豊洲市場のグリーストラップについて

少し話題になってましたこれ。





築地移転に強く反対していた人のツイートだったこともあってその酷さが話題になり、築地ではこんなことしてたのかと全国の人間が呆れるという流れに。下の方に「築地ブランドが、築地クオリティになった瞬間だ」っていうコメントが付いてて、いやもうほんとに。同じ食品を取り扱う仕事にいる人間として、これ、特に詰まらせるほどのごみを流していることと、ごみを流して詰まったことに対してクレームを入れていること、その両方に驚愕しました。日本を代表する卸売市場にこんな人たちがいて、「これが俺たちのやり方だ」と居直ってたかと思うと、ほんと移転して良かったですね。大規模な健康被害が出なくてほんとラッキーでした。


これってなんなの

写真の中央に移っている網とそれを覆うようにあるステンレスの機材、これいわゆする「グリーストラップ」というやつです。飲食店の厨房であったり、スーパーの鮮魚売り場であったりに設定されていて、ごく簡単にいうと「ごみや油を下水に流さないようにするためのフィルター」です。


グリース・トラップ – Wikipedia

グリース・トラップ(Grease trap、GT)とは、下水道に直接食用油や食物の脂肪、残飯や下処理の際の野菜くずなどが流出することを防ぐ阻集器の一種である。グリーストラップは定期的に清掃する必要がある。




グリーストラップは定期的に清掃する必要がある。



はーいここテストに出まーす。



問題はごみを流すことというよりも……

食品を取り扱う仕事であれば、軽微なゴミ、野菜の切れ端や皮、魚の鱗などがシンクなどから流れ出てしまうのはある程度仕方ありません。意図的に流しているかはわかりませんが、気をつけていてもある程度は流れていってしまいます。特に豊洲市場のように、大量の魚を処理する必要があるような場所ではなおさらでしょう。そういう意味でグリーストラップに大量の鱗やゴミが流れ出ていること自体は責められない部分もあります。写真はそれにしたって酷すぎで最初から流れ出るゴミを減らす意識はなかったように見え、これが日本で一番有名な卸売市場で働く人間の衛生観念かと思うと寒気を覚えますが、まあともあれグリーストラップというのはそういうものです。


大事なことは、ゴミがここにたくさん流れ着いていること、ではなく、定期的に掃除する必要があると言うことです。スーパーの鮮魚で働いた経験もある料理長曰く、営業中になんどかグリースに溜まったごみを集めてゴミ箱に捨てる必要があったし、営業終了後はジェット水流で綺麗に洗っていたとのこと。もちろん今の厨房のグリーストラップも営業終了後にキレイにごみを取り除き、2日に1回くらいの頻度で専用の洗剤を使って油汚れを落としています。「下水にごみを流さない」という役割である以上、ここは常に汚れが溜まる部分であり、また定期的にメンテナンスする必要がある部分です。長くキレイに使うためにはなるべくゴミをここに流さない、詰まったらこまめに掃除するということが肝要で、それはそこを使用している人間の責任でしょう。


そういう意味では、



ということであろうと思うんですよね。下水直結になってた築地市場に比べて、グリーストラップがきちんと働く清潔な市場になって良かった、ありがとうグリーストラップという言葉が出てくるならわかるけど、取り壊せとかあり得ないでしょう。意味がわからん。まず、フィルターを掃除するというルーチンを毎日の作業に追加し、次いで、作業のやり方がグリースに流れ込むごみを増やしているんだったらそれを減らすように作業を見直す、それが道理であり、その道理の必要性を明らかにしてくれたのが豊洲市場であったと思うんですよね。移転してほんと良かったですよ。



もちろん、全員がこの人みたいなわけではありません

一部の人にしかわからないようなこと書きますけど、多分、豊洲市場に入っている業者さんというのは、感じで言うと栗東トレセンで営業している厩舎の厩務員みたいな感じなんだと思うんですよね。洗練された新しい考えを持つ人もいれば、古い考え方から脱却できない人もいる、モラルがある人間もいればない人間もいる、お互いが独立していてお互いのやり方にあまり口を出さない。なので様々なクオリティの差がとても大きい。

食品を扱う人間であれば、普通はこういう感覚だと思うんですよね。


あったりまえじゃないですか。ねえ?グリーストラップの掃除は正直大変ですけど、それが無かったらと思うとゾッとしますよ。それこそ下水管なんかすぐ詰まりますよ?


昔働いていたスペインレストランでは、恐らく京町家であっただろう場所に新しく建てられたビルの1階店舗だったんですけど、水回りは町家時代のままになってて、シンクから直径30センチ深さ1メートルくらいのトラップに下水が流れ込み、そこから町家特有の細い下水管を通って下水道に繋がる仕組みになっていました。シンクからゴミを流さないようにスタッフみんな気をつけていたけれど、でもスペインレストランだからどうしても油の汚れが多いんですよ。それらが溜まると定期的に下水が詰まってしまうので、トラップを浚う必要がありました。

濁ったトラップを浚い、下に溜まったヘドロを引き上げてゴミ袋に入れる、ブラシでこすって壁面の汚れを取る、次第に濁っていた水が透明度を増していき……といったことを閉店後の2時とかにやってましたけど、超憂鬱です。臭いし汚いし。それに比べればこのサイズのグリース洗うのなんか楽勝じゃないですか。衛生管理の人がどんだけ下手に出てるか知らないけど、「掃除しろバカ!」って言われて終わりでしょうよ常識的に考えて。


まだシステムが馴染んでなくて各方面大混乱で大変だとは思いますが、引っ越しというのはそういうものですから、時間が過ぎるにつれて馴染んでいくことでしょうし、便利な使い方やノウハウをつかんでいけるでしょう。現代的な施設に移転することで、築地がどれだけ劣悪な環境であったかがよくわかりましたし、現代の基準に達しない業者さんには改善していただくか改善できなければ退場していただくべきでしょう。そういうことが明確になっただけで、もう既に十分効果があったかなと思います。移転してほんと良かったですね。

今はまだ「築地」という文化が懐かしく感じるだろうとは思いますが、100年もすれば「豊洲」が文化になりますから。文化は箱や土地が作るんじゃなく、人が作って行くものです。今それを始めたということを羨ましく思います。