「東方プロジェクト」の商標の話のまとめ(追記・訂正あり)

この記事は商標に詳しい友人から継続的に聞いている商標に関する話を元に、調査を行ってまとめたものです。商標についてはとても興味を持っていますが僕自身は商標に関する仕事には就いていませんし、資格も所持していません。また商標の登録については特許庁の審判官の判断の占めるウェイトが大きく、また時代によって解釈も変わるので、ここに書かれた情報のうち、事実の確認でない、解釈を含む部分については法律上の正しさを保証できません。その辺ご了承の上読んでくださいまし。


いろいろと話が動いたらしいのでこの記事の続きを書きますよ。

「東方プロジェクト」の商標出願について | mutter


これまでのまとめ

上の記事を書いた段階では、金子浩二さんという方が「東方プロジェクト」という名前の単語を図表付きで商標出願したということと、いわゆる東方プロジェクトの作者であるZUNさん(本名:太田順也さん)が「東方プロジェクト」という単語を商標出願したというところまで話が進んでいました。当時金子さんの出願は不備があったためか差し戻しになっていましたが、現在の状況はと言うと…商標の出願は認められ商標として登録されました。


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それではZUNさんの出願は認められなかったのかというとこれはまた違い、こちらも出願が認められ商標として登録されました。

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なぜ2つの出願が2つとも認められたかと言えば、出願されたカテゴリが違うからです。

金子さんの「東方プロジェクト」


業務用テレビゲーム機,家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,レコード,メトロノーム,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物

25
被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴

ZUNさんの「東方プロジェクト」


電子計算機用プログラム

41
オンラインによるゲームの提供及びこれに関する情報の提供


一見、金子さんの登録の方がカテゴリが広くやばそうな気がしますが、よーくカテゴリを見ると、本家東方プロジェクトが関連してきそうなカテゴリをうまーく避けているのが解ります。ZUNさんの方は結構直接的にがっつり行っています。その上で金子さんの方には「図表つき」という制限があります。図表を付けるというのはどういうことかというと、簡単に言えばロゴとして商標登録するということですね(ロゴ商標)。金子さんはそのロゴを貼り付ける形で商標を使用できます。ZUNさんの方は単語そのものが登録されています(標準文字商標)。

標準文字商標と、ロゴ商標 – 特許 – 教えて!goo
商標を標準文字で登録するメリットは?呼称は誰がきめる? – 特許 – 教えて!goo

一般的には標準文字商標の方が強く、禁止権も広いと言われています。場合に依りますけど、金子さんが登録したロゴ以外のロゴを使用して「東方プロジェクト」の商標権を主張することはまぁできない、と言うことになります。このへん先走ってる人がみうけられますがそーゆーことです。すげー簡単に言うと、

「東方プロジェクト」という単語の商標権はZUNさんが抑えた

です。
違いました。そんなに甘くなかった。追記参照。



今回起きたことは何か

上に書いたことは去年の11月にそういうことになっていたようなので、それ自体は今さらなのですが、じゃあ何をいま話しているかというと、ZUNさんが提出していた金子さんの商標に対する異議申し立てが棄却され、金子さんの権利が確認されたのです。


異議の決定

異議2011-900420
埼玉県志木市下宗岡1丁目3番地―27
 商標権者  
金子 浩二
東京都新宿区弁天町75 パピヨンベールY201
 商標登録異議申立人  
太田 順也
東京都千代田区麹町1-4 半蔵門ファーストビル1階 一燈国際特許事務所
 代理人弁理士
橘 和之
 
 登録第5436765号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。

 結 論
 
 登録第5436765号商標の商標登録を維持する。



意義の理由については長いので結構読むの大変ですがざっくりまとめると、

  • 確かにZUNさんが「東方プロジェクト」というシリーズを作成していることは解る
  • しかし「東方プロジェクト」というのは商品名と言うよりはシリーズの名称であり商品に直接使用されている頻度が十分でない
  • なので既に決定された商標登録を取り消すまでには至らない

