オーデュボンの祈り (新潮文庫) 伊坂 幸太郎 新潮社 2003-11 by G-Tools |
伊坂幸太郎のデビュー作(2000年)。
社会から隔絶された時が流れる孤島と、
未来を知り、ものをしゃべる、意志を持った不思議なかかし、
コンビニで強盗未遂を犯して逮捕され、逃亡してきた『伊藤』の話。
かかしの話は、今後の伊坂幸太郎の小説でも繰り返し出てくるし、
主人公の伊藤も他の作品で何度か出てくる。
(ラッシュライフで額屋のバイトとして画廊に出入りしていたり、重力ピエロで通りがかったり)
そういう意味で、伊坂幸太郎の世界のベースとなる小説かなと思う。
話は、“抽象的な殺人事件”と島に伝わる伝説とを軸に展開していく…けれども、
ミステリと呼ぶにはもの凄く内面的な描写や示唆の多い小説。
江戸時代以降鎖国状態にあった島に、久しぶりに訪れた人間が、
島にとって足りないもの<平和で豊かな島に足りないものがありそうに見えない>を、
そっともたらす…そんなかかしの言葉。
自分にとっては確固たる現実<コンビニで強盗未遂を犯した>があるにもかかわらず、
それとは隔絶した、これもまた1つの現実の中で生きる。
それぞれはそれぞれで独立しているように見え、そのパラレルに次第に慣れていくけれど、
しかしそれはパラレルな現実ではなくて、同じ地続きの現実であるということに気づく。
そして島に足りないもの、島の外から訪れた人間がもたらすものとはなんなのか?
切迫した状況でありながら切迫せず、
淡々と時間が流れながらスリルがあるという独特の空気感。
あーやっぱりこの人好きだわーと思ったのでした。
もちろん、最後の『贈り物』は、うん、大事だと思うよ。
それなしの世界では…生きられないよね。
ちなみに僕が一番好きなのは、『桜』。
冷酷なところもあるけれども、手段が通常と違うだけで、
そのかたくなで純粋な感情は嫌いじゃない。
周りはその行動から勝手に評価を付け加えてはいるけれど、
彼自身は彼自身でしかないっていうね。
人を、きちんと見るのは難しい。