【読書】 伊坂幸太郎 / 陽気なギャングが地球を回す

4396207557陽気なギャングが地球を回す (ノン・ノベル)
伊坂 幸太郎
祥伝社 2003-02
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またしても、伊坂幸太郎。ほんとに僕は『縦読み』の人間だと痛感するんだけど、
でもことごとく面白いんだから仕方がない。
自分が本気で面白いと思えるものなら、流行に乗っても悔しくない。


『陽気なギャングが地球を回す』は、“都会派ギャング・サスペンス”と銘打たれているけれど、
それよりもむしろウィットに富んだエンターテイメント、だろうか。
くどい言い回しがいちいち格好いい。ロマンはどこだ?

人よりほんの少しだけ特殊な才能を持つ4人が集まって結成される銀行強盗。
銀行強盗って、確かにまぁ『悪』なんだけど、その彼らが実生活を別に持ち、
銀行強盗でありながら身内の人間はそれをそのまま受け入れて暢気ですらあり、
半ばピクニックでもするように銀行に入っていって、演説をぶつ。
人は傷つけずに、5分で退散し、奪った金は平等に分ける。うーむ。

一方でそれとは、真逆の強盗団も出てくる。

頭が切れ、唯我独尊で人の弱みにつけ込んで強盗に人を巻き込み、
奪った金は殆ど自分がせしめ、裏切りを感じたら仲間を殺すこともいとわない。
いやむしろ、最初から仲間なんかじゃなくて、奴隷って言うだけかもしれないけど。
そんなに詳しく描写されてないけど、『オーデュボンの祈り』の城山に近い。サディスティックだし。

そんな2つの強盗団が、1つの『縁』を通じて出会うことになり、
事件以外の揉め事を起こさない銀行強盗を、トラブルに巻き込む。


うーむ。


読んで思うのは、なんて言うかただただ爽快感。

重いことを読み取ろうとすれば十分にそうすることが出来るし、
そのための色んな要素もちりばめられているんだけど(祥子の小言とか)、
なんていうかなーそういう行動をやんわりと拒絶するような雰囲気が物語全体にあって、
そもそもそういう重いことを読み取るための手がかりは全部ダミーなんじゃないのか、とか。

そんなことじゃなくて、ただこの痛快な物語を水を飲むように読んで、
水なのに口に残る味わいを、後で味わえば良いんじゃないかな、と感じる、
…ってなんかわかったようなわかんないような。

つまり、ネタバレしないように、この本の面白さを書くのは凄い大変なんだよ(笑)


すべての伏線 ── ていうかその殆どは雑談や軽口だけど ── が綺麗に回収され、
ちらちら見える裏側も最終的にはすべてが腑に落ちて、痛快。
面白いなぁ。

映画にもなってるみたいだけど、その評判は知らないけど、
多分この本は映像で見ない方が良いような気がしてる。
なんかねー本の中で十分にキャラがたってるから、
映像で改めてキャラ付けするのがもったいなくて。上手く説明できない変な理屈だけど。

まぁもし機会があれば。



あと、ここまでの率直な感想とはなんの関係も無いように自分でも思えるけど、
この本を読んでる間ずっと、なぜか、
狼たちの午後』と『トレインスポッティング』が思い浮かんでた。

『狼たちの午後』はまんま銀行強盗だし、
『トレインスポッティング』も金を奪って逃げるシーンがあるけど、
前者の強盗は上手くないし、演説というよりはアジテーションだし、
トレインスポッティングはそれよりむしろ若者の生活を描いたというのが大きいし、
双方とも社会風刺を含んだ比較的考えさせられる映画。
今さっき書いたことと全然違うじゃん。…なのになんでだろ?

うーん、これも上手く説明できない。


とにもかくにも、面白かった。すみません、月並みで。
続編も是非近いうちに読んでみたいと思う。



ちなみに一番気に入ってる見出しは。

【火星】

太陽系の惑星の一。地球のすぐ外に軌道を持つ赤い星。二十四時間三十七分で自転。六百八十七日で太陽を一周。地球に比べて直径は約半分、質量は約十〇分の一、人口は約二倍、文明度はほぼ同等。

いちいちニクイ。響野が書いてるに違いない。