という感じ。商標が商品に対する権利である以上、例えば「東方萃夢想」の正式商品名が「東方プロジェクト 東方萃夢想」であったら権利を主張できるけどそうなってないでしょと。確かに「東方プロジェクト」という商品は無いんですよねえ…素人考えでは、そんなの解釈の問題で「東方=東方プロジェクトの略称」だろと思うんですけど審判官はそう判断しなかったと。うーむ。


まぁしかしそういうことであれば、逆に言えば、東方に関連するあらゆる商品について別になんの権利も発生しないということにもなりますわな。しかも金子さんの権利ではあのフォントで書かないといけないので、普通にゴシックで「東方プロジェクト」って書いて商品化したところで、それに対して金子さんが何か言うのは難しいという。そういうことを踏まえた上でのZUNさんのこの発言に繋がっているんだと思います。





ま、全体的に見て大したことにならなくて良かったね、という感じでしょうか。
気持ち悪さは残りますけど、ま、大丈夫ってことじゃないでしょうかね。


# それにしても金子さんって言う人は何がしたかったんだろう…
# 何か特になることでもあるんだべか




追記と訂正(21:15)

友人と再度話をしてみたところちょっと違う話になったので追記します。
上手いことまとめられないので、箇条書きにしますね。

  • 商品名に「東方プロジェクト」を使っていない現行製品については確かに問題は無い
  • PC向けのゲームプログラムを収めたCD-ROMは類似として「24A01」(家庭用テレビゲーム機用プログラム携帯用液晶画面ゲーム機用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM)に分類される。特許庁の区分にはPC用って書いてないけどそれはあくまで例示なので運用上は普通そう。なので新しく出すゲームの名前に「東方プロジェクト」という名称は使用できない(「東方Project」でも同じ)。もちろん二次創作でも同じ。
  • 音楽CDについては類似として「24E02」(レコード)の「録音済みのコンパクトディスク」に相当するので、音楽CDの名称に「東方プロジェクト」という名称は使用できない(「東方Project」でも同じ)。もちろん二次創作でも同じ。
  • 書籍については類似として「26A01」(印刷物)に相当するので、書籍全般の名称に「東方プロジェクト」という名称は使用できない(「東方Project」でも同じ)。もちろん二次創作でも同じ。
  • コスプレ用衣装などは第25類にがっつり相当するので商品名として「東方プロジェクト」は使用できない(「東方Project」でも同じ)。これとかNG。


要するに、ゲーム、音楽CD、書籍、衣服を販売するにあたり商品名に「東方プロジェクト」と含めてはいけないというのが現在の状況らしいです。すみません、素人考えでした推測より状況は悪かったです。あわわ、と思って調べてみたけど、音楽CDで商品名に「東方プロジェクト」って入れてるのなんかないね。書籍でも見当たらなかった。そんなことあっていいのと思って二次創作のルールを読み返してみたけど特にないので、習慣ということでしょうか。

上海アリス幻樂団創作物の二次創作・使用関連ページ

しかも「東方」というのは「東方プロジェクト」のことではないというのは、先の異議に対する審判官の理由で示されてしまっているので、仮に「東方氷精日和」という書籍があったとしてもそれは問題ないと。


…なら、実害はないですねぇ…気持ちは悪いけど。



普通は商標法第4条第1項第19号(悪意を持って商標を登録した)みたいな強い理由で異議申し立てなんかしないので、もうちょい柔い異議申し立てだったら通ったんじゃ無いか(こっちのが著名で有効だ的な)とか、金子さんの商標が通った後でその商標申請に対して文書を提出しているのは無駄(却下される)とか、異議申し立てはダメだったけど、それなら素直に無効審判したら良いんじゃ無いとか、審判官の当たりが悪かったんじゃ無いかとか、そういう話も出ましたがまぁ仕方ないよねぇ。弁理士の選定はZUNさんがしたんでしょうし、審判官は選べないしね。まぁ何とか丸く収まると良いですね。

同人活動されている方、金子さんの狙いがよく分かんないので、念のため、商品名に「東方プロジェクト」を使用しないこと推奨です。そう言うんじゃないっぽいけどねぇ。わかりませんが。