ゴールデンスランバー 伊坂 幸太郎 新潮社 2007-11-29 by G-Tools |
首相暗殺の濡れ衣を着せられた男が、国家規模の陰謀から逃れるというSFミステリ。
舞台は、現実の日本とある程度地続きでありながら、
- 首相が国民による公選制となっている
- 仙台をモデル都市として監視カメラおよび電波の傍受分析を目的としたセキュリティボットが置かれている
という2点において、顕著に現実と異なる。
そう言う意味で、かなり近いけど近未来、みたいな感じ。
非常に面白くて、気がついたら朝でした。
仕事なのに…(苦笑)
ただ、読んだあとで少ししっくり来なかった点があって。
それはきっと僕がひねくれてるんだと思うけど、話がちょっと上手く行きすぎじゃねーか?と。
具体的な違和感を言うと、
…といっても、この舞台を現実の日本として、ということだけど、
国民のメディアに対する不信感が、現実よりも強すぎるんじゃないかと。
国民全体の一般的な感じとしては今でも、
新聞やテレビが“報道しないこと”に目を向ける人はそうは多くない。
特にWEBを余り利用せず、情報ソースを新聞またはテレビだけに頼っている人は。
多分、国民としてはそれが普通だと思うんだけど、
主人公の周りに現れる人達は皆一様に、
無条件にマスコミや警察を疑い、主人公の無実を信じてくれる。
いやぁ…国家的陰謀ではなくただの冤罪であってもココまで楽ではないんじゃないのと。
読んでる間はもの凄く没入して、疑問に思わなかったんだけど、
読んでから時間が経つほどにそんなことを思ったり。
ただ同時に、僕自身はWEBにかなり頼り切ってる人間で、
自分自身はメディアその他の報道に対して、常に疑うとまではいかなくても、
それが信じられるかどうか?という判断は必要だと思っている人間であり、
新聞に書いてあったことや、テレビでキャスターが喋っていたことを、
無邪気に鵜呑みにして鸚鵡返しに喋って喜んでる大人は、
もうちょっと色々考えた方が良いよ、と思っているわけなので。
そういう僕にとっては、この小説に描かれた社会はそんなに嫌いじゃないかなと。
でもその一方で、都市にプライバシーを事実上無くすようなブツが置かれて、
それを容認しているような空気もあって。
その辺は何か矛盾してるかなぁ…とも思う。
今、『WEBでは…』というお決まりの接頭句を付けてしか伝えられないような意見が、
実際に世論の一部分を形成するようになったとしたら、
このセキュリティボットを放っておくかなぁ…とか。
いやでも案外、そういうことに対しては声が集まらないのかもな…
理由として、『凶悪事件を防止するため』という前提もあるわけだし。。
新聞やテレビに不信を抱くことで、結果的に信頼できるソースが政府のみになってしまい、
情報に深い判断をしたくない人たちが政府の発表に対して、
盲信的になっている社会なのかもしれないな。。
うーむ。
深い。
小説の本筋のストーリーとは別に、この小説の舞台となる日本は、
現在の日本の状況をある程度極端に進ませてみたシミュレーション結果なのかもしれない。
そうやって読んでみても面白いかも。