妥当なんだなあと言う感想です。

「本家本元」「秘密裏」「信義則上」なんていう言い回しがもうなんというか苦しいというか、そういうのを証拠ではっきりさせて結論づけていくのが審判なんじゃないのっていう気がします。証拠がないならそれただの泣き落としじゃんね。



個人的なまとめなど

本来自分が考案したものでない「堂島ロール」をちゃっかり自分の店舗の商品として販売してしまった金さんは、その出自を絡めつつ多少揶揄されても仕方ないのかなと思います。名前までそっくり頂いて、あのホテルで売ってた話題のロールケーキはこれです!みたいに売ったらばさすがにそれ怒られるべや。くそ度胸って言うか、盗人根性って言うか、さすがにね。

ただそのことと、大阪ローカルでしかなかった「堂島ロール」をいまや全国で知らぬもののない商品にまで育て上げた金さんの手腕・努力とは別にして考えるべきなのかなあとも思います。有田さんの「堂島ロール」という発案が素晴らしかったのは疑いないわけだし、それに対して何らかの金銭的フォローをすべきだろうなと思いつつ、一方で現在の売上があるのは株式会社モンシェールのおかげなんだろうなとも思います。その辺、痛み分けじゃないですかねえ。


気がついたらこんな記事書くのに1時間半も掛けてて、1ミリも興味がないロールケーキのために俺は一体何をやっているんだと絶望的な気分になる今、ですが、まあ、「堂島ロール」の影にはそんな面白話が落ちてましたよと言うことで1つ。いい大人がなにやってんだかね。
(ちなみに、金さんは超美人らしいですよ。レッツ画像検索!)




追記:株式会社堂島プレミアムってなんなんだよ

商標「堂島プレミアムロール」で検索するとヒットします(商願2012-55098)。
平成24年6月25日に出願、平成25年1月25日に拒絶査定。
出願人は「株式会社堂島プレミアム」で住所は「大阪府大阪市北区堂島2丁目3番4号」。

これを地図で調べるとこの辺。

大きな地図で見る

周辺のビルを検索した結果この番地に該当するのは「ダイドーメゾン大阪堂島」だけで、オフィスビルかと思いきや……

ダイドーメゾン大阪堂島の賃貸ならDOOR賃貸【圧倒的物件数!】

え、ただのマンションじゃないっすか……フレスコさんはこんなところとこんな商品取引してて大丈夫なんですかね。あ、フレスコって書いちゃった。まあいいか。


追記:吉留達也氏って誰なんすか

申し立て文書から再引用。

吉留氏は名古屋港のテーマパーク「イタリア村」を運営する事業を開始し、「堂島ロール」の製造販売からはいっとき離れた。

はあ、なるほどなるほど。

それって要するにこれのことですよね?

【08.05.18】名古屋港イタリア村 でたらめの民間丸投げ:日本共産党愛知県委員会

イタリア村計画を提案したセラヴィリゾート(吉留達也社長・当時)を事業者に決定した当時の管理者は神田真秋知事でした。事業者選定委員会はセラヴィを「豊富な運営実績を有する代表企業」と高く評価。イタリア村計画を「名古屋港に新しい魅力を付加」「幅広い年齢層の集客が見込まれる」「最優秀提案」として選定しました。

(中略)

山口清明名古屋港管理組合議会議員  PFI事業「名古屋港イタリア村」の破産について、名古屋港管理組合議会の山口清明議員(日本共産党名古屋市議)に聞きました。

               ◇

 破産にいたって「いったい何をやっているんだ」という気持ちです。名港管理組合はPFI事業としてセラヴィリゾートと15年の契約を結びましたが3年しか持たなかった。実績もなく経営的に無理な会社に任せてしまったのが問題です。破産にいたって「いったい何をやっているんだ」という気持ちです。名港管理組合はPFI事業としてセラヴィリゾートと15年の契約を結びましたが3年しか持たなかった。実績もなく経営的に無理な会社に任せてしまったのが問題です。

 PFI事業の応募企業が少なくなっています。政治家や役所と企業がゆ着しやすい体質になっています。

 セラヴィリゾートの反社会的な経営体質、従業員の残業代を払わない、固定資産税も払わない、温泉施設の工事費も払わないなどに加えて、破産の直接の引き金になった違反建築問題では事実上黙認した名港管理組合も共同責任があります。



なるほど?


表示対策課 | 消費者庁

セラヴィリゾート株式会社は,名古屋市所在の北の家族錦店,大阪市所在の同千日前店及び同心斎橋店,大阪府吹田市所在の同江坂店並びに神戸市所在の同三宮店において提供する料理について,一般消費者に配布したチラシにおいて,別表のとおり,あたかも,北海道産又は北海道近海産の食材が用いられているかのように表示していたが,実際には,外国産であるなど,いずれも,北海道産又は北海道近海産の食材が用いられているものではなく,一般消費者に誤認される疑いがある。



なるほど、なるほど?

吉留さんが創業者であり、ホテルアンビエント堂島を所有していたのはこの会社ですねえ。

㈱セラヴィホールディングス

まあなんというか、ちょうどホテルアンビエント堂島を譲渡した2006年くらいから、事業全体がだいぶ右肩下がりで厳しく、いろいろと無理もやってみたけど最終的に立て直せなかったと言うことなんでしょうかね。よくわかりませんけれども。セラヴィホールディングス倒産後の吉留さんはお元気なんでしょうか。



追記:商標「堂島ロール」に関する異議申し立ての閲覧の仕方

  1. 特許電子図書館 – 経過情報検索」の「番号照会」をクリック
  2. 「商標」にチェックを入れ、「番号種別」を「登録番号」に。
  3. 「照会番号」に「5446720」と入力して「検索実行」
  4. ページ下の「審判情報」をクリック
  5. ページ下の「次審判情報」をクリック
  6. 「審判記事」の「2012-900020」をクリック