美味しいものを食べるという嗜好と共に、
『味が分かる』という概念があるんだけど。
僕はこの『味が分かる』という概念について少し疑問に思うことがある。
以前、友達が言っていた言葉で、
という言葉があった。
なるほどすごいなぁ、という思いと一緒に、違和感 ── ちょっと待てよ?という感情も沸いた。
(そのお父さんがどうこうではなく、テキスト上の繋がりという意味で)
また別の友達が、
とも言っていた。
確かに、付き合いなんかでそういう店に行くことが多い人もいるだろうし、
必然的に普段は食べられない素材の趣向を凝らした美味しいものを
食べることもあるだろうと思う。
さらに別の友達に言わせると、
とも。
うーん、それは理屈上そうなんだけど、
多くの人に受け入れられやすい美味しいものを『美味しいもの』と定義するなら、
そういう美味しいものを見分ける舌ってのは存在すると思うんだ。
実生活の体験上。
だから、『味が分かる』『舌が肥えている』という概念そのものの存在は、
認めざるを得ないと思う。
で、僕が何について疑問を持っているかというと。
それはつまり表題で既に少し書いていることなんだけど、
全ての食材について一様に味が分かるというのは、
普通じゃないんじゃないか、ということ。
逆に言えば、人それぞれ味が分かるものというのは分かれていて、
1つに秀でていれば多くの味が分かるというのは幻想ではないのか?と。
前述の友達のセリフを考えると、
例えば一流の料亭で食事する機会が多い人が、
懐石料理や日本料理に対して舌が肥えているのは事実だと思う。
知っているからこそ酌み取れる機微なんかもあると思うし。
ただ、それはどうしてもその料理による制限を受けるのではないか?と。
例えば、京都で日本料理を食べる場合を考えてみる。
京都というのは、古くから日本全国の食材が集まる場所だし、
伝統的な料理法も多岐に渡って発展してきた土地だろうと思うけれど、
逆に言えば、集めない限り大した特産がない場所だとも言える。
広大な畑も、住人に行き渡る山菜を採ることが出来る山も、豊富な海産物をもたらす海もない。
だから新鮮な素材をそのまま使うという点においては絶望的で、
その分、それを如何に美味しく仕上げるかという点について、
特別な努力を重ねてきたのだと思う。
言ってみればそれが、京都の伝統料理。
料理を作る人たちは素材の良し悪しに精通しているだろうと思うけれど、
その料理を食べることで、素材の全てが分かるようになるだろうか?
例えば自信を持って、僕は魚が分かります、とは言えない気がする。
それは守備範囲から外れてる。
京都の料理の守備範囲は、素材の仕立ての部分。
僕自身について言うと、美味しいものを食べたい、という意志はある。
嫌いなものもないし、
例えば創作料理で出てきた食事が美味しいかイマイチかという点について、
自分なりに意見を持てる。
特に魚については、随分とうるさいと思う。
でも僕には味が分からない、余り興味がないものもあって、
一例を挙げるとコーヒー。
僕はコーヒーが凄い好きで、毎朝2杯ずつドリップで入れてて、
コーヒーの粉が切れるとしょんぼりするんだけど、
じゃあコーヒーの味の違いや美味い不味いが分かるか?と言われると…
正直、『不味い』しか分からない。
ある程度以上のレベル(それも100g300円とか程度のレベル)だと、もう何でも良い。
酸味とか香りとかにもあんまりコダワリがない。っぽい。
大好きなんだけどなぁ。
京都で料理を食べてる人間にはきっと魚の美味しさは分からないし、
僕にはコーヒーの味が分からない。
そういうのは、嗜好や育ちや習慣から来ていて、
よほど色んな土地で色んなものを意志を持って食べ歩いていない限り、
それぞれが守備範囲を持っていると考えた方が良い。
甘いものは甘いものの味が分かる人に聞いた方が良いし、
ラーメンはラーメンの味が分かる人に聞いた方が良いし、
野菜は野菜の、魚は魚の、蕎麦は蕎麦の、うどんはうどんの、
それぞれの味が分かる人というのがいるんじゃないか。
でもって、それは、一流の店とか話題/流行の店とかで
総合的に蓄積されるもんなんかじゃなくて、
それぞれの状況にあった、舌の繊細さってのがあるハズなんだと。
僕が最初に持った『違和感』は結局、
そうした幅広い『美味しいもの』という概念に対して画一的に価値観を定義することへの違和感、
つまりは“舌が肥えている”という素養に対して、
ただ一点のみを論拠にする判断の省略に原因があって、
実際にはその素養は、守備範囲と結びつけて捉えられるべきだよね、と。
ま、あくまで概念の話であって、食ってるものが美味けりゃそれでいいんですけどね。
まーでも人に言われるのはともかく、自分で言っちゃうのは違うんじゃないかなー
自分が何を知っていて何を知らないかを判断できない人に、
美味しいものは探せないと思うよ。
食に限らず、ね